09

夏の盛りも過ぎ去り、実りの季節をも過ぎ去り、冬の盛りを迎えた日本から大切で腹の立つノンノへ

ティモ、お元気ですか? もうご老体なので無茶をしないでね
早速ですがここで一つ訴えたいことがあります
ボンゴレ式の誕生日祝い、今すぐ辞めて下さい
ティモが送ったアルコバレーノのせいで綱吉が誕生日を病院で過ごす羽目になりました
いい加減腹が立ちます
段ボールにプチトマトと一緒に詰めてイタリアに送り返したいぐらいです
実行しないのは私の綱吉への優しさです(いつか綱吉がアルコバレーノに勝てる日が来ると信じていますので)(たぶんきっと綱吉がアルコバレーノを滅してくれます)(まぁ、これは希望に過ぎませんが)
そこら辺よろしく
アルコバレーノに対する不満は尽きそうにないのでここら辺でやめますね

そうそう
ティモが私の護衛に送ってくれた嵐ちゃん(ランちゃんと読みます。大きな目を潤ませてそう呼ぶようお強請りされました)に写真を撮られたのですが、何に使うかしっかり用途を教えて下さいね
くだらないことに使ったらリング割ってから送るから
私は本気です

それから
綱吉の周りに群がる人達が姉に色目を使ってきます
特にあのキャ、キャッ、キャッバローネ? キャバッローネ? のディーノさん? が酷いです
ヘタレさんは姉の守備範囲外なので今度はツンデレさん辺りにして下さい
もしくは綱吉みたいな小動物
間違いなく喜ばれますので

あ、もう一つ
この間の手紙に同封されていた星をモチーフにしたピンキーリング、ありがとうございます
サイズがぴったりなのが思いの外怖いんですけどティモもイタリアーノだってことで無理矢理納得しておきます
本当にありがとうございました

シェスタをしっかりとって長生きして下さい
雪・静玖より




ごきげんよう、私の可愛い雪

綱吉くんの誕生日の件、こちらからちゃんとリボーンに抗議文を送ったからもう安心して大丈夫だよ
本当に済まない
でもどうかリボーンをプチトマトと一緒に箱詰めだけは辞めておくれ
君の綱吉くんに対する優しさに感謝すると同時に、リボーンの容赦のなさに苦笑するしかできないノンノを嫌わないでほしい
ノンノもノンノなりに二人の安全を考え、アルコバレーノを送ったのだから
リボーンに対する不満なら、この手紙にどんどん記して構わないよ
それで君の苛立ちが晴れるなら、いくらでも付き合おう

君の写真についてなんだが、ただ私が欲しかったから撮ってもらっただけで、変なことには利用しない
この手紙と一緒に誓約書を送ったから保管しておいてくれると嬉しい

それから君の姉のお婿さん候補を私は送った覚えはないから注文はリボーンにしたほうが確かだと思う

ピンキーリングの件、喜んでくれたようで嬉しいよ
あれを選ぶのに付き合ってくれた者にもきちんと伝えておくね
出来れば肌身離さず持っていてほしい
雪のリングとともに君のためのものだから

リングや君自身について、きっと疑問を抱いたと思う
聞きたいことがあるならいくらでも聞くから、手紙に記しておくれ

遠いイタリアから私の雪に愛を込めて









ぽとん、と手からペンを落とした。
返事が思い付かない。うーん、どうしよう。
リングについては、いっそのこと本人に会ってその口からちゃんとした説明を受けたい。
正直、文章だけで理解できるほど理解力は私にはない。
机の上に広げたまま置いてあるイタリア語の辞書を閉じ、天井を仰いで目を閉じる。
酷く寒くなった冬を迎えたけれど、私は相変わらずだ。
何も変わらない。変わったのは季節と綱吉の周りが相も変わらず賑やかになっていくことだけ。
また深琴ちゃんが誰かをオトしたらしい。
誰かって、キャバッローネ(噛みそう)のディーノさんって人。
遠目から見ても金髪きらきらの美しい人だった。
でもヘタレさんらしい。これは深琴ちゃん談。ヘタレさんかぁ。深琴ちゃんの好みとはちょっとずれる。
深琴ちゃんの好みというか、興味が持てるものは『ツンデレ』と『小動物』だ。『妹属性』は同性になるからこの際除外するけれど。
ふ、と息を吐いて避けていた手紙を見る。
流暢なアルファベットの並びにそっと目を伏せて、その天辺でゆらゆら揺れながら燃え続ける火をじっと見た。
いつかの剣道場で、いつかの体育祭で綱吉が額に出していた炎とは気持ち色が違う───厳密にどう違うとか説明出来ない───その炎は、きっとティモのものだろう。
つん、と炎を人差し指で指しても熱くはない。どういう原理だろう。
綱吉の額のあれは触れたら間違いなく怪我をしそうだ。
コンコン、と部屋のドアをノックされ、誓約書を折りたたんで机の引き出しにしまってからノックに応じれば、ドアを開けたのは綱吉だった。

「今、大丈夫?」
「一人?」
「全部深琴に預けてきた」

てへ、と笑う綱吉にそう、と目を細めて返事をし、どうぞ、と中へ促す。
少し疲れた顔をしている綱吉に、思わず目を瞬かせた。
椅子から立ち上がってベッドの淵に座り、隣をぺしぺし叩けば綱吉がぽすんと座った。
京子ちゃん相手だとこんなことできないヘタレさんのクセに、と悪態を付くのはもちろん心の中で。
額に手を添えて熱がないか確かめようとして、眉を寄せた。
そうだ、今の私では正常値がわからないじゃないか。
冬になってからも当たり前のようにひんやりと冷たい指先をきゅっと握りしめ、もう一度彼の名前を呼んだ。

「で、何しに来たの?」
「会いに来たんだよ」
「………は?」
「や、なんでそこで眉寄せられるかがわかんないから」
「なんで私に会いに?」
「なんでって………」

目の前で深い深いため息を吐かれる。
なんでよ、私、何かした?
いまいち綱吉の反応が納得出来ない私はきゅう、と再び眉を寄せた。

「深琴が心配してた」
「何を?」
「『ただでさえインドア派なのに最近輪をかけてインドア派だからツーちゃんちょっとどうにかして』って」

言われ、ぱちくりと目を瞬いた。
言われてみれば、確かにそうかもしれない。
でも、特別外に出る機会がないし必要ないし、子雨達の仕事を考えると、あまり動かない方が良いんだよね。

「うーん、だってなぁ、外に行く理由がないし。ほら、学校にはちゃんと行ってるから問題ないし?」
「まぁ、俺もインドア派だけどさ」
「ゲーム大好きだもんね、綱吉」
「うん」

最近はゆっくりゲームもしてられないけど、と苦笑する綱吉に、そりゃそうだと心の中で呟いて頷き返す。
その刹那、琥珀色の綱吉の瞳が金色に輝いたように見え、目を細める。
綱吉の瞳は、相変わらず琥珀だ。

「………ねぇ、静玖」
「ん?」
「俺に、隠し事してない?」
「………どうして?」
「んー、なんとなく?」
「なんとなく、って」

なんだその根拠、と呟けば、綱吉は珍しく難しい顔をしていた。
難しい顔と言うか、険しい顔と言うべきか。
平和主義者、争い反対派の綱吉がこんな表情を浮かべるぐらいだから、その「なんとなく」は意外にも大きな根拠なのかも。

「綱吉、私は───」
「別に、無理に聞き出したいわけじゃなくってさ。隠し事されてるのがちょっと寂しいなって」
「………可愛い反応するよなぁ、君は」
「お前まで何言っちゃってんの?」

頭大丈夫? と少し冷めた視線を送ってきた綱吉にからからと笑ってしまった。
うん、やっぱり綱吉は可愛い。深琴ちゃんのお気に入りなだけはある。
綱吉、と彼の名を呼べば、綱吉は「ん?」と首を傾げた。
ここで暴露するわけにはいかない。
私が、ティモの手駒になるわけにも、綱吉の『外堀』になるわけにもいかない。

「ごめんね、綱吉」
「静玖?」
「ごめん」
「───大丈夫だよ、静玖」

綱吉の肩に額を乗せて俯けば、そっと手を握られた。

ぽとり、零れ落ちたのはただの涙か、後悔の涙か。



- 10 -

[] |main| []
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -