ぼふん、という音がして、けほっと咳き込めばぐっと腕を引かれた。
わ、と小さく言葉を吐き出せば、静玖、と聞き慣れた声で名前を呼ばれる。
そろっと顔を上げれば、美しい銀色が目に入った。
あ、と呟いて目を見開く。
「よォ」
「スペルビ………」
しかも10年後。
きゅう、と腹の前で手を組まれて、ようやく自分の体勢に気が付いた。
スペルビに背を預けるように、その膝に座っている。
ちょ、ええ、えええ!!
「ななな、何してるのさ、スペルビっ! 降ろそうよ、恥ずかしいよっ」
慌てて暴れる私を後ろにいるスペルビはくつくつと喉を鳴らして笑う。
笑われても困るんだけど、だから降ろして、早く早く!!
「降ろさねえよ」
「なんで、」
「なんでだろうなぁあ゛?」
にやにやと笑うスペルビに苛立ちと恥ずかしさをぶつけるように、腹の前で組まれている手をべちべちと叩いた。
離してほしいんだけど、本当にっ。
視線を無理矢理スペルビから外すと、向かいのソファーにでん、と腰を据えて座っているものが目に入った。
「スペルビ、」
「ん?」
「あれ、なに。あれ!」
抱き付くのにちょうど良さそうな大きいテディベア!
さっきとは違う意味でべちべちと手を叩けば、さっと解かれる。
もっと早く解いてくれて良かったのに!
文句は口に出さず(言ったら何されるかわからない)に、ぴょん、とスペルビの膝から降りて向かいのソファーに座る。
テディベアに手を触れてみると、その触り心地は最高だった。
「それ、誰からのプレゼントだと思う?」
「………え、誰? そういう聞き方するならスペルビからじゃない、よね?」
「あぁ、俺からじゃあねーぜぇ?」
「じゃあ、誰?」
そうスペルビに問い返せば、彼はやっぱりにやにやと笑うだけで、答えようとはしない。
え、なんで。そっちから言ってきたのに。
ちらりと自身の腕時計を見て時間を確かめたスペルビは、再びこっちに視線を投げて、手招いてきた。
え、なに。
もふもふとテディベアを触っていた手を離して傍に寄れば、ぐるり、視界が一転した。
………え。
「あの、スペルビ、さん?」
背中はソファーに、私の眼前にはスペルビが。手袋をはめた手は顔の横に置いてあり、頭上から銀糸の髪がカーテンのように流れている。
え、え、えぇ?!
「ありゃあ、ボスからだぜぇ?」
「へ、へぇ、ザンザスさんから!」
くつくつと真上から笑い声が響く。
戸惑いを隠さずに視線を揺らしてスペルビを見ないようにしていれば、しゅるり、と何か解かれた。
うん、ん? ………!?
「ちょ、スペル───」
解かれたのは制服のリボンで、その後あっさりとブラウスのボタンをも外された。
かぷ、と小さくくわえるように触れられたのは右の鎖骨の根元であり、べろりと舌で舐められる。
驚きのあまり声が出ない。その沈黙に気を良くしたらしいスペルビが、舌を這わせたそこに唇を寄せた。
目を見開く。
それと同時に強く口付けられたそこにじわりと熱が溜まり、声が漏れた。
言葉にならない声はそのまま空気に霧散して、恥ずかしさと恐怖にさらりと流れているスペルビの髪を掴む。
ぴちゃ、と濡れた音が響いた。また舐められたのだ。
ふっと離れたスペルビにほっとして力を抜くと、今度は首筋にスペルビの唇が触れる。
「ふぁっ」
「ん、」
やだ、と強く髪を握った瞬間、再びぼふん、と煙が舞ってベッドに背中を叩きつけた。
握っていた髪の感触もなにもかもなくなって、ぽかん、と口を開ける。
見慣れた天井に、きゅうっと唇を噛み締めて、それから、
「だぁぁああもうぅう!!」
ふざけんなぁあ!!
と、天井に向かって拳を振り上げた。
恥ずかしさのあまり、死にそうだ。
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『スクアーロ:夢主がバズーカで10年後のスクアーロの元へ。当たり障りない会話をしつつ帰り際に今度は噛み跡じゃなくキスマークを残される。』
と、詳しいネタを書いて下さったので、さくさく書かせて頂きました。
悔いが残るとしたら、名前変換がほとんどないことですかね。無くても構わない話だったのですが…。
最初からヤる気なスペルビさんで申し訳なかったです。
アンケ投票、ありがとうございました!