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俺とスクアーロの刀と剣で薙払ってしまった木に腰掛けて、はむ、とスクアーロがコンビニで買ってきたおにぎりを食べながら、目の前の二人を見る。
俺と同じように倒木に座っているスクアーロの隣に、静玖が座る。これは別に何の問題もない。問題はないけど、

(近くないか………………?)

ぶん殴られて、気を失って、いつの間にか外へ連れ出されてて修行だ! ってのは良いんだよ。俺も待ってたとこあるし。
スクアーロが俺の師匠なのもわかる。
それに静玖が着いてきた………着いてこさせた? のはちょっと意外だったし、それに素直に静玖が着いてきたことにも驚きだった。
その静玖は今、スクアーロの隣でちまちまとおにぎりを食べている。
その首には見たことのないストールを巻いていた。
そんな静玖を、スクアーロが険しいと言うか、厳しいと言うか、でもどっか優しそうな顔で見ている。表情が複雑だ。

「………………なに?」
「いや」

ちらっと静玖がスクアーロを見上げる。スクアーロはくいっと眉を吊り上げて、それから短く返答した。
はむ、と最後の一口のおにぎりを頬張った静玖は、もくもくと咀嚼を繰り返して、ごくん、と飲み込むと、かばんからウェットティッシュを取り出して手を綺麗に拭いた後、そうだ、と何か思い出したように瞳を煌めかせた。

「ちょうど良いや。結局雲雀先輩も入れ替わっちゃったし、草壁先輩は先輩で雲雀先輩と一緒にいるし、かと言ってディーノさんには聞きにくいことがあったんだけど、」
「あ゛?」
「それ、俺も聞いていいヤツ?」
「問題はないと思うよ。………ねぇ、スペルビ、隠さないで聞かせてほしいんだけど」
「なんだぁ」
「未来の私は白蘭に対して何をやらかしたの?」

それは、ほぼ核心を持った声だった。

「なぁ、静玖、それってどういうことだ?」
「深琴ちゃんが誘拐された件について、なんだけどね」

無い頭を絞っていっぱい考えたんだけど、と前置きをして、深呼吸をしてから再び口を開いた。

「まず大前提として、綱吉に対しての人質だったら、深琴ちゃんだけでなく、私、京子ちゃん、三浦さん、くーちゃん、イーピンちゃん、誰でも良かったはずなんだ。それはわかるね?」
「戦う力を持たない、もしくはそこまで戦い慣れしてない前提を置いて、ツナの大切なヤツってことな?」
「そうそれ。まぁ、あの時の私は戦えないくせに君たちと一緒にメローネ基地にいたし、くーちゃんは『霧』の守護者だし、イーピンちゃんも一般人ではないんだっけ? それを考えると、深琴ちゃん、京子ちゃん、三浦さんの三人に絞られるわけ」

左手の一本と、パーに開いた右手。それぞれの名前を挙げると同時に折っていけば、三本だけ残った。

「どこで深琴ちゃんが誘拐されたかはわからない。………ん、いや、私が知らないだけかもしれないけど、」
「ジャンニーニが言うには、アジトの近くだって言ってたぜ」
「だとしたら、ほぼほぼアジトの場所、知られてる可能性あるねぇ………じゃなくて、アジトの近くなら、それこそ深琴ちゃんである必要なくない?」

確かに。
だってすぐ側にアジトがあるのだ。わざわざ人質を取る必要なくアジトを襲撃したっていいし、深琴だけでなく笹川たちをも連れ去ってしまっても良かったはずだ。
だけど、それをしなかった。

「………………深琴でなければ、ならなかった?」
「そうそう。そこが引っ掛かるんだよねぇ。………対綱吉の人質なら、深琴ちゃんである必要がない。………………じゃあ、私は?」
「は?」
「対私だったら、誰を引き合いに出すか。誰を連れ去るべきか。当然、絞られるよね」

最後の一本。右手の人差し指だけが残る。
その指をくるくると回して、隣に座っているスクアーロを改めて見上げた。
どうなの、と言う視線を受けて、スクアーロははぁ、と深くため息を吐いた。

「オレも詳しくは知らねぇなぁ」
「嘘だぁ」
「嘘じゃねぇよ。未来のお前は、お前が思っている以上に秘密主義だし、報、連、相ってなんだって言わんばかりだぞぉ」
「えっ」
「静玖が?」
「引きこもりだしな」

あ、それはなんとなくわかる。

「待って待って、山本君。引きこもりで納得しないで?! そこまで引きこもってないよ、私は!」
「いや、そこは問題じゃねぇ゛」
「問題じゃないの?!」
「一人で勝手に決めて、一人で勝手に準備して、一人で勝手に終わらせて、さらに報告しねぇとこが駄目だ」
「いやそれは駄目でしょ。待って、未来の私、人間として駄目なんじゃないの。私、そんな風に育つの?! 嘘でしょ?!」

ひぇっと頭を抱える静玖に、確かにそんな風に育つとは思えないので、黙ってスクアーロを見れば、彼は彼で楽しそうに笑っていた。
………あ、これ、半分ウソだな。
そんなスクアーロの表情を読み取って、むぅ、と静玖がむくれた表情を作る。珍しい。………じゃねぇな、単純に、俺の前でしない表情なだけだ。

「スペルビ、からかうのは無しだよ。真剣に聞いて、真剣に答えて」
「まぁ、お前の考察は間違ってねぇと思うぜ?」
「………………理由は?」
「この時代のお前は、沢田綱吉が死んだらミルフィオーレに行くという約束を白蘭と交わしていたらしいからなぁ」

え、と俺と静玖の口から同じ言葉が漏れる。
待て、それって、

「私、白蘭に会いに行った、ってこと………?」
「会いに行ったっつーより、あれは自ら捕まりに行ったが正しいんじゃあねぇかぁ?」
「そ、それで?」
「んで、自力でミルフィオーレから脱出して日本に来たってとこだな。詳しいこたぁ誰も知らねぇ。お前の真意も。お前の護衛たちすら知らねぇ゛」
「待って」

静玖が両手で頭を抱える。気持ちはわかる。
それってつまり、自ら敵陣に行って、そうして、何かしらやって己の力で帰ってきた、ってことだ。
そりゃあ、目を付けられるだろ。いい意味でも、悪い意味でも。

「やらかしてる。それじゃん。深琴ちゃん巻き込んだの間違いなく私だ!!!!」
「…………わりぃ、静玖。否定出来ない」
「いいよ、しないでいいよ、山本君。そんな慰めは要らない」
「雲雀は知ってたはずだぞぉ。お前、何を思ったのかミルフィオーレに行く前に、雲雀と会ってるって雨が言ってたぞぉ゛」
「うわぁあ! もう、もう! 本当に! 何を! 考えてるの! 未来の私は!!!」

頭を抱えて、と言うよりは最早頭を掴んで唸る静玖を、宥めるようにスクアーロがその手で頭を撫でた。
いや、本当に、二人の関係がわからない。
静玖、リング争奪戦の時、ちらっとしか居なかったよな?
………………いや、それより。

「ツナが死んだらミルフィオーレに行くって約束したってことは、ミルフィオーレに行くより前に白蘭に会ってたってことだよな?」
「確かに………」

頭からようやく手を離した静玖は、そのままスクアーロを見る。スクアーロは黙ったまま首を横に振った。
つまりは知らない、と言うことだろう。

「つまり未来の私は? 私の護衛たちや、ヴァリアーの君たちすら知らないところで白蘭と約束を交わして、雲雀先輩の手を煩わせるようなことをしつつ、敵陣に突っ込み、自力で帰ってきて、また雲雀先輩の手を煩わせた?」
「だなぁ」
「最ッ悪だ!!!!」

森の中に響いた静玖の声に、そうだなぁ、と俺もスクアーロもそう返すしかなかった。




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