帰ろう。
くんくん、と服の裾を引いて帰ることを促す凪ちゃんは、さっきから顔が赤い。
どうしたの、何かあったの。
そう聞いても、凪ちゃんは首を横に振るだけ。
えっと、うん?
「駄目。火傷しちゃう………」
「?!」
「あ、違うの。えっと、あの、嬉しいこと、だよ?」
「凪ちゃん、怪我はしてないんだね? 大丈夫なんだね?」
「うん。これは、精神的なものだから」
ふわふわ、軽い足取りで走っていく凪ちゃんに連れられて走る。
どうしよう、なんか、凪ちゃんにしちゃったかな?
それとも、あのDVDの中に何か隠されたメッセージでもあったのかな。
………いや、なんか、違う気がする。
「凪ちゃん、あの、」
「わたし、………好き」
「え?」
「静玖ちゃんのことが、好きなの」
町中で突然美少女に告白されたんですけどこれどうしろって言うの………!
「静玖ちゃんが、大事で、大切で、骸様とは違った意味で、特別で」
「う、うん」
「そんな静玖ちゃんがわたしのことを頼ってくれた。こんなに嬉しいこと、ない」
「凪ちゃん」
「好きなの───好き」
熱に侵された瞳は蕩けていて、本当の睦言みたいに私に響いていく。
あぁ、あぁ、どうしちゃったんだろう。
なんで、なんで凪ちゃん、こんな私に告白めいたことを。
「だから、だから大切にしたい。わたしが護れるものは、少ないから」
「そんなことないよ、凪ちゃん。だって凪ちゃんは現に、綱吉を護ろうと頑張ってくれてるのに」
「うん」
「だから、その、えぇと、凪ちゃんは、」
この少ない時間で、何かあったのだろうか。
ぐるぐると定まらない思考の中、じぃと凪ちゃんを見ると、凪ちゃんは相変わらず熱っぽい視線を私に送っていた。
「だからね、絶対、帰ろうね」
「………………うん」
どこに、なんて、言わなくったってわかってる。
だから凪ちゃんは言わない。
………あぁ、言わなくちゃいけないことがあるのは、私の方だ。
「凪ちゃん」
「なあに?」
「アジトに戻ったら、私、眠るね」
「? うん」
「フィーに会うには、眠るしか方法がないから」
眠る。
淡い綺麗な色を宿した唇を震わせて動かした凪ちゃんは、その後じい、と私を見て、くすりと笑った。
「白雪姫みたいね」
「?!」
「帰ろう」
「う、うん?」
何がどうあってそういう結論に達したのかわからないのだけれど、凪ちゃんが楽しそうなら良い、かなぁ。
いやでも、うん?
「凪ちゃん、甘いもの買おう」
「………麦チョコ」
「麦チョコ? 好きなの?」
「うん」
「ん、じゃあ、買おう」
凪ちゃんの手をとって、きゅう、と握り締める。
アジトを出る際に持ってきたお財布の中身はそんなに入ってはいないけれど、麦チョコを買うぐらいなら然程痛くはない。
「絶対、護るから、ね」
ぽつり、小さく呟いた凪ちゃんの声は聞こえなかった。