ヴァリアーと一緒!

がしゃあん、とガラス窓の割れる音と耳に響いた女の子達の悲鳴に顔を上げた。
だん、と机を叩かれ、目を丸くする。

「ザンザス、さん?」
「………………」

重たそうな黒いコートを肩に掛けたまま、ザンザスさんは無言のままに私をじい、と見つめてくる。
机に叩きつけられた手でシャーペンを握っていた手を掴まれ、力強く引かれたと思えば気がつけば肩の上。いや、腕の上、と言うべきか。
急に高くなった視界に混乱しているとかくん、と身体が傾げる。
───ザンザスさんが歩き出したんだ。
不安定な身体を支えるためにザンザスさんの肩に手を添えれば、下半身を支えている腕の力が強くなった。

「ちょ、ザンザスさん?!」

すたすたと淀みない歩きで割った窓にまでくると、私を抱えたまま窓枠に足を掛ける。
え、まさか、そんな。
授業中だった教室に私を助けてくれる人間なんているはずもなく(だってこのクラスにマフィア関係者なんて誰1人としていない)、ザンザスさんの背をただ黙って見つめるだけ。否、強面なザンザスさんに誰が何を言えようか。そんな雰囲気だ。
つまりあれだ、私1人を捧げれば自分は無事だというある意味みんな空気を読んでる。
まぁ、この場合は確かに『無視』という選択が一番正しいけれど! 私もそっち側ならその選択をするけれど!
恨みが籠もった目でクラスメートを見てると、気が付けばザンザスさんの足は窓枠から離れていた。
───あぁもう、無理。
飛び降りたという事実から目を背けるように意識を手放した。




☆ ☆ ☆ ☆




「お姫、あーん」
「んぐ」

強制的に口の中に突っ込まれたのはほかほかのアップルパイだ。
突っ込んできたのはベル王子で、私の膝にちょんと座るマモ君は紅茶をゆっくりと飲んでいる。
私の眼前の1人掛けの───値段を聞いたら目が吹っ飛びそうなほど高そうな椅子に座っているのは私を拉致した犯人であるザンザスさん。
そんなザンザスさんの後ろにレヴィさんが控えていて、スペルビはまた別のソファーに腰掛けている。

「ん、美味しい」
「あらん、それは良かったわ〜。たくさんあるからいっぱい食べてね」
「食べるのも良いけど………」

言いかけてちらりとルッス姐さんを見る。
姐さんはガトーショコラをテーブルに置きながら、サングラスの奥にある瞳を私にしっかり向けた。
何かしら、と小さく呟かれ、閉じた口を改めて開く。

「レシピ欲しいなぁ、って」
「あらあら。そんなことォ? もちろん書いてあげるわ」
「ありがとうございます」
「アップルパイ以外も要る?」
「あ、出来れば欲しいです」

今、テーブルに乗っているのは、アップルパイ、ガトーショコラ、フルーツタルトにザッハトルテ。
どれもこれも美味しそうだ。
………でもなんで私、ヴァリアーに呼ばれた(拉致られた)んだろう。
特に理由がないって言われたらそれまでだけど、ううーん、どうなんだろう。

「急にごめんなさいね。アタシがこんなにお菓子作っちゃって、静玖ちゃんにも食べさせたいってワガママ言っちゃって」
「え、そんな理由なんですか?」
「えぇ。『そんな』理由よ」

両手で支えていたトレイを脇に抱えて、空いた手で頭を撫でてきたルッス姐さんにそうじゃなくて、と一度断りを入れる。

「ザンザスさんが来たので、ボンゴレに関わることなのかなって、ちょっと身構えてたんです」
「あらまぁ」
「それにしても。なんだかんだ言ってザンザスさん、部下思いなんですね」

ぶっ、とベル王子がザッハトルテを、マモ君が紅茶を少し吐き出し、スペルビに至っては吐き出さないようフルーツタルトを無理やり飲み込んでいた。
うん………?

「私、何か変なこと言いましたか?」
「部下思いって、」
「だって、ルッス姐さんの一言を聞いて、授業中の教室に乗り込んで来たんですよ? それって凄くないですか?」
「いやいやいや、お姫、根本的に違うから!」
「何が?」
「そもそもウチのボスが誰かのために動くわけねぇだろぉ!」
「え、でも」

スペルビに反論しようとしたら、その目の前をレヴィさんが歩いて私の両手を握りしめた。

「そうだ、その通りだ! ボスの素晴らしさがわかっただろう、小娘!」
「え、えぇ、はい」
「そこまでボスの素晴らしさがわかっていてなぜあの子供の傍を離れんのだ!」
「いや、それとこれとは話が別というか………」

とりあえず握りしめられた手が痛いんですけど!
手を握ったままザンザスさんの素晴らしさを語り出したレヴィさんに苦笑しつつ、レヴィさんの向こうに見えるザンザスさんに助けを求める。
だけどザンザスさんは我関せずと珈琲で喉を潤していた。
え、何故にこのタイミングで無視するのさっ。

「あ、あの、レヴィさ───」
「いい加減手を離しなよ、ムッツリ」
「ぬぅ!」

ごん、と空中から現れた金盥がレヴィさんの脳天に直撃し、跳ねた金盥と傾げたレヴィさんの身体をテーブルに影響ないよう咄嗟に跳ね飛ばしたのはスペルビだった。
おお、なんて連携プレー。

「ありがとう、マモ君。助かったよ」
「本来ならお金取るけど、君は『後継者』だしね」
「じゃあ次来る時は五円で買えるチョコ持ってくるね」
「うん」

金盥の衝撃で目を回しているレヴィさんにそっと目を向け、ため息を吐いた。

「レヴィさん、本当にザンザスさんのことが大好きなんですね」
「………いい加減、その口閉じろ、白雪」
「う、だって」
「白雪」

ザンザスさんだけが呼ぶそれで呼ばれたら、口を閉じるしかない。
そっと紅茶に手を伸ばして、ゆっくりと飲み込んだ。
………あ、

「ザンザスさん」
「なんだ」
「どんな用事でも声を掛けて下さればちゃんと顔出しますから、授業中に乱入だけはもうやめて下さいね」
「………………」

答えは返ってこない。
だけど受け入れてもらったと解釈しよう、うん。
希望を持つのは私の自由だ。

「じゃあ、お姫。次来る時は手土産な」
「手土産?」
「今日、ルッスからレシピ貰うんだろ? 王子、お姫が作ったの食べたいし」

いい加減、ヤローの手料理飽きた、と呟いてアップルパイに手を伸ばしたベル王子に苦笑した。

そんな彼らが高級車で並中にやって来たのはまた別のお話。








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『1日拉致られなぜかほのぼの』・『鮫かボスで夢主さらってヴァリアー内でほのぼの』
ほの、ぼの………?
えー、Oath of snowにおけるザンザスさんはたいへん主人公に甘いようです。
ちなみに雲はイタリア帰省中。

えと、今回ver.Xにしたのは、ver.Sを書く予定だからです。そっちはザンザスとスク贔屓になるかな、と。
似たような話になりそうですが一応わけるつもりです。
何が違うって、拉致しに来たのがザンザスかスクかの違いですが………。
アンケ投票ありがとうございました!



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