雪愛でる空

膝を付いてミュールを足にはめる。
まさかそんな行為、私がされるなんて思わなかった───。




☆ ☆ ☆ ☆




「1つお願いがあるんだが、良いかい?」
「ものによるけど………」

なに、と見上げた先には日本に遊びに来ているティモがいる。
ちなみに今居るのはティモが泊まっているホテル。
普段一緒に居ない分、一緒に居たいとのこと。

「デートしよう、私の雪」
「………ん」

問いかけではない台詞に、ちょっと間を空けて応えたのはちょっとした抵抗だ。
別にティモと出掛けるのが嫌なわけじゃなくて、その、私が頷くとわかっている口振りが気に入らないだけ。
そんなところに超直感を働かせないでほしい。
時間はまだ昼を回ってない。
そんなわけでさっそくホテルから出た。
当たり前のように手を繋いで、私の歩幅に合わせてゆっくりと歩くティモに、イタリアーノの神髄を見た気がする。
恥ずかしいような、むず痒いような、きゅう、と心臓をそっと握られるような痺れに、1人で勝手に顔を赤くして足を動かす。
それに気付いたらしいティモが握る手に力を入れてくすくすと笑った。

「なに」
「ふふ。私の雪は本当に可愛らしいなと思っただけだよ」
「む、」

ぽてぽてと歩けば、連れて行かれたのはブティックだった。
え、なにこの高級そうな感じは。

「ティモ?」
「私に君を着飾らせておくれ」
「う、」
「嫌かい?」
「………ううん」

悲しそうに眉を寄せられるとどうにも弱い。
座っていて、と促されたので椅子にちょん、と座って待つ。
ティモの趣味、かぁ。
ぷらぷらと足を揺らして待っていれば、定員さんらしき人がさささっとこっちに寄ってきた。

「おじい様とお買い物ですか?」
「いや、あの人は」
「仲が良くて羨ましい限りです」
「いやだから」

人の話を聞けよ、と店員さんの腕を掴む。
きょと、と目を丸くした店員さんを見て、私はゆっくり口を開いた。

「血の繋がりなんてないけれど、私にとって一番大切な人なんです。その関係を気安く世間の規格に当てはめないで下さい」
「嬉しい力説をしてくれるね、私の可愛い雪」
「うわおっ!」
「さ、着替えておいで」

居ないと思って言ったのにまさか後ろからティモの声が聞こえ、引きつった顔で振り返る。
服を渡してきたティモは目を細めてゆったりと笑い、ぽん、と頭を叩いてきた。
それから背を叩かれて更衣室に促される。
にこにこ笑ったままのティモに苦笑しつつ、更衣室に入った。

「わぁ、」

真っ白のブラウスに黒いベスト。ベルト付きの膝丈スカート。
シンプルだから、まぁ、私の趣味に近いものだけれど、ううん、なんか高そう。
どうしよう、いいのかな、着て。
いや、渡されたんだから着ないと逆に勿体ないんだけど。
ぷち、と釦を外して着替えてみると、サイズまでぴったりだったのが実に怖い。

「ティモー」

しゃっとカーテンを開けて顔だけをひょこっと出すと、ティモはこつこつと靴を鳴らして傍に寄ってきた。

「見せてくれるかい?」
「う、うん」

なんか恥ずかしいなぁ。
きゅう、と目を瞑ってからカーテンをすべて開ける。
ふふ、と静かに笑ったティモはそのまま私の頭を撫でた。

「よく似合ってるよ、」
「う、ありがとう」
「………足を貸して」

え、と思った時にはすでに遅く、すっと膝を付いたティモはそのまま私の足を持ち上げ、派手ではなく、それでも決して地味ではないミュールを履かせてくれた。
ぽか、と口を開けたままに固まった私を見上げて笑ったティモは、ミュールを履かせた右足を先に床に着けさせ、左足にも手を伸ばす。

「待った、ストップ! 自分で履くからっ!」
「───駄目だよ」
「なん、」
「傍にいる時ぐらい、君を甘やかさせておくれ」

かつん、とミュールの踵が床を鳴らす。
きゅう、とスカートを握りしめ、それからまだそれが『商品』だと気が付いて急いで手を離した。

「じゃあ、行こうか」
「え、でも」
「もう会計は済ませてあるよ。ほら、」

手を取って、と私に手を伸ばしてきたティモを見て、実に穏やかな顔をしている。
───あぁ、もう!!「エスコート宜しくね、ティモ」
「勿論だよ。さぁ、行こう」

手を繋いで、並んでお店を出た。
さわっと頬を撫でる風は心地良い。
───そう、だから今日ぐらい。
今日ぐらい、繋いだ手を離さないでいられたなら。
それはきっと、幸せなこと。












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『デレッデレに甘い九代目とお買い物』・『九代目とラブラブしてほしいです!』・『ティモとデートを見たい』・『ふたりでお出かけデート』
一括にさせて頂きました。
『デート』・『買い物』と聞いてティモに跪かせたかっただけの代物。
いつも跪かれる立場のティモが跪くって絶対にありえないことだと思うので、やってもらいました(笑
それぐらいに主人公は特別なんです、っていう主張。
アンケ投票ありがとうございました!



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