11

「ってわけで超絶悶絶可愛らしい子をナンパしてみました」
「静玖の言う『可愛い』ってレベル高いからなぁ」
「そうね、静玖の目は確かだもんねぇ」
「『可愛い』って言葉が裸足で逃げ出すような可愛らしさを持った美少女だった」

こくこくと深琴ちゃんが煎れた紅茶を飲みながら昨日の出来事を報告すると、誰にも付き纏われて居ない状態で家に来ている綱吉はケーキをつんつんとフォークでさしていた。
その行為は昨日の私と一緒だ。
ちなみに今日のケーキはラ・ナミモリーヌの京子ちゃんお勧めの品。
深琴ちゃんも綱吉同様ぷすぷすとケーキをつついている。
ちょっと、食べるならちゃんと食べなよ、二人とも。

「で? その可愛い子をナンパしてマフラーとホッカイロあげたら風邪をひいたって?」
「うん」
「お前のそのフェミニストっぷり、いつか身を滅ぼす気がする」
「そんなことないよ」

こほこほと咳き込む私に、お見舞いついでにケーキを食べる綱吉は呆れたようにため息を吐いた。うぅ、吐かれた。
病人の前でケーキを食べる二人にそっと笑って、背中に置いたクッション(綱吉がクリスマスプレゼントにくれたものだ)の感触に目を閉じた。
身体がダルい。やっぱり風邪をひいているのは間違いない。
でも、凪ちゃんにマフラーとホッカイロをあげた事は後悔してない。
凪ちゃんを寒い格好のままには出来ない。しちゃいけない、そんな気がしたんだ。
それに、寒いのはリングの所為だと思っていたから、風邪をひいたのは私の不注意であり、私自身の責任。
ただ、凪ちゃんが風邪をひいていないなら良い。それが私の自己満足であっても。

「私以上に寒い格好をしていた可愛い女の子を無視するわけにはいかなかったんだもん」
「わたしが寒い格好してても同じことしてくれる?」
「深琴ちゃんにも綱吉にも同じことをしたと思う」

綱吉と深琴ちゃんがそうだった場合、きっと凪ちゃん以上構っていただろう。
だけれど、二人は凪ちゃんとは違う。
『ひとり』になることとは縁遠いのだから、きっと凪ちゃんと同じ状況下で私と出会うことはないはずだ。
一人になりたくても周りがそうはさせない。
だから正直、比較して考える価値はない。

「まぁでも、あの子はあの子。2人は2人だよ」
「静玖………」
「私は私がしたいと思ったからやっただけ。自業自得なのは理解してる。収穫はあったから、いいの」

新しい友達の存在。ほわりと暖かくなる胸の奥。
これを抱くために風邪をひくなら代償は安いものだ。

「こほ、」
「あぁ、ほら喋りすぎ。はい、生姜紅茶」
「うー、辛いから嫌い」
「ワガママ言ったら治るものも治らないでしょうが」

お姉ちゃんらしく深琴ちゃんに指摘される。
きゅう、と眉を寄せてからティーカップを受け取った。
身体が暖まるからイイんだけど、配分間違えると辛いだけなんだよね、生姜紅茶って。
息を吹きかけ冷ましながら飲む。じわりと食堂を暖かいものが通っていき、喉がすっとする。
これはある種、戒め、かなぁ。

「………静玖」
「ん?」
「これ、どうしたの?」

綱吉が指した「これ」はピンキーリングの事だ。
貰いものだよ、と素直に答えれば、がっと深琴ちゃん肩を掴まれる。
そのままずいっと顔を近づけられ、ぱちりと目を瞬かせた。

「どこのヤローに貰ったのかな、静玖?」
「どこのって、」

遠い空の向こう、イタリアに住む食えないオジサマに。
言いかけて、口を閉じた。言える筈がない。ましてや綱吉に関わりのあるノーノだなんて。
言える筈、ない。

「文通相手が、くれたんだよ」
「男?」
「うん」
「ふぅーん」
「深琴ちゃん?」

つんと口を尖らせる深琴ちゃんに、肩を掴んでいるその手に手を重ねて首を傾げた。
なんでこんな不機嫌なんだ?

「妬いたって良いじゃんか」
「うん?」
「わたしからの身に付けるプレゼントは嫌がるくせに、文通相手からはすんなり貰うんだもの。妬いたって良いじゃん」
「だって深琴ちゃんのセンス、私の嗜好に合わないから」
「なんでよ」
「世の中には、可愛いものを身にまとって更に可愛くなる人と、滑稽に映る人の2パターンがあるんだよ」

言わずもがな、前者が深琴ちゃんで後者が私だ。
深琴ちゃんに薔薇は似合う。だけれど私にそういう華やかな花は似合わない。
見た目云々よりも、性格云々が正しいだろう、この場合。
薔薇なんて目立つ花は嫌いだ。

「ま、まぁ、深琴、それ以上は静玖も踏み込んでほしくないみたいだし、そっとしておこうよ」
「ツーちゃん」
「静玖にだって、触れられたくない部分があるんだし」

それはつまり以前のコトを未だ根に持ってる発言と受け取っていいのかな、綱吉。
先週、「隠し事があるんじゃないか」って言った綱吉に対して、ちゃんと答えなかったことを実は未だに根に持ってるんじゃないか、と。

「なになに、ツーちゃん、何かあったの?」
「静玖は俺達に隠し事してるみたい」
「えぇー」
「………誰にだって隠したいことはあるでしょうよ」

もういっそ面倒だ。
隠し事があることを隠す、なんて面倒なことはしない。
いっそ大っぴらに隠し事をしているようにしてやる。
だって、───だって。

「綱吉だって私に言ってないことあるじゃん」
「なに」
「君の周りが煩わしいのはなんで?」
「っ───」

ティモから手紙でその事情を知ってるから敢えて今まで突っ込まなかった。
だけれど、隠し事をしていると『幼なじみ』である私に訴えるなら、マフィア関連について私に言ってこない綱吉に対して、私が隠し事をしていると訴えるのもおかしくない。
でもきっと綱吉は私には言わないだろう。
それが綱吉の優しさで、甘さ。

「『隠し事』をしている綱吉と私。これで対等だよ。ね?」
「………聞かないでほしい」
「綱吉の『隠し事』は綱吉はきっと隠し通したいんだね。だから、自分から関わる深琴ちゃんを除いて、私には言わない。でもね、綱吉」

抱えていたティーカップを深琴ちゃんに渡して、綱吉の手を握り締める。
綱吉はぱちくりと目を瞬かせて私をじっと見てきた。
そんな私達を、深琴ちゃんが不安そうに瞳を揺らして見てくる。

「私の『隠し事』は君のソレとは違う」
「静玖………?」
「静玖、一体なに隠してるの?」
「いつか露見するよ。それまで待って」
「それって、」
「露見することに私の意見は反映されない───私の意志は無視されるだろうね。だって隠してるのは、私のワガママだから」

パジャマの上から更にカーディガンを羽織っているその下には、鎖にぶら下がったリングがある。
これはまだ、綱吉に知らせてはいけない。知らせたくない。それは私のワガママ。

「………少し、喋り過ぎたかな」
「静玖は、俺のお隣さん───幼なじみ、だよね?」
「うん、それは間違いない。この関係は何があっても一生変わらないよ、綱吉」
「じゃあこの間も言ったけど、良いよ。俺は気にしない。静玖が静玖であるなら、それでいい」

握り締めた手を逆に握り締められ、そのままそっと笑った。



- 12 -

[] |main| []
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -