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知りたいとは思っていたけれど、あまりにも想像とかけ離れた現実に、頭が痛くなってきた。
嘘でしょ、未来の私は何をやっているんだ。
って言うか、私ってば、そう育ってしまうのか。
いやだ。やだ、

「そんな悪い子に育ちたくない!」

わあぁあん! とスペルビに泣き付くと、彼はポンポンと優しい手で背中を叩いてくれた。
視界の端っこで山本君もうんうんと頷いていた。

「思っていた以上にアレだな。静玖ってば、お転婆と言うか、」
「お転婆?! そんな生易しい言葉で未来の私が表せる?!」
「お前、未来とは言え、自分のことに厳しくねぇかぁ゛?」
「自分だから厳しいんだよ?!」

自分に優しくしてどうするんだろう。
それより、未来の私はこの後始末、どうするつもりだったのだろう。「私」に投げるつもりはなかったとは思うのだけれど、私は彼女ではないからわからない。もし、私が解決しなければならないのならば―――………、いや、今はまだいい。
うううう、聞くべきだったのか否か、いやでも知っておくべきだったんだよね、これは。
もごもごと口の中で言葉にならない悲鳴と叫びを上げ損ないながら身を縮めていると、脇に手を入れられてひょいと抱えられた。
?!
ビクッと身体が震えた後に緊張で硬くなるのに、それを無視してスペルビはすぽん、と足の間に私を降ろした。

「スペルビ?」
「スクアーロ?」

私と山本君の声が重なる。
そんな私たちを無視して、スペルビはポケットから何か差し出してきた。
…………ベルベット生地の、四角い箱。
なんぞや、と思いつつ、彼の顔を見上げれば、開けろ、と顎で指し示してくる。
私が開けるの?
スペルビの手からそれを取って、ぱかりと開けて、私の目も大きく開いた。

「っ―――、あっ、えっ、やった、わぁ、」

ぽろぽろこぼれ落ちる言葉は言葉として成り立ってはいなかったけれど、私が喜んでいるのはしっかりわかるのか、山本君がにへ、と笑ってくれていた。
スペルビが持っていた箱に入っていたのは、ずっと待ってたピンキーリング。
私の、ピンキーリングだ。

「ありがとう、スペルビ! 誰か持ってるかわからなかったし、最悪、あの、本当に最悪、手元には戻ってこないかなって思ってた」
「はぁ? それはお前のだろうがぁ」
「それはそうなんだけど」

それはそうなんだけれども、誰が預かっているのかもわからなかったし、いつ戻ってくるかもわからなかった。本当に、最悪の場合、私の手元に戻ってこないこともあっただろう。
それがちゃんと返ってきた。こんなに喜ばしいことはない。
そっと箱から取り出して、左小指に填める。
キラキラと輝くそれに、あれ、と首を傾げた。

「綺麗になってる?」
「磨いといたぞぉ」
「うっわ、ありがとう、スペルビ!」
「それが静玖が言ってたピンキーリング? あの、発信機の付いてる?」
「うん」
「お前、知ってて着けてるのかぁ………………?」

頭上から落ちてきた言葉に、こくん、と頷く。
だって、私の身を守るものだし、ティモがくれたものだし、可愛いし。
ちょっとスペルビの声が引いていたのは無視しておこう。

「静玖、ヘッドホン外すぞ」
「え、なんで、」

嫌だ、と言う前に、スペルビの手で外される。
それが右耳だけだったから、アジトを出る前の綱吉の言葉が頭を過ぎった。
―――痛いのは駄目。
待って、と言う前に顎を触られる。ひぇっと悲鳴を上げると、そのまま上を向くように動かされた。
スペルビが、真剣な顔で私を見下ろしている。
え、何事………?

「あ、おい、スクアーロ、それ」

え、『それ』ってなに。
山本君の声に頭を動かそうとするけれど、顎を掴むスペルビの手の力が思いの外強くて動かなかった。



バチン!



「っぁ―――――?!」

痛い。いや、うるさい。
耳元で大きく響いた音にビクッと身体を震わせる。
ようやくスペルビの手が離れたので頭を真正面に向けると、ちょっと青ざめた山本君の顔が見えた。
え、なんで。なに………?

「スクアーロ、中学生にピアスは早くねぇ?」
「ピアス?! え?! 私、穴開けられたの?! なんで?」
「マーモンからの贈り物だぁ゛あ」
「マモ君?」

マモ君、なんで?
じくじくと痛むそこを撫でようとすれば手を取られ、スペルビがそこを何かでちょいちょいと拭った。
え、なに。
って言うか、どうなったの、私の耳。
スペルビの腕を掴んで、彼から立ち上がって離れる。こんな私ではあるけれど、手鏡ぐらいは持ち歩いている。
アジトから持ってきたかばんを漁って鏡をください探し出し、自分の顔を写す。
右耳には、青と藍色の狭間の色をした宝石がキラキラと輝いている。
………………あぁ、うん。確かにマモ君の色の感じがする。見たことはないけれど、いや、おしゃぶりの光は見たけれど、そうじゃなくて、マモ君の色だと、そう感じる。凪ちゃんとも、骸くんとも違う色。
マモ君だけの色だ。
………………………………………………………………じゃなくて?!

「どっ、どうするの、これ! なんで、マモ君! いや、嬉しいけれども………!」

アクセサリーを贈られるなんて、そうそうあることじゃない。だから嬉しい。しかもそれがマモ君からなら、尚更。
でも、それとこれとは別だよね?

「まだあるぞ」
「何が?!」
「お前に渡すものだぁ゛」
「貢がれてるなぁ、静玖」
「うううううう」

山本君に………第三者に言われると、自分の置かれている状況が変なのがよくわかる。
なんで貢がれているんだ、私。
嬉しいような、嬉しくないような、それでいて、とても恥ずかしいことのようで、唸るしか出来なかった。

「ほら、こっち来い」
「うぐぐぐ」
「ははっ、なんで唸ってんだ、静玖。貰えるもんは貰っとけって」

けらけらと笑う山本君は、どう見ても他人事だからと楽しそうだ。
く、くそぅ。
ちょいちょいとピアスの宝石をいじって、それから深呼吸。
スペルビは黙ったまま私を見ていて、そっちに行くのを待っている。
鏡をかばんにしまって、彼の元へと歩みを進める。
木の幹に座っているスペルビの前に立てば、彼は何故かその幹から立ち上がった。

「―――――――――――――――えっ」

立ち上がったのに、改めて膝を着く。そう彼は、私の前に跪いた。

「ヴァリアーより、九代目の『雪』へ」

跪いて、頭を下げて、そうして差し出された匣に、すぐに手が伸びることはなかった。



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