白き蘭の抱きしは

本編未来編のIF。
主人公が白蘭から逃げなかったらこうなっていたってお話です。








じゃらり。
右足首に付けられた重くて冷たいそれを眺めて、ふぅ、と少しだけ大きなため息。
この枷、鎖は未来にやって来た時に嵌められてしまったもので、それからずっと、どこに行くにも嵌められたまま。
それを見詰めたくなくて視線を外し、そうして、背中からお腹に回った大きな手に手を添えると、嬉しそうに背中の温もりがさらに近付いた。
別に、この人を喜ばせたいわけではないのに。

「ふふ」

耳元に掛かる吐息が近い。
くすぐったさに身を捩ると、ダァメ、と軽やかな声が響いた。

「駄目だよ、静玖ちゃん。もう逃がさない。だって、君は自分からボクを選んだんだもの」
「っ………」
「綱吉クンには返さないよ。君はもう、ボクのなんだから。逃げないなら傷付けないし、ずっと、ずぅっと、寂しい思いなんかさせないよ」

うなじに唇が触れた。
甘く軽やかな声なのに、どうしてだろう、恐怖に身体が震える。
───だけど、

「白蘭さ、」
「白蘭で良いよ?」
「白蘭、」
「うん、なあに?」

じぃ、と紫の瞳を見詰める。
綺麗な宝石を詰め込んだ瞳は、底冷えしていて、温もりも優しさの欠片もない。
………ない、のに。

「居る、から」
「ん?」
「………傍に、居る」

怖い。
本当は、この人の傍に居るのが怖い。
だけど同じぐらい、一緒に居てあげたい。………居なくちゃ、いけない。
そんな気がしてしまうのだ。だから、だから───。
口を開くと、ちゅう、と口の端に白蘭の唇が触れる。

「本当? ボクのこと、裏切らないね」
「………うん」

この人が本当に欲しいのは私じゃない。
この人が欲しいのは、トゥリニセッテと魂の持つユニだ。
私はただの、前哨戦。

「───ふふ、知ってるよ」
「?」
「本当はボクが怖くて仕方ないんだよね? 逃げたいんだよね? ふふふ、わかってるよ、わかってる! だからね、だけどね、ここから出しはしないし、逃げさせない。君はボクの所有物で、ボクの『雪』だ!」
「っ!」
「あぁ、でもどうしよう。マーレには『雪』がないんたよ。ねぇ、それでも傍に居てくれる? ボクの『雪』で居てくれる? ………ねぇ、こたえて」

ぐっとお腹に回った腕に力が込められる。
耳元で突き刺すように吐き出される言葉に目を閉じて、震える身体を叱咤した。
───逃げたい。逃げたい。
でも、逃げられない。

「白蘭、私は、」
「うん?」
「──────失礼します」

広くない部屋、白を基調にした部屋にあるのは私か眠るベッドだけ。
そしてそこにやってくるのは、白蘭ともう一人。

「あー、もうお昼の時間かぁ」

いらっしゃい、レオ君。
白蘭が耳元で告げる。
私は直接名を聞いたことはないので、本名は知らない。

「あ、静玖ちゃん。ボクが食べさせてあげる!」
「え、」
「ほらほら、レオ君。持ってきて」

私を膝の上に乗せ直した白蘭は、レオ君からトレイを預かって私の膝に乗せた。
だと言うのに、レオ君は部屋から出ない………って、あれ、これまさか。

「はい、アーン」

これを見られながら食べろって言うの………?!
かぁっと熱くなる頬を無視して、口許に運ばれたご飯にぱくりとぱくついた。




********




顔を真っ赤に染めて白蘭に昼御飯を食べさせられた十年前の静玖さんは、精も根も尽きたようでそのままくたりとベッドに倒れこんだ。
うぅ、と唸る静玖さんの頭をぽんぽんと叩いて、白蘭は僕に後片付けを頼んで、それはそれは満足そうに笑ってから部屋を出ていった。
空になった皿をトレイの上で重ねて、身体を小さく丸める静玖さんを見る。
膝丈の真っ白なワンピースに、レース編みのカーディガン。清楚で纏められた服装は、白蘭が揃えたもの。
左手にきらりと輝くボンゴレリングと、胸元にリボンで付けられた白のおしゃぶり。
フリルの着いた裾から覗く日に焼けた様子のないほっそりとした足には似つかわしくない枷が、鎖が巻き付かれている。
───助けたい。
だけど、助けられない。
だから、だから僕は───………。

「静玖様」
「はあい」
「枷を、外しましょう」
「え、」
「擦れて傷になってしまっては大変です。ケアを、僕にさせてください」

懐に忍ばせた軟膏と包帯を見せると、もそもそと身体を動かした静玖さんはぱちくり、と目を瞬かせた。
その幼さを匂わせる行為に目を細め、そろりとベッドの傍に近寄って膝をつき、静玖さんの足をとった。

「ひゃ、」
「失礼します」

鍵を外して枷も鎖も外し、そうして、うっすらと赤くなってしまった足首を眺める。
痛々しい。
傷ひとつなかった身体に、擦れて赤くなってしまったそこは異様な姿だ。

「………あっ、」

気が付けば、そこに口付けていた。
口付け、舌を伸ばし、ぺろりと舐める。
悲鳴にならないか細い声が響いても、自分の行為を止めなかった。
労るように唇で触れ、癒すように舐め、そうして、白蘭にも気付かれないように吸い付いて、紅い花を残す。

「や、やぁっ、」
「ん、」
「止めて………!」

ちゅ、と幾つかの花を散らして身体を離すと、先程よりも真っ赤に染まった顔の静玖さんがそこにいた。
潤んだ瞳で睨まれても、怖くはない。
失礼しました、と一声かけてから、軟膏に手を伸ばした。
肌を傷つけないようにゆっくりと馴染ませ、そうしてくるくると包帯を巻き付ける。
最後に枷を付ければ、囚われの姫君の出来上がり。

「っ、」
「………僕が必ず、」
「え?」
「………いえ。失礼します」

この白い部屋から出してあげます、なんて。
何て甘いことを告げてしまいそうな性格になったのだろう、僕は。
静玖さんを見れば、顔を赤く染めて、それから青くさせて僕を見詰めている。

「待って、」
「はい」
「待って、君は───」
「静玖様?」
「君は、白蘭の部下、なんですよね………? どうして、こんなこと、」

視線は鎖に下ろされた。
僕を『僕』だと認識しない少女は、戸惑いに言葉を震わせている。

「僕は白蘭様の部下ではありますが」
「………なら、」
「今はただ、貴方に惹かれた一人の男です」
「なっ………!」

唖然呆然。
ぽかり、と口を開けて固まった静玖さんの手を取って静かに手の甲に口付け、トレイを手に部屋を出た。
………さぁ、仕事を始めましょうか。
あの人にあの部屋は似合わない。
はやく、出してあげられるように。

禍つ白の蘭がそれを赦すはずがないとわかっていても、願わずにはいられないのだった。








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以前のネタ募集で白蘭の狂愛監禁のネタとそれを目撃するレオ君(骸)というのがあったので、リハビリに書いてみました。
これ以上は続きません。



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