orsacchiotto

『華散らす君』とリンクしたお話








学校から帰ってきて目を見開いたのは、玄関の前に真っ黒なコートを来たままザンザスさんがその背を玄関に預けて待っていたからだ。
え、あれ、ザンザスさん、なんで?!

「白雪」

呆けたままでいるとザンザスさんだけが呼ぶそれで呼ばれたのではっとして彼の傍に駆け寄る。
その時、沢田家が少し騒がしかったけれど特に気にはしなかった。
だってまさか、あんなことになるなんて。



☆ ☆ ☆ ☆




不機嫌そうな瞳がこちらを向く。
ひぃ、やらくぴゃ、やら悲鳴が聞こえたけれどそれどころじゃなかった。

「あの、ザンザスさん」
「黙れ、白雪」

まだ名前しか呼んでませんっ。
次いで言うならまだその呼び方なんですね、『10年後』のザンザスさん!!
隣でびくびく怯えながらザンザスさんを見上げる綱吉に、君に非はないよ、と思わず呟く。

「悪ぃな、ザンザス。静玖に当てるつもりがお前に当てちまった」
「ちょ、なんで私に当てるのさ、リボ先生」
「その方が面白いだろ?」
「プチトマトと一緒にイタリアに送るよ」

送り先はボンゴレで。
むすっとした顔のまま綱吉の隣に座るランボ少年を見る。
コレの原因は君とリボ先生にあるんだからね?! なんでとばっちりで私と綱吉がザンザスさんに殺気当てられなきゃいけないのさっ。
ちなみにさっき言ったコレ、とは、10年バズーカのことだけじゃない。
10年バズーカの効果は5分だけ。
だけどザンザスさんはすでに10分居る。
つまり、故障だ。
だから放たれたバズーカの軌道を誰も読めずに、私を庇ったザンザスさんに当たった。
あぁもう、どうしよう。
………ザンザスさん、スペルビに八つ当たってなきゃいいけど。

「白雪」
「え、何ですか?」
「行くぞ」
「行くってどこにっ、」

ぐっと腕を掴まれ、家から出て行くことに。
綱吉がザンザスさんを睨んでいたけど、リボ先生に蹴られてその視線から私を消した。

「大丈夫かな、綱吉………」

思わず呟けば、腕を掴むザンザスさんの手に力が込められた。
い、痛い、痛い、痛い!

「ザンザスさん、痛い。痛いですっ」
「ちっ、」
「ちゃんと時間潰しには付き合いますから手を離して下さ、」

言い終わる前にぱっと手を離される。
握られていた部分をそっと自身の手で擦ると、その手を握られた。
少しだけ目を見開いてザンザスさんを見上げるけれど、その表情は長めの前髪に隠れて見えない。
───それでも。
何となく、そう何となくふんわりとした心地を抱いたので、私はゆっくりと笑みを浮かべた。




☆ ☆ ☆ ☆




誘拐事件かもしれない。
そう、それは誰もが思ったことである。
火に舐められた跡を残す紅い眼光を持つ男の隣に、小柄な少女がいる。
誘拐事件か、それとも援助交際か。いやしかし、少女の容姿はあまりぱっとしない………どこにでも居るような普通の少女。
じゃあやっぱり誘拐事件か。
ごく、と息を飲んだ女店員が電話に手を掛けた瞬間、あの、と控え目に少女が店員に声を掛けた。
な、なんだ、何を聞く!!
再び店内の人間がごくりと息を飲む。
その気配が伝わらないのか、少女はにこにこと微笑みを浮かべ、

「ショーウィンドウの中のテディベアに触りたいんですけど、」

大丈夫ですか? と首を傾げて聞いてくる。
なんだそんなことか、と店員が愛想笑いを片手に大丈夫ですよ、と返すと、ぴき、と身体を固まらせた。
なんだなんだと視線を動かせば、男の鋭い視線が飛んでいる。
………怖い。あれは確かに怖い。

「ザンザスさん、大丈夫ですって」
「そうか」
「ちょっと見てきますね」

いや、待て、お嬢さん。
それを一人にしてこの店内に置いていくつもりか………?!
突っ込みたくても声は出ない。出した瞬間に殺される。
誰もがそう思う中、男はついと目を細めて歩み始めた。
どうやら一緒に行くらしい。
ほっ、と誰かが安堵のため息を吐く。

「でも、ザンザスさん。ザンザスさんの時間潰しを私のウィンドウショッピングにしちゃって良かったんですか?」
「今更だな」
「それはそうですけど」
「白雪」

呼ばれた少女はぴたりと足を止める。
一度解けた緊張が再び店内を駆け巡り、誰かが叫びそうになった口を閉じた。
それでも少女は、ただ不思議そうに首を傾げるだけ。

「なんですか、ザンザスさん」
「今更ごちゃごちゃ言うな。───未成年者でも連れて行かれてえのか」

どこにだっ!!
やっぱり誘拐事件じゃないのかっ、と今度は男の店員が電話に手を伸ばした時、くすくすと実に楽しそうな少女の笑い声が響く。

「さすがイタリアーノ。───ご配慮ありがとうございます」

ふんわりと甘く笑う少女に、誰もが一瞬だけ呆けた。
今までの会話のどこに『配慮』があったのかわからない。
何か騙されてないかお嬢さん、と誰かが心の中で呟いた。
声には出せない。誰だって自らの命ほど惜しいものはない。

「買うか」
「えぇ、いいですよ。高いですもん」
「………」

要りません、と少女が呟いた後、男は口端を吊り上げて笑う。
その後、テディベアを見るために物陰に隠れた二人が次に顔を表した時、男は髪をオールバックに固めて少女に手を引かれていた。




☆ ☆ ☆ ☆




「ザンザスさん、これはなんですか」
「見てわからねぇのか」
「いや、テディベアなのはわかるけど」

しかも大きい。
玄関を開けた瞬間に手渡されたのは大きくて触り心地が良いテディベア。
でも別に、プレゼントを貰う理由がないんだけど………?

「過去でお前が気に入っていたからな」
「はい?」
「施しだ」
「はぁ。───じゃあ、ザンザスさん、お茶して行きます?」
「ウォッカ」
「それ、お茶じゃないですよ」

くすくすと笑いながらザンザスさんを屋敷へ招き入れる。
過去………10年前のザンザスさんがバズーカにでも当たったのかな。
………あぁ、そう言えば。

「ザンザスさん」
「なんだ」
「要らないって言ったじゃないですか、もう」

テディベアを見に付き合ってもらったのは、私だ。
今日は特別にお酒を振る舞おうと思った、秋口の昼のことだった。




☆ ☆ ☆ ☆




「おかえりなさい、ザンザスさん」

お店を出て、そう一言。
不機嫌そうな顔を隠さないザンザスさんに、10年後は大変なんだなぁ、と心の中だけで呟く。
舌打ちをしたザンザスさんに道行く人がクレーターを作って通っていく。
そんなに避けなくてもいいのに。

「そう言えばザンザスさん。なんで日本に?」
「………に」
「え?」
「お前に、会いに」

相変わらずの不機嫌な顔と、怒りを抱いた紅の瞳。
だけどその言葉に偽りはないだろう。
下らないことを口にするような人じゃない。
───時にその超直感が憎たらしい。

「私も、会いたかった、です」

素直に呟けば、ザンザスさんの口端がつり上がった。
どうやら空は、私に優しいらしい。












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『華散らすのテディベアの一件』
長っ!!
えー、時間軸としては、華散らすよりこれが先だと考えて頂けるとわかりやすいかも。
そして視点がころころ変わってすみません。
第三者から見たザンザスさんと主人公ってこんな感じかな、と思って真ん中は楽しんで書かせて頂きました。
IFよりは甘さ控えめのつもりですが、どうだったでしょうか。
アンケ投票、ありがとうございました!



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