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ハルちゃんとはいまだ手を繋いだまま、みんなの話し合いに参加しようとしていた。
綱吉は何か言いたげにしていたけれど、それはちょっとだけ無視させてもらった。
今の私では対処しきれない気がするから、ごめんね、綱吉。
………の、だけれど、

「とぅ!」
「! 深琴さん」
「深琴ちゃん?」
「ハルちゃん、妹がお世話になったね! 後はわたしが引き受けるから」
「えぇ、駄目です。今の静玖ちゃんにはハルが必要なんですから」
「それはハルちゃんが決めることじゃないよ。ね、静玖」
「うーん………。でも私、ハルちゃんがいないと呼吸出来ないし」
「はひっ」
「ん゛ん゛!!」

手刀で私とハルちゃんの繋いだ手を離した深琴ちゃんがそのまま私の腕に腕を絡めて抱き着いてきた。
ハルちゃんがいたからこそ呼吸がしやすくなったのは事実なのでポロッと思ったことを言えば、ハルちゃんは大きく身体を震わせるし、深琴ちゃんはなぜか唸ってしまった。
えぇ、なんで。

「いっ、いつの間にそんな身体にされてしまったの、静玖………!!」
「んー、それは語弊があるなぁ。それだとハルちゃんが悪いみたい。悪いのは私の方だよ」
「どっ、どど、どういうこと」

動揺しすぎでは。どうしたの、深琴ちゃん。

「私が勝手に、ハルちゃんがいないと困るようになってしまったんだよ」
「ひょぇっ」
「もっと正しく言うなら、ハルちゃんは私の救世主みたいなものだよ。だから深琴ちゃん、そんな悲しいこと言わないで」
「わっ、わたしの静玖がっ………!! わたしの静玖がぁー!!!」

さっきまで人のこと口説き魔みたいな言い方してなかった?
ねぇ、ちょっと?
いや、でも、うーん。

「まだまだ深琴ちゃんだけの妹だから心配しなくても良いのに」
「!!! ど、どうしたの、その大盤振る舞い。この後何かあるの?!」
「え、いや、何もないけど………?」

深琴ちゃんの方こそどうしたのだろうか。何かやらかしたかな、私。
いやたぶん、さっきのあの変な感じのことで心配させたのはわかるんだけど、それにしたってなんか深琴ちゃん、変では?

「そろそろ良いかな? 静玖ちゃん、辛くはないかい?」
「うん、大丈夫。ありがとう、正一君」

なんてじゃれ合っていたら正一君に窘められてしまった。さらに言うなら、心配もされてしまった。
座ろう、と促してきた深琴ちゃんの隣に座ると、ぴったりとハルちゃんが隣に引っ付いて座る。さらに言うなら、彼女の手は私の背中を緩やかに撫でていた。
彼女の、私のことを気遣ってくれる優しい気持ちがとても嬉しい。
感謝の気持ちを込めてちらりとハルちゃんを見れば、ぱちんと器用にウィンクしてくれた。
え、私、ウィンク出来ない。凄いなぁ、ハルちゃん。
ハルちゃんに頷きを返してから深琴ちゃんに視線を向ければ、こそり、耳元に唇を寄せて小さく呟いた。

「ツーちゃんが入江さんに協力求めたの。作戦隊長、みたいな?」
「あぁ、なるほど」

だから正一君からストップが掛かったのか。
お世話掛けます、と正一君に視線を戻す。正一君は少しだけ身体を起こして、口を開いた。

「まず今の戦力の確認だけど、負傷していて前線で戦えそうにないのが、獄寺君にバジル君、ラル・ミルチに了平君に野猿と太猿だね」

なんて正一君が言えば、負傷者みんな、まだ戦えるとか、大丈夫とか、自分を奮い立たせる言葉を口にしていた。
血の気が多い、と言うべきなのだろうか。後、若さ? いや、私が言うのもなんだけれども。
わちゃわちゃ反論しているみんなを止めたのはリボ先生の銃声だった。
普段の生活では決して聞くことのない音にびくっと身体を震わせる。それはハルちゃんも一緒だったようで、私の背を撫でていた手が止まっていた。

「びっくりしたね」
「はい、慣れませんね」

そっか。私よりずっと綱吉やリボ先生と関わっているハルちゃんでも、これは聞き慣れないのか。いや、これは聞き慣れるべきではないよね。

「次に今使える匣兵器を確認しよう」
「なぁ、おい、先刻の戦いで雨イルカ(デルフィーノ・ディ・ピオッジャ)を見たが、ありゃ誰んだ?」
「…………拙者のアルフィンだ」

γさんの声に、バジル君が答える。よし、アルフィンちゃんね、覚えた。

「でるふぃーの?」
「うぅんと、えぇと、イルカのことだった気がする」
「なるほど。…………そう言えば、海の生き物たちは当然のごとく空を泳ぎますね」
「身に炎を纏ってるからねぇ。たぶんそれが、彼らの『海』を模してるんだと思う。たぶん。………うん、私もよくわかってないけど」

思わず後ろ手でレナの匣を撫でる。そう言えば、結局詳しいことを知らないなぁ、私。
あ、そうだ。

「はい、正一君!」
「はい、静玖ちゃん。何かな」
「私の匣兵器たちも出すべき?」
「そうだね。ちゃんと確認したいから、見せてくれると嬉しいな」

挙手して聞いてみれば、正一君がこくん、と頷いた。
ハルちゃんに断りを入れてからちょっと彼女から身体を離して、
深呼吸をしてから指輪に炎を灯す。
そっと静かに匣に炎を注入する。ぱこん、と開いたそれから出てきたレナは宙を舞い、ルピナスはちょこりと私の隣に座った。

「かわいいです! お名前は?」
「狼の方がルピナス。鯨の方がレナ。どっちも私が名付けたわけではないから、由来とかはよくわからないんだよね」

いや、レナのことは知っているのだけれど。ルピナスの方は知らないなぁ。
こっちの『私』がどういうつもりで付けたのだろう。いや、まぁ、良いのだけど。可愛いし。うん、ルピナス可愛いし。
おいで、と手招けば、わぁい、と喜んで私の膝に登ってくる。これが兵器とは一体。とても可愛い。
ルピナスの頭を撫でている間、γさんがバジル君になんだか難しいことを言っていた。
ぶ、ぶれ、え? 何だって?
“ボックス間コンビネーション発動システム”?
バジル君のアルフィンちゃんを使えば、匣兵器たちでコンビネーションして何か出来るってこと? それ凄くない?
ぱしゅぱしゅ、と至るところで匣が開けられる。

「わぁー、さすがにこれだけ揃うと壮観だね!」

なんて、久々に聞いた正一君の明るい声に、私も笑みが溢れる。

「後は雨イルカがブレインコーティング用の技を掛けるだけだ」
「はい、ではいきます!」

そうバジル君が言ったのに、なぜか小さなライオンが綱吉の背に隠れてしまった。

「あ、こら、ナッツ! 行かなきゃ駄目だって」
「ナッツ………?」
「ツナさんのアニマルちゃんです」

背に隠れるライオンに困った声を上げる綱吉と、そんな彼が名前を呼んだものの、それがなんだかわからずに首を傾げた私に、ハルちゃんがこそりと補足を入れてくれた。
ありがとう、とハルちゃんに返していると、瓜ちゃんが隼人君のもとから飛び立ってナッツをふみっ! と踏んでいた。
あらま。

「こら、瓜!! なんて恐れ多いことを!!!」

なんて隼人君が言っても瓜ちゃんは気にせずナッツに絡んでいる。
あれ、かまって欲しいんだろうなぁ。
ルピナスを膝から降ろして、傍に行っておいでとその背を押せば、ちらっとこちらを見たルピナスは、くふん、と鳴いてからじゃれ合っている………いや、ナッツ的にはじゃれ合ってはいないのだろうけれど、まぁ、とりあえず二匹のところへ行った。

「にゃおん!」
「ガォ!」
「わふ」

その鳴き方、犬では???
いや、鳴き方的には同じで良いのかな?
挨拶を交わした3匹の様子を見ていると、ナッツはルピナスの鼻に鼻をちょん、と当ててそれからにこっと嬉しそうに笑った。

「あっ、あいつ、戦いのとき以外は臆病なのに…………、やっぱりあの子が静玖のものだってわかるのかな?」

綱吉の呟きに、そうだと嬉しいな、と素直に思う。
思うのだけれど、よくよく考えれば今、きゃっきゃとじゃれ合ってる場合ではないよね。
ほら、えぇと、和んでる場合ではないよ!

「あ、」

三匹でじゃれ合っていたら、空からちょっとだけ降りたレナが、その尾ビレでぺちりとルピナスを叩く。落ち着きなさい、とでも言っているみたい。
落ち着いた三匹を確認した正一君が、緊張した面持ちで、ゆっくりと口を開いた。

「じゃあ、これから作戦会議を始めるよ」

戦えない私に、一体何が出来るのだろうか。

その不安はハルちゃんも深琴ちゃんも持っていたらしく、固まっていた三人は静かに息を呑むのだった。



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