お誕生日☆大作戦

※ 骸さんが必死すぎて不憫ぽいです
※ そして何故か牢獄から出てる骸さん
※ 黒曜ランドにて生活中…




来る6月9日。
僕は1つ年を取る。
そうして僕は、はっとしたのだった。

「千種、犬、クローム」
「………どうしたの、骸様」
「誕生日はお友達に祝って頂くのが常ですよね?!」
「………………骸様?」
「静玖さんは、僕の誕生日を祝ってくれるでしょうか………」
「そもそも静玖は、骸様の誕生日を知らないと思います」
「右に同じく、れす。骸様」
「私もそう思います、」

部下3人にばっさり切られ、僕はほろりと涙を流した。




☆ ☆ ☆ ☆




そうだ。まず、僕の誕生日を知ってもらうことから始めなければ。
ドキドキと鳴り響く心臓近くにそっと左手を添え、右手には携帯を持つ。
クロームが教えてもらっていた電話番号を入力して、通話ボタンが押せないでいた。
あああ、なんて言えば良いんでしょう!
日時指定して黒曜ランドに来て頂きましょうか。いやだけどそれではただのお誘いでしかない。しかし自ら『誕生日を祝ってほしい』なんて図々しい。だけど彼女ならそんな我が儘も許してくれそうな───ではなくて。
ふるふると首を横に振る。
彼女の優しさに甘えた作戦では、『優しさ』を与えられなかった場合対応出来ない。

「静玖さん………」

僕の、唯一無二の友人。
利用し、利用される関係ではない甘ったるく、ぬるま湯に浸かるような関係。
『初めて』過ぎて、どうしていいかわからない。
………いやいやいや、悩んでいても仕方ない!!
そう、僕にまったく似合わない勇気を出すんだ!!
ぽちり、と通話ボタンを押せば、電話の電子音が聞こえた。

『もしもし』

静玖さんとは違う、大人びた響きを抱かせた声に、そっと眉を寄せた。
この声が聞きたい訳じゃない。
───あの優しい声が、聞きたいのだ。

「あの、六道と───、」

ブチッと音を立てて切られる。
え、ちょ、取り次いでももらえないなんて………!!
四つん這いになって悲観していると、次いで、携帯がふるふると震えた。
なんですか、誰ですか、こんな時に!!
苛立ちのまま携帯をぱかりと開ければ、そこに映っていたのは先ほど僕が電話した番号。

「え、えぇ、え………!!」

らしくなく取り乱してから、電話に出る。
すると、もしもし、と望んでいた声が響いた。

「静玖さん!」
『あ、骸くんからだったんですね。すみません、嵐ちゃんが切っちゃって』
「い、いえ。でも、なんで静玖さんが折り返しを?」
『あぁ、ウチの、掛かってきた番号がわかるタイプなんです。携帯番号だから、雲雀先輩か凪ちゃんかなって思って、』
「僕ですみません」
『そんなことないです! えと、それで、骸くんのご用件は?』

わざわざ電話なんて、急ぎの用ですか? と、柔らかい声が響く。
あぁ、そうだ、言わなくては。言わなくては………!

「あああああのですね、静玖さん」
『はい』
「6月9日のご予定は?!」

あ、声がひっくり返った。恥ずかしい。

『6月………? あぁ、空いてますよ。それがどうかしましたか?』
「あ、いえ。その、で、出来れば、黒曜ランドに来て頂けると有り難いのですが、」
『構いませんけど………。誰かの誕生日ですか?』
「?!」
『骸くん?』

どうしたんですか、と聞いてきた静玖さんに、あまりの恥ずかしさに顔を覆った。
恥ずかしい、気付かれている。恥ずかしい!

「………………の、」
『ふぇ?』
「僕の、誕生日なんです」
『骸くんの!』
「は、はい。それで、その、静玖さんに祝ってほしいなぁ、と」
『わかりました! じゃあ、必ず6月9日にそちらに行きますね。………あ、骸くん』
「はい、なんでしょう」
『チョコレートはお好きですか?』

チョコレート?
首を傾げたところで、電話越しの静玖さんにはわからないだろう。
電話越しの静玖さんは、くすくすと楽しそうに笑っている。

『骸くんの誕生日ですもん。骸くんの好きな味のケーキ、作りますよ』
「は…………、」
『あ。もしかして、甘いもの駄目ですか?』
「い、いえ、食せます! 大丈夫です!!」
『それは良かった。じゃあ、何にします?』

チョコレートで、と言えば、静玖さんはわかりました、と言われ、あ、と言葉を続けた。

「静玖さん?」
『骸くん、飲み物だけの準備をお願いしますね』
「え、」
『友達の誕生日ですもん。力入れますね!』

友達。友達。………友達。
あぁ、なんて僕に似合わない甘い響きなんでしょう。甘美と言うよりむしろ毒だ。
それでも、彼女を今更突き放せない。

『それじゃあ、6月9日に』
「………………はい、お待ちしています、静玖さん」

頬を真っ赤に染めて頷いている僕を、凪達が心配そうにドアから顔を覗かせてこちらを見ていた。




☆ ☆ ☆ ☆




「こんにちは、骸くん!」
「静玖さん………」

ケーキの箱とビニール袋を持った静玖さんは、ふわふわの可愛らしいワンピースを着て黒曜ランドに来てくれた。
廃れたこの黒曜ランドを歩くには少々不釣り合いなそれを見て、少し苦笑する。

「はい、こっちはオードブル。で、こっちがケーキ」
「オード、ブル」
「さすがにパーティー料理は作れませんからねぇ。スーパーで買ってきました」
「そん、そんなっ、えぇ、」
「ふふふ。友達の誕生日には奮発するのが私ですから!」

凪達もぱちくりと目を瞬かせていた。
そんな皆を見て、静玖さんはこてりと首を傾げる。

「あれ、変?」
「い、いえ。その、ほら、僕達には『友達』は居ませんでしたから」
「………そう、ですか」
「だから、友達の『当たり前』がわからないだけなんです。貴方は貴方の思うままにどうぞお過ごし下さい」
「ん。じゃあ、食べましょう。ね!」

にっこり笑って言う静玖さんの手からオードブルとケーキを預かって千種に渡す。
急いで片付けたテーブルに広げてみると、本当にちょっとしたパーティーのようだった。

「骸様、」
「ん? どうしました、クローム」
「これ、私達から………」
「………………、」

まさかクローム達からプレゼントを貰えるとは思っていなかった。
渡されたそれを開くことなく、ありがとう、と小さく呟いてから側に置くと、ずい、と細長い何かを差し出される。
持ち主を見れば、静玖さんだ。

「これ、私から」
「え」
「あ、迷惑ですか?」
「い、いえ。これ以上何かもらっても良いのでしょうか」
「構いませんよぅ。誕生日なんですから」

ありがとうございます、と言いながら、差し出されたそれを握る。
重たくないそれを預かって、静玖さんを見ると、彼女はふわりと甘く笑った。

「っ………………、」

何の含みも持たない、優しい微笑み。
あぁ、直視するのが躊躇われる。

「あ、そうだ」
「静玖さん?」
「遅くなりましたけど、骸くん、誕生日おめでとうございます」
「………………ありがとうございます」

これか。
これが『幸せ』と言う名の感情か。
その心地を噛みしめ、僕はそっと目を伏せた。








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ネタなしで骸くんへの投票がありましたので、今回勝手に誕生日に合わせてみました。
なんだか明後日の方向を見ている骸くんで大変申し訳ない気が…。
リクエスト投票、ありがとうございました!



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