『log』の『礎のお話』を読んでいただけるとよくわかります。
白と黒の鍵盤を細い指が押していく。
奏でられる曲は知らないけれど(だってクラッシックなんてわかんない)、弾き手が上手いってことは良くわかる。
若いからこそ頼りないとされるその背は、しゃんと伸びていて、いつものへたれさはどこにもない。
格好良いなぁ、と心の中だけで呟く。
寒くないように、という意味と、ピアノを弾くのにちょっと邪魔だから、と彼のジャケットは私の膝に掛けられていて、その温もりにもそっと目を伏せた。
「───起きてる?」
「起きてますよ、ランポウさん」
「ん。なら良いんだものね」
まるで後ろに目が付いているみたいにピアノを弾きながら聞いてきたランポウさんに、ふわりと笑った。
あぁもう、すごいなぁー。
たんっ、と最後の奏でを響かせたランポウさんはくるりとこちらを向いた。
「ランポウさん、すごい、格好良い!」
「え」
「ピアノのこと、よくわからないけど、上手いってのだけはわかるし、」
「ちょ、」
「あのね、あのね、すっごい心地よかったの!!」
思わず興奮気味に言えば、ランポウさんは目を見開いて固まっていた。
あ、あれ。あれ………?
「ラン、ランポウさん?」
「───っ!」
名前を呼んだ刹那、かぁあああ! っと顔を真っ赤に染めて、ピアノに備えられている椅子に体育座りし、そしてその膝に顔を埋めた。
「ランポウさん?」
「来るなっ!」
「ふぇ、」
「あぁもう、君ってばなんでこうなんだろうね………………」
「は?」
顔を赤くしたまま、ずびっと私を指さしてきた。
ええ、え?
「天然たらし」
「えぇ?」
「本当に厄介なんだものね」
「う?」
「これだから雪は………」
なんてランポウさんに深い深いため息を吐かれ、私はこてりと首を傾げた。