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テレビに写るのは、今より少し成長した静玖ちゃん。
でも、今とあまり変わらないように見える。
えと。童顔? きっと、ボスも一緒なんだろうって、そう、思う。
ちらり、隣に視線を向ければ、目を見開いたままじぃ、と黙ってテレビを見つめていた。

『君がこれを見ている時、きっと君は窮地に立たされているんだろうね。………だからティモの手紙を探しにきた。でも、それは私のだから、君にはあげられないんだ。ごめんね』

どうやら、行動を読まれてたみたい。
きゅ、と口を閉じた静玖ちゃんは、相変わらずじぃ、と鋭い瞳でテレビを見ていた。

『このDVDと一緒に、匣が入っているよね?』

そろり、ゆっくりと静玖ちゃんの手が匣に伸びた。

『それは世界で唯一の雪の匣。ルデが考えて、正一くんが造ってくれて、雲雀先輩に隠してもらったもの』

ルデ………って、だれ?
首を傾げたわたしと同じように、静玖ちゃんも首を傾げていた。

『………あぁ、ルデって言うのは、アルコバレーノのヴェルデ、ね。呼びにくいからそう呼んであげて』
アルコ、バレーノ。
こくん、と息を飲むと、静玖ちゃんは押し黙った匣を大事そうに抱えた。

『ボンゴレの紋章がないのは、ただ単に私が九代目のものだから。紋章有りは十代の守護者たちで充分でしょう?』
「そっか、この時代のティモは………」
「………?」
「ん。なんでもない」
『その匣は、君にしか開けられない。中身はの雪狼(ルーポ・ディ・ネーヴェ)のルピナス………ごめん、私が名付けちゃったからそう呼んで』

ルピナス、とあまり口を開くことなくぽそりと呟いて、つるりとした匣を指の腹で側面を撫でる。
そんな静玖ちゃんは、どこか呆然としていて、だけど、無理矢理理解しようとしているみたい。
わたしもちゃんと、聞かないと。
静玖ちゃんを支えられるように、一緒に、考えられるように。

『雪の能力については、君の中のフィーに聞くといいよ。身近な人間の言葉が、一番身に染みるから。…………それから、』

ふ、と、テレビの中から音が消える。
少しだけ思案した未来の静玖ちゃんは、ふふ、とどこか楽しそうに笑って、それからあのね、と言葉を続けた。

『あまり信じられないかもしれないけど、雪の発生については、フィーの奥の扉へと行けばいいよ』
「奥の、扉………?」
『フィーの世界からだけ行ける、秘密の場所。私は運良く見付けられたんだけど、きっと過去の私なら大丈夫なんじゃないかな』

くすくすと場違いな程の軽やかな声が響く。
むむ、と眉を寄せた静玖ちゃんに寄り添うと、静玖ちゃんは少しだけ身体から力を抜いた。

『君にも、綱吉にも、他のみんなにも、とてつもない迷惑を掛けているのはわかってる。だけど、もう、どうしようも出来ないところまで来てしまったんだ』
「………………」
『哀しみの白の王を止めて。それが出来るのは君たちだけ。………暴走の淵へと堕ちてしまった彼を、』
「………止める?」
『本当に、心の底からの悪役は居ないよ。現実(リアル)すら創造(ゲーム)に変えてしまった彼を、………助けて、あげて』

祈るような声が響いて、DVDの映像は終わってしまった。
静玖ちゃん、と声を掛けると、ゆっくりと瞬いた静玖ちゃんは私に視線を向けて、それから徐に口を開いた。

「凪ちゃん、えぇと、このこと、内緒にしておいてもらっても良いかな?」
「え?」
「わざわざ、最悪の場合、見付けられないかもしれないような場所に隠してたんだ。穿った見方かもしれないけど、その、何かあるのかもしれない」
「それは、確かに………」

未来の静玖ちゃんが、未来の雲の人に頼んで隠していた。
何かあっても、良いような、感じ。

「静玖ちゃんが望むなら」
「ありがとう、凪ちゃん」

それから、と言葉を紡いで、ぽす、とわたしの肩に頭を預けた。

「少しだけ、こうさせて」

…………甘えられている。
そう認識すると、身体中が熱で犯されそうだ。
どうしよう、どうしよう!
顔から火が出るほど熱い。
ぶわっー、っと身体中に回るそれは触れたら火傷しそうで、だけど触れられずにはいられないもの。
静玖ちゃんの心が、わたしに触れてる。

はじめての胸の高鳴りに、わたしはしばらく息をするのも忘れそうになり、慌てて呼吸を繰り返すのだった。



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