67

『やっほー、正チャン。元気ぃ?』
『え、やだ、なにそれ可愛い』
『でっしょー。静玖ちゃんもそう呼びなよ』
『いやいや、正一くんは正一くんだよ』
「ちょ、え、えぇえええ!」

画面の向こう、白蘭さんの隣でにこにこと笑いながら手を振る友人に、僕の胃はきりきりと痛み出した。

「静玖ちゃん?!」
『久しぶり、正一くん。今ねー、白蘭に軟禁されてるんだ。その報告に外線を繋いでもらっちゃった』
「そんな………」

ずきずきと痛む胸と胃をそっと手で抑えると、白蘭さんはくすくすと笑い出した。

『ヤだなぁ、静玖ちゃん。それじゃあボクが超悪人みたい』
『白蘭みたいな善人いたら最悪だよね』
「静玖ちゃん、なんで白蘭さんのところに………」

誰もが聞きたいだろうことを聞けば、静玖ちゃんは首を傾げる。
それから、あれ、と小さく呟いた。

『白蘭、あの約束、正一くんは把握してないの?』
『してないよ?』
『あのね、正一くん。私と白蘭は、綱吉が死んだら白蘭の下に来るって約束をしていたんだ』
「なっ───」

綱吉君は死んでないっ、と言いそうになって、唇を噛んだ。
いけない、言っちゃいけない。
今ここで、白蘭さん目の前で言うわけにはいかないっ!!

『そう。静玖ちゃんは約束を守っただけ。なのにどうしてボクが悪人扱いされてるの?』
『そりゃあ簡単だよ、白蘭。君が私をこの基地から出さないから』
『えー、だってぇ』
『テメェの行動振り返ってからごたごた文句言ってくれる?』

………あれ。
今なんか、静玖ちゃんらしくない言葉が聞こえたような………。

『静玖ちゃん、怒ってる?』
『怒ってるよ? 正一くんと2人きりにしてくれないから』

かぁっと頬が赤く染まる。
いや、きっと静玖ちゃんには他意はない。他意はないはず………!

『しょうがないなぁ。5分だけだよ?』
『君が居ないなら充分っ』
『ひどい………』

泣き真似をしながら白蘭さんがモニターから消えた。
小さくぱたん、という音が聞こえたから、通信室から出て行ったんだろう。

『………正一くん』
「静玖ちゃん、あの、沢田綱吉とは、どういう関係?」
『あれ、知らない? 幼なじみだよ』
「そ、そう、なんだ」
『だから私は、大丈夫』
「え?」

モニターを改めて見上げれば、そこにはいつもの静玖ちゃんが。
───そう、僕が好きになったありのままの、静玖ちゃんが居る。

『私は大丈夫だよ。私の逃げ道を、彼自身が作ってくれたから』
「───静玖ちゃん!」
『うん?』

沢田綱吉が、死んだら。
だから静玖ちゃんはミルフィオーレにいる。
だけど、

(沢田綱吉が『生きて』いたら───?)

ズレた眼鏡をかけ直す。
おかしい。その事実を知っているのは、僕と綱吉君本人と、雲雀さんだけなのに。

「君は、一体………」
『大空を失った痛みは今でも覚えてる。綱吉の時はそれが無かった。………それに、まだ棺桶を見に行ってないし』
「そっか」

一瞬見せた翳りをすぐに消して、くすくすと笑う静玖ちゃんは、昔の子供の頃のままのようにも感じられるけど、やっぱり育った部分はあるんだろう。
僕も、静玖ちゃんも、それは変わらない。

「………君が無事で、本当に良かった」

例え白蘭さんの下に居たとしても、こうやって元気な姿を見れたことは本当に嬉しい。
───あぁ、僕はなんて現金なんだろう。
ずっと昔から持っていた感情の花は今も尚開花したままだからこそ、僕はゆっくりと口を開く。

「後で花を贈るね?」
『私に?』
「君に似合う花を見つけたんだ」

受け取ってくれると嬉しい。
そう言えば、静玖ちゃんは首を傾げながらにこっと笑った。
がちゃ、と再び小さな音が聞こえる。
静玖ちゃんの向こう側に見えたのは、やっぱり白蘭さんだ。

『5分だよ』
『ん。じゃあ、正一くん、楽しみにしてるね』

ぷつっとモニターが消える。
あぁ、本当、白蘭さんってば容赦がない。
それでも、

「チェルベッロ、紫のライラックを用意してくれるかい?」
「入江様、それは………」
「うん、ちょっと気障かな」

愛の芽生え、なんて。

だけど僕が彼女に贈れる言葉なんて、それしかない。




- 68 -

[] |main| []
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -