雨が降り続く日。
傘を忘れた私は下駄箱でぼんやりとしながら雨が弱まるのを待っていた。
───だって今日は、約束の日。
スペルビから連絡が来たのだ。今日、迎えに行くと。夕飯を食べに行こう、と、お誘いしてもらった日だ。
ぽたぽたと降り落ちる雨を見ながら、まだかな、と彼を待つ。
雨の匂いも、雨が降る音も嫌いじゃない。
だから、こうやって待っているのも苦じゃない。
───でも、
たまにちょっと寂しくなるから、早く来ないかな、とも思う。
もう濡れてやろうか、と思って一歩踏み出しかけたら、私の名を呼ぶ低い声がした。
顔を上げれば、ヴァリアーの隊服を脱いでラフな恰好をしたスペルビが、傘を片手に立っている。
「スペルビ!」
「遅くなって悪かったなぁあ゛」
「んーん。雨の日は嫌いじゃないから良いよ」
「そうかぁ」
しとしと雨が降る中、くしゃくしゃと頭を撫でられる。
それから、ほら、と肩を叩かれた。
「へ?」
「肩掴めぇ」
「ん? うん、わかった」
よいしょ、と両手を伸ばしてスペルビの肩を掴めば、傘の柄を私の手と首の間に放置して、スペルビは私をひょいと抱え上げた。
わわわ、と言えば、スペルビはくく、と静かに喉を鳴らす。
「ちょお、スペルビー?」
「ほら、傘持てぇ」
言われ、放置されていた傘の柄を掴むと、彼の右腕に座らされた。
え、え?
「とてつもなく恥ずかしいんですが、」
「並んで歩くよりは濡れねぇだろうがぁ゛」
「そ、それもそれで恥ずかしいな!」
並んで歩くってあれだよね、相合い傘だよね?!
そんな恥ずかしいこと出来ないよ、私!
今だってもう恥ずかしいんだから!
「今日はどうしても、これ?」
「あ゛ぁ」
「………それで、今日はどこ行くの?」
「さぁなぁ、楽しみにしてろ。───楽しませてやるぜぇ」
にやり、と笑うスペルビに、恥ずかしいけれどちゃんとこくりと頷いた。