08

「リボーンは貴方には渡さないわ」
「だからわたしはショタじゃないってば!」
「確かにリボーンは素敵よ。誰よりも格好良いわ」
「イヤだから人の話聞いてよ!」

ふわ、と欠伸一つ。
別嬪二人がぽこぽこ言葉を交わし合うのを見ながら、さっき自販機で買った缶の紅茶を飲んで美味しくないと眉を寄せた。
やっぱり缶ものは駄目か。
でも勿体無いのでこくこくと紅茶を飲んで喉を潤していると、深琴ちゃんの目がこっちに向いた。
うんまぁ、会話にならないからすごい疲れるよね。
じっと外国産の別嬪さんが私を見てきた。
いつかの雲雀先輩に感じた、捕食者の目だ。………怖い。別嬪さんだから余計に怖いよ。

「………なにか」
「貴方もまさかリボーンを?」
「私、その人に会ったことないんですけど」

深琴ちゃんに頼んで公園まで外国産の別嬪さん───ビアンキさんを連れてきてもらったために、私はアルコバレーノに会うことなく彼女と会話をしている。
私は会ったこともない人を好きになるほど、愛せるほど博愛主義者ではない。
さて、と。

「初めまして、私は深琴ちゃんの妹です。どうぞ宜しく」
「ビアンキよ」

名前を名乗らない私に特に反応をしなかった辺り、特別関わる気はないんだろう。
私としてはとっても助かる。
私だってティモや綱吉、ティモの周り以外のマフィアに関わる気はない。特にアルコバレーノと関わる人と関わる気はない。
だって疲れるのはこっちだもの。

「ビアンキさんは、その『リボーンさん』って方が好きなんですよね?」
「えぇ、愛しているわ」
「でも、貴方がリボーンさんを愛しているからって他人までもがそうだとは限らないですよ?」
「でもリボーンより素敵な男なんてこの世に居ないわ」

恋する乙女ってメンドクセー。
口からでそうになった言葉をごっくんと無理矢理飲み込んで、不安そうに見上げてきた深琴ちゃんにそっと笑った。
やるって言ったのは私だ。どうあってもこの『暴走恋する乙女』を止めなければならない。

「例えばビアンキさん」
「なにかしら」
「深琴ちゃんは『ビアンキさん』ではないのだから、必ずしも好みが一緒ではないと思うんです」
「………それは、」
「貴方がリボーンさんをどれだけ愛しているかはまぁ、端から見てても理解できます」

だからここまで暴走してるわけだし。
半分ぐらい飲んだ缶の紅茶を深琴ちゃんに押し渡して、苦悶の表情を浮かべたビアンキさんを今一度見る。
この人、ちゃあんとわかってるんだ。
だけど、リボーンさんへの愛が深くて深くてどうしようもないから、ちょっと暴走して他人までもがリボーンさんを愛しているんじゃないかって思っちゃうんだ。
それも理解しているけれど、だからこそ苦しい。そしてドツボに嵌って這い出せない。

「ビアンキさん、座りましょうか」
「………えぇ」

開いたベンチに私から座れば、その隣に深琴ちゃんが、反対側にはビアンキさんが座った。
いや、二人とも引っ付きすぎだから。
なんでぴったりくっ付いて座るかなぁ。意味わかんないんですけど。
しかも深琴ちゃんはなんで腕を絡めてくるの。ちょっと、なに、そのシスコンっ。わざわざビアンキさんの前でする必要ないから。
いや、リボーンさんに興味がないってコトを示すにはこれで良いのかな?
………絆されてるぞ、自分。

「ビアンキさん、本当にそのリボーンさんって人が好きなんですね」
「えぇ」
「だから彼に近付くものが嫌い」
「………えぇ」
「じゃあ辛かったですよね」

言えば、彼女はきょとんと目を丸くした。
え、なにその「この子何言ってんの」的な反応は。
うーん、だってリボーンさんに近付く女の子すべてを嫌ってたら疲れちゃうよね、普通。
私なら疲れるなぁ。
まぁ、なにが凄いって、それだけリボーンさんに対する愛が深いってことだよねぇ。

「好きな人以外を嫌わなきゃいけないのは、辛いですよ」
「………………」
「深琴ちゃんみたいに『興味がない』って切っちゃえば相手を気にする必要はないのかもしれないけど、でもビアンキさんのそれは深琴ちゃんのそれとは違うでしょう? すべてが『敵』だから、気を張っていなきゃいけない」

押し黙ったまま私の話を聞いてくれるビアンキさんにそっと笑うと、ぎゅう、と腕に力を込めて深琴ちゃんがその存在を示してきた。
なあに、とそっちを見れば、少しだけ腰を背もたれからずらして座っていた深琴ちゃんは下から覗くように上目遣いで私を見てきた。

「………なあに」
「ううん、なんでも。大好きよ」
「うん、ありがとう」

いつも聞く深琴ちゃんからの告白はあっさりとスルーしてビアンキさんを見る。
きゅう、と柳眉を寄せて目を伏せ、その淡く色づいた唇に薬指を添えるように顔に手を添えていた。
あぁ、美人さんはどんな顔しても美人だなぁ。
そんなのんびりとした感想を抱いた私は、反対側で嫉妬の炎を燃やしている深琴ちゃんの存在を視界に入れないようにしていた。
あぁもう。
絡んでいた腕をそっと離して、絡められていた手で手を握る。ついでに言うなら恋人繋ぎという優しさを混ぜて。
きゅん、という音が聞こえた気がしたけど、無視だ、無視。
私は近親相姦をする気もなければ、同性にも興味はない。興味ないんだってば、深琴ちゃんっ。

「それで、ビアンキさん。今まで、大変でしたね」
「………そう、かしら」
「そうですよ。だって出会う女の子みんな敵なんですもん。疑うのって、信じるより大変だし、辛いと思うんです」
「そうね。それは確かにそうだわ。───そう、だったわ」

伏せられた瞳に淡い色を抱いていた。
暴走さえしなければ恋する乙女は可愛らしい。
思わず力無く笑うと嫉妬深いお姉さまがぎりぎりと手に力を込めてくれるのでそっと苦笑した。
本当もう、そろそろ落ち着こうよ、そのシスコンパワー。

「貴方は凄いわね」
「は、私?」
「えぇ、貴方」

うっとりと目を細められ、思わずついと眉が寄った。こればかりは仕方がない。
なんでそんな反応を返されなきゃいけないんだ。
私はただ、思ったことを口にしてるだけなのに。

「ねぇ、ビアンキさん」
「何かしら」
「深琴ちゃんの、リボーンさんに対する感情、理解してくれますか?」

今日の一番重要な点はここだ。誰がなんと言おうとも。
ビアンキさんがリボーンさんに近付く他の女の子に対しての行動が改まろうがなかろうが私には関係ない。
問題なのは、深琴ちゃんの言を信じるか否か、だ。
でなければわざわざ彼女を公園まで呼び出した意味がないし、仲裁に私が入った意味もなくなる。

「あたしはリボーンが好きよ。でも深琴は『そう』じゃない」
「───っ」
「そういう事よね、深琴」

噛み締めるように呟いたビアンキさんに、深琴ちゃんがきらきらとした視線を向ける。
あぁ、なんて可愛らしいことか。
思わず目を見せて薄く笑えば、張り付いていた深琴ちゃんが私から離れてビアンキさんに抱き付いた。
大団円、と言ったところかなぁ。
ベンチから立ち上がると、胸元のリングがセーターに隠れたままに揺れた。

夏の猛暑は、すぐそこに顔を覗かせていた。



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