trifoglio bianco

※ 連載IFな若ザンザスとチビ雪姫




じゃり、と石畳の道を1歩踏み出せば、隣の小さなそれはとたた、と2、3歩歩き出す。
きゅ、と指1本をつまむ幼い手に、目を伏せ、ゆっくりと子供にペースを合わせて歩く。

「ちっ」
「ふへ?」

手を振り解いて後ろから持ち抱える。
急に高くなったためか、手足をぴん、と伸ばして驚きに固まっていた。

「───静玖」

腕に座らせてその名を呼べば、ぱっと表情(かお)を明るくして首に腕を回してくる。
あぁ、本当にガキなんだな、とどうでも良い確認をして腕に力を込めた。

「ざんざすさん」

いまいちはっきりと呼びきれない俺の名前を、ゆったりと呟いては満足したように笑みを作る静玖とは、いつの間にか『習慣』が出来ていた。
俺が静玖の名を呼べば、必ず静玖もまた俺の名を呼ぶ。
そしてまたその逆も然り、だ。
だからなんだ、と聞かれたところで答えようはないが(聞いてくる命知らずもいないが)、最近はそれが常だ。

「どこ行くの?」
「もう少し待て」
「はーい」

ヴァリアーの屋敷へと向かう道を外れて中庭へ向かう。
一面真っ白になった視界に、静玖がふわ、と妙な声を上げて俺を振り返った。

「trifoglio bianco(トゥリフォッリョ ビアンコ)だ」
「トゥリフォ………しろつめぐさ?」
「あぁ、白詰草だ」
「よつば探すー」

飛び跳ねて降りようとするので抱え直してからその足を地につけさせてやれば、とたた、と軽やかに走り出す。
ちょん、としゃがみ込んであれでもない、これでもないと忙しなく動く小さな手をぼんやりと眺めながら、俺も腰を降ろした。
ぴん、とその細い茎を弾けば、ふらふらと白い花が揺れる。
───あぁ、そうだ。
これを使った花冠があったはずだ。
作り方なんざ知らないが、まぁ、適当に作ればなんとかなるだろう。
ぷち、と白詰草を手折って適当に手を動かす。こういう時、超直感は実に便利だ。
ある程度形が整った辺りで、ふと視界が暗くなる。
立ったまま、静玖が俺を覗き込んでいたからだ。

「どうした」
「それ、なあに」
「花冠………と、まだわらかねぇか」

喉を鳴らして笑えば、む、と口を尖らせた静玖は頼りないほどの小さな手で俺の手をつかみ、中途半端な長さの花冠から手を離させた。
特に咎める理由もないのでやりたいようにやらせておけば、そろそろと俺に背を向けて胡座の中心にちょんと座った。
重いと言っても子供の重さなんて、気にするにも馬鹿らしい程度のものなので好きにさせる。
ふと顔を覗き込めば、年不相応な真剣な瞳が手元に向いていたのを確認し、く、と喉を鳴らした。

「む」
「待ってろ。すぐに終わる」
「うん」

ぷちぷちと白詰草を抜いては花冠にその姿を変えていく様は見ていて面白いらしく、ゆるりと弧を描いて手元を見る静玖にらしくなく頬が緩む。
ガキなんて騒がしいだけだと思っていたがガキじゃなくても騒がしいものは騒がしいし(特にあのカス鮫)、鬱陶しいものもそれと同じだ。
ふ、と短く息を吐いて仕上げの白詰草を巻けば、胸元から言葉にならない言葉が漏れる。

「ほら、立て」
「う?」

ぽや、としてすぐに動けない静玖の脇の下に手を差し入れ立たせ、その頭に出来たばかりの白詰草の花冠を乗せる。
自身にかぶせられると思っていなかったのか、きょと、と目を丸くして固まった。

「くれるの?」
「ああ」
「じゃあ、これあげる」

力を入れて握りしめていたためか、少しくたびれた四つ葉を俺に渡してきた。
希望、信仰、愛情、幸運。
どれをとっても俺には似合わない花言葉だ。
わかっていないからこそ出来る芸当だ。
………あぁ、そうだ、もう1つ。

「真実の愛、か」

小さく呟く。
確かアメリカ辺りの四つ葉の花言葉だ。
あぁ、そんなもの、俺には必要ない。

「静玖、」
「ざんざすさん?」
「………左手を貸せ」

素直に手を差し出してきた静玖の薬指に四つ葉を巻き付ける。
ぱちぱちと瞬く静玖には、未だその幼さ故に真の意図には気づかないだろう。
それでいい。そうでなくては困る。
花冠に四つ葉の指輪。さながらまるで、

「───らしくねぇ」
「ざんざすさん?」
「何でもねぇ」

再び抱きかかえて来た道を戻る。
ジジイの反応を楽しみにしながら、俺はそっと腕の中の白雪の髪に口付けた。

らしくないのはわかっている。
だけれどこの温もりは手放せそうにない。











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『ザンザス』
連載IFに心奪われた〜というご意見もあったので、勝手に連載IFにしてみました。
妙に犯罪くさいけど雪と大空ということでスルーをば宜しくお願いします。
『白雪』発言については本編で書きたいと思います。
アンケ投票ありがとうございました。



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