13

桜舞う、4月。
私達は2年に進級した。
相変わらず綱吉達は同じクラスで、私一人離れたC組になった。
離れて嬉しいのか寂しいのかわからない感情を抱きながら新学期を迎え、私にしては珍しいタイプのお友達が出来た。
常にハイテンションの色々な意味で目立つ人───内藤ロンシャン君だ。
最初は変なあだ名で呼んでくるからイライラしたけど、何故だろう、なんか慣れてしまった。

「柚木ちゃん、柚木ちゃん。柚木ちゃんは相変わらず可愛いね〜!」
「内藤君は毎日明るいけど、よく体力保つね」
「だって毎日楽しいじゃん?」
「そう?」
「えー、なんで柚木ちゃんそんなに暗いわけ?! もっとテンション上げていこうよ!!」

と、言われても、私自身テンションが上がらないから無理に上げはしない。
むすっと口を尖らせた内藤君に、思わず苦笑した。
本当に、よくこのハイテンションが続くよなぁ。あ、でも、私にとってハイテンションでも、内藤君にとってはローなのかもしれない。
………これ以上のハイって、どうなんだろう。少し想像出来ない。

「柚木ちゃんのお弁当、美味しそうだね」
「食べる?」
「いいの?!」

ちょいちょいと箸を動かす内藤君にお弁当を差し出せば、彼は玉子焼きにぷすりと箸を指してぱくんと食べた。
そしてにっこり、美味しさを表情で表現する。
やっぱり内藤君は明るいなぁ。

「美味しい!」
「それは良かった」
「もしかして、柚木ちゃんの手作り?」
「半分だけね。料理できて悪いことはないから」

お母さんと深琴ちゃんと三人で台所に立って料理を教えてもらってる。
本当、料理出来て悪いことはない。
将来一人暮らしもしやすくなるし、両親も仕事に行きやすくなる。
私も時間潰しになるし、良いことばかりだ。
意外と楽しいんだよね、料理って。

「料理出来る女の子って良いよね! オレ、柚木ちゃんに惚れちゃうかも」
「内藤君みたいな彼氏はごめんだなぁ」
「ちょっと柚木ちゃん、即答はないでしょうよ〜!」
「あはは、ごめんね、内藤君。私本音だよ」

冷静に切り返せば、大袈裟にしょげる内藤君。
うん、やっぱり私と内藤君は真逆のタイプだなぁ。

「じゃ、先に教室戻るね。またねー、柚木ちゃん」
「うん、またね、内藤君」

内藤君も綱吉達と同じクラスだ。
私とは違うクラスだから一緒に教室に戻る必要はない。
最後の一口のタコさんウィンナーをぱくりと食べて、お弁当の蓋を閉めた。
後ろから窓を開けた音がして、上を向けば髭面の保健医がひょこりと顔を出す。

「お前さん、またこんな所でメシ食って………」
「だって一番静かですよ? シャマル先生のお陰で」

シャマル先生は女の子好きな保健医として有名だから、女の子は基本寄りつかないし、女の子しか診ないと豪語もしているから男の子も基本寄りつかない。
つまりほとんど保健室は名前だけの形になってる。
だから保健室から覗く中庭には誰も居ないからこそ、静かで私的に過ごしやすい。

「ボンゴレ坊主………沢田綱吉とかと一緒に屋上で食べる選択肢とかないのか?」
「綱吉と一緒に食べるのは、付属品がいるからちょっと………」

付属品。
こう言ってはもの凄くゴクデラ君やヤマモト君に申し訳ない気がするけれど、私からすれば彼らは最早バーガーに付いてくるポテトとジュースと同じような感覚だ。
綱吉は基本、私の前では単品で居てくれるけど、学校ではそうはいかないだろう。

「京子ちゃん達とは?」
「新しいクラスで出来た友達と食べてるんじゃないかな」
「だからってココか」
「駄目ですか?」
「しかも五月蝿いのを連れて」
「内藤君がやって来たのは予想外ですし、友達になれたことも予想外です」

内藤君は、本当に私にとっては珍しいタイプの友達で、普段なら喜んで避けて通るタイプの人だ。
だから本当、何も気にせず喋れてることに一番驚いているのは私自身だ。
少しは成長したのかなぁ。

「お前さんも難儀だな」
「そうでもないですよ。私は私なりに楽しんでますから」
「へぇへぇ。その元気をオジサンにも分けてほしいよ」
「先生だって女の子の尻追い掛けて、元気じゃないですか」

立ち上がってスカートの裾の埃を叩けば、先生にぽふぽふと頭を叩かれた。
えぇ、なんで。
私、何かしたかなぁ。
………あれ?

「先生、なんで私が綱吉と知り合いだって知ってるんですか?」
「あー、それはだな」
「それは?」

ごくん、と生唾を飲む。
さぁ、なんて答えるのかな、先生は。
………まさか先生まで綱吉のマフィア関連だなんて言わないよね。言わないよね、知り合う誰も彼もマフィアだなんてそんな馬鹿な。
………あれ、ちょっと待てよ。
先生さっき、綱吉のこと───、

「先生、宣誓します。二度と先生には会いません」
「は?!」
「ではさようなら」

綱吉のことを『ボンゴレ坊主』って言ったんだから、マフィア関連じゃん、どう考えても!
これ以上、先生とは関わりません。
………後2年、怪我しないで乗り切れるかなぁ。
お弁当箱をきゅっと握り締めて中庭を走る。
よいしょ、と廊下に乗り出してそのまま教室まで走った。
あぁもう、私も鈍いな、馬鹿。
乱れた息を整えて席に着き、制服の上に出てしまったリングをしまった。
馬鹿。私の馬鹿っ。

「最ッ悪」

何がって私が。

逃げてきてしまった私は、結局滑稽にしか映らないだろう。



- 14 -

[] |main| []
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -