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ユニの予知能力で、ミルフィオーレがどこから攻めてくるのかわかるらしい。
そんなに能力乱発してて大丈夫なのだろうか。枯渇していて、さらに衰えてきてるんでしょう?
いくらユニ自身が白蘭に捕まらないようにするため、私達が過去に帰るため、とは言え、少し心配になる。
大丈夫かな、とちらりとユニを見れば、ユニは静かに笑っているだけだった。
うぅん、さすがに私じゃ内心とかは読めないよね。大丈夫ならばいいのだけれど。
………いや、私がちょっと大丈夫じゃないのだけれど。
背中に添えてあったハルちゃんの手を目指して背中に手を回して、ハルちゃんの手を握る。そうしてそれを身体の前に持ってくれば、大丈夫ですか? と、ハルちゃんが小さな声で気遣ってくれた。

「ちょっと、ちょっとだけ頼るね」
「いえいえ。是非ハルを頼って下さい」
「静玖、お姉ちゃんには?」
「うん? 大丈夫だよ。ありがとうね、深琴ちゃん」

違う! と、言いながらひしっと引っ付いてきた深琴ちゃんにホクホクしつつ、綱吉たちの話に耳を傾ける。
守りの要、ねぇ。綱吉は最終兵器(この言い方が正しいかはわからないけれど)だし、山本君はここにはいないし、かと言って隼人君もバジル君も怪我人だけれども、どうするのかな。

「そいつは俺がやらせてもらうぜ。敵に黒狐(ネレ・ヴォールピ)の技が読まれてるってんなら、裏コードの技を使うから心配はない」
「俺もいきます!」

ってなんで隼人君そこで立候補するかな?!
ぴゃっと私が肩を震わせれば、リコリスも同じようにぴゃっと身体を跳ねさせた。え、可愛い。
うーん、私はどうしたら良いのだろう。正直、二回目があった時点で三回目がないわけではないたろうし。
ハルちゃんの手を握っていない方で胃のあたりを撫でる。とりあえず、出来る事なら綱吉の前で吐きたくはないなぁ。

「獄寺君、ケガしてるじゃん!」
「なーに、大丈夫っスよ。怪我人の中じゃ一番軽いぐらいっス」
「おいおい、ろくに立てねーくせに無理すんな! 背中やられたんだろ? 背中はやばいぜ」
「うるせぇ! ボスの右腕としての気合いがテメェとは違うんだ!」

それは、ただの叫びではなくて。彼の言葉は決して軽いものではなくて。

「俺はチョイスでも失敗しちまってる。このままじゃあ十代目の右腕として失格なんだよ!」
「獄寺君………」
「オレも行くぞ」
「んな?! ラルまで?!」
「動けなくても獄寺と共に守りの砲台ぐらいにはなるはずだ」

ラルさんまで。
………でもそっか、どんな怪我をしていても、それぞれがやれることをやらなきゃ駄目ってことだよね。

「見ていて下さい、十代目。ボンゴレ守護者の誇りにかけて敵を倒してみせます!」

そう言った隼人君の顔に、焦りも生き急いでいる感じもない。
綱吉の顔を見て言った隼人君に、綱吉はなんて返すのだろうか。

「………駄目だ、獄寺君。許可………できない!」
「!」
「わぁ」

一人、うっかり気の抜けた声を出してしまったのでそっと口元を抑える。
そっか、綱吉、『許可できない』って言うんだ。綱吉、それね、本人は嫌だ嫌だと言ってはいるけれど、あれだよ。
十代目として隼人君の『上』にいることを認めてるって言うか、受け入れてるってことになりそうなんだけれど、わかっているだろうか。
………わかってなさそうだけれど。揚げ足取られなければいいけどなぁ。

「まだ獄寺君、右腕とか言って………、右腕とかボンゴレの誇りとか………どうでもいいのにっ、そんなことのために命をかけてほしくないんだ!!!」
「っ………! 悪ィけど、従えません!!」
「!!!!」

ぎゅっと唇を噛み締めた後、眉をきつく寄せて、そうして口を開いて出てきた言葉がそれだった。
リボ先生がはじめて逆らったな、なんて茶化しているけれど、それどころではない、よなぁ。

「………俺が言いたいのは、同じ言葉でも昔の俺とは言っている意味が違うってことっス………」
「? 昔と違う………?」

昔? 昔ってなに? 君たちこんな大変なことそんなにやってるの? ………あ、やってたか。えぇと、骸君の並盛襲撃と、ザンザスさんたちとのリング争奪戦のことだよね。
えっ、昔って言うほど昔じゃないって言うか………、君たち短期間の間に命のやり取りやりすぎなのでは? 大丈夫? 肉体的にもメンタル的にも大丈夫?
いや、私は私で、人のこと心配している場合ではないんだけれども。

「俺は今でも十代目の右腕になることが目標ですし、生きている証です………。ですが、たくさんの戦いをご一緒していて十代目の求めている右腕が、俺の考えていたただ強くて命知らずじゃないってやっとわかったんです」

うぅん、結構重いなぁ、隼人君の気持ち。茶化して良い内容ではないし、私が触れていいことではないから口にはしないけれど。
生きている証、か………。

「もう俺の目指す右腕は昔とは違います。俺の目指す、ボンゴレ十世の右腕は―――ボスと共に笑い、そのために生き抜く男です!!」

そう言った隼人君の顔は、実に晴れ晴れとしていた。
良いな、格好良いな。ああいう信念、羨ましい。
目指すもの………目指すものかぁ。今はまだ、何もない。
つきり、胸の奥が針に刺されたように痛む。それと同時に、ふ、と身体から力が抜けていくのを感じる。
綱吉や他の人にバレないように小さく息を飲んで、痛みに顰めてしまった顔を反らすようにハルちゃんの肩へと頭を預けた。

「静玖ちゃん………?」
「ッ、ん、ごめ、ごめん。ちょっと………」
「静玖………………?」
「大丈夫、大丈夫だから、大事にはしないで」
「静玖、貴方―――」
「――――――駄目、綱吉がこっち気にするから、駄目だよ、深琴ちゃん」

三人で引っ付いている分には、まだじゃれ合っていると取ってくれるだろう。
だから、今はまだ誤魔化せる。でも、声を上げたらもう無理だ。綱吉にも、リボ先生にも誤魔化しなんて効かないだろう。
それはそれで、とても困るのだ。

「こんな青白い顔して………、どうしても、ツーちゃんには言えないの?」
「言えない、言わない。私が言いたくないから、言わない」
「わかった。でも、『うっかり』口を滑らせたらごめんね?」
「もう、滑らせる気満々なの隠せてないよ、深琴ちゃん」

からかい混じりの柔らかい声に、そう返す。バラされるのは勿論嫌だけど、でも、先に宣言をもらってる辺り、こちらも少しは気が楽だ。
私がハルちゃんに引っ付いて、そんな私に深琴ちゃんが引っ付いて、そんな体勢でいる私達を、ちらりと見た綱吉は、仕方ないなぁ、って言わんばかりの顔をしていた。
―――あぁ、良かった、まだ誤魔化せてる。
綱吉がいつまで騙されてくれてるかわからない。リボ先生がいつまで何も言わないでくれるかわからない。
出来る事なら、知られないまま治ると良いな。そんなこと、あり得ないだろうけど。
………………ユニの方は、ちょっと怖くて見られない。これ以上、彼女に恐怖を抱きたくない。
痛みを無理矢理やり過ごしながら、綱吉たちの話に耳を傾ける。
湖の方向には、了平先輩が行くそうだ。―――ランボ少年を伴って。
小さいけれど、幼いけれど、守護者だから。必要だから。彼が選ばれたことには意味があるから。
そんなことをリボ先生が述べている。まぁ、納得出来るかと問われると否なのはわかるのだけれど、了平先輩はそうではないみたい。
先輩のそういうところ、凄いんだよなぁ。
………………あぁ、でも、そっか。『守護者』か。
左手を握り締める。中指を彩る指輪は、今は私だけのもの。
少しずつ身体に走った痛みが薄まっていくのがわかったので、私もそろそろ動かなければと意を決する。
ミルフィオーレの目的はユニの確保だ。なんでか私まで狙っている。それなら、

「―――――――――綱吉」
「静玖?」
「私………、私も隼人君のチームに入る」
「は?!」

ハルちゃんから身体を離して、身を正す。
深呼吸をして、それから改めて綱吉を見た。

「ターゲットは分散すべきだよ。ユニと私は傍にいない方がいいと思う」
「まあ………まぁ、確かにな? だが、静玖。獄寺もラルも怪我人だ。γはお前よりユニを優先するだろう。だとしたら、お前がツナから離れるのは得策じゃない」
「まぁ、そうですね。でもそれが何か?」
「静玖………?」
「ねぇ、リボ先生。勘違いされては困るのだけれど」

そうだ。勘違いされては困る。
『私』が綱吉の言うことに、リボ先生の言うことに従わなければならない理由はない。

「私は隼人君たちに守ってほしいからあのチームに入りたいとは言ってない。誰かが守ってくれるから、なんてそんなものに縋るつもりはありませんよ」
「俺達じゃお前を守れないってか?」
「そうじゃないよ、隼人君。そうは言わないけど、だからってそれを当てにするのは好きじゃない。これはただの好みの問題」

右手で指輪を撫でる。
ごめん、綱吉。ひどいことを言うね。

「もう一度言うね。勘違いされては困るんだ」
「静玖?」
「『私』が君の命令を、リボ先生の提案を無条件で飲まなればならない理由はない。そうでしょ?」
「何を言って―――」
「私は君のものではないもの。『私』が『十代目』と『十代目の家庭教師』の命を聞かなければならない理由はないよね?」

にっこりと笑う。笑顔だ。こういう時は笑顔でゴリ押せ。たぶん。うまくいくかは賭けだ。
でも、譲れない。ここで譲ると、たぶんユニと一緒にいることになる。それはちょっと困る。とても困る。ユニのことはちゃんと好きだと思うのに、どうしても怖くて。その感情を抱きたくないから、出来るならば距離を取りたい。
後、これも出来る事ならばであるのだけれど、やっぱり綱吉の前で血を吐きたくない。

「私は九代目の『雪』であって、『十代目候補』たる君の『雪』ではないよ。だから、少しのわがままは通させてもらう」

ティモの『雪』であることは事実ではあるのだけれど、それを盾に幼馴染みを突き放す自分を、酷いやつだと内心で罵っていた。




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