好きなもの

「あ、」
「あぁ、君か」
「こんにちは、雲雀先輩。風紀委員のお仕事お疲れ様です」

真っ黒な学ランを翻して路地から出て来たのは、我らが風紀委員長な雲雀先輩だ。
路地から出て来たところを見ると、お仕事───不良を咬み殺してきたところなんだろう。
………あれ、でもトンファーを持ってない?

「まだ何もしてきてないけど?」
「それってこれからするって意味ですか?」
「さぁ、どうだろう」

くす、と口端を吊り上げた雲雀先輩に、あ、要らんこと言った、と冷や汗をかく。
そして一度深呼吸をして、自分の身の回りを見た。

くす、と口端を吊り上げた雲雀先輩に、あ、要らんこと言った、と冷や汗をかく。
そして一度深呼吸をして、自分の身の回りを見た。
………うん、大丈夫、群れてない。今は1人だ。
いつぞやは雲と2人で居ただけで襲ってきたもんなぁ、雲雀先輩。
気を付けないと………。

「暇かい?」
「え? まぁ、暇ですけど」
「じゃあついて来て」

つまり拒否権はないってことですね、わかります。
すたすたと歩いていってしまう雲雀先輩の背を慌てて追い掛けていく。
雲雀先輩は男の子にしてはまだ小柄な方だ(この際綱吉のことは無視して)。だけどやっぱり私より大きいから、歩幅が合わない。
雲雀先輩の早歩きに駆け足で付いていけば、雲雀先輩はぴたりと足を止めた。
………?

「ほら」
「あ、はい」

差し出された右手に思わず左手を重ねてしまった。
体温が低めのような印象があるけれどそんなことなく、むしろ低くなった私の体温よりよっぽど高く、暖かい。
思わず目を細めていると、ぎゅ、と左手を握られてそのまま雲雀先輩は歩き出した。



☆ ☆ ☆ ☆




「僕は和風ハンバーグのセット。君は?」
「え、あ、じゃあイタリアンハンバーグで………」

はい、今何故か雲雀先輩とファミレスに居ます。
つ、ついておいでって、ファミレスだったんだ………。

「なんか急に食べたくなってね」
「はぁ。………雲雀先輩、ハンバーグ好きなんですか?」
「うん、好きだよ」

さらりとそれを口にした先輩に、私は逆に口を閉じた。
あれ、なんか意外。
あ、でも、うん。親近感は沸くなぁ。

「君は?」
「え?」
「好きかい?」
「あ、はい、好きです」

がっしゃん、と何かが割れた音がして、そちらを見る。
ナイフやフォークが入った入れ物を持ってきた従業員さんが青ざめてこちらを見ていた。
うん………?

「君、鈍いね」
「え、何がですか?」
「今君、僕に告白したんだと思われてるんだよ」
「はい?!」

なんで、どうして?!
意味わからないんですけど!!

「だって君、好きなんでしょう?」
「いやですね、雲雀先輩。さっきのはハンバーグの話じゃないですか。わかってて蒸し返さないで下さい」
「僕は気に入っているけど、───君を」

獰猛な瞳をゆるりと緩ませ微笑んだ雲雀先輩に見取れつつ、そんなことしてる場合じゃないとぶんぶんと首を横に振った。
そんな私にくす、と実に静かに笑った雲雀先輩は、実に意地悪だ。

「僕が君を気に入っているのは本当。じゃないと誘わない。そうでしょ?」
「で、ですね」
「じゃあそれで良いじゃない。群れるしか芸がない奴らのことなんか気にしなければ良いんだよ」
「雲雀先輩………」
「だから、」

一度言葉を切った雲雀先輩は、所在なく机に置かれていた私の手を取った。
ひ、ひば、雲雀先輩?

「君は余所見せずに僕を見てなよ」

じゃなきゃ咬み殺すよ。

本当の意味の殺し文句を聞いた気がした。








ネタはrichiestaより『無意識デート』(む、無意識………?)。



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