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ミルフィオーレの敵アジトに近づいたら、草壁先輩が足を止めた。
そうしてくるりと振り返り、凪ちゃんに一言。

「クロームさん、幻術を」
「うん」

幻術………?
聞き慣れない言葉に首を傾げつつ、凪ちゃんの行動を待つ。
するとふわっと辺り全体を霧が包んだ。
それがしゅうぅ、と草壁先輩や凪ちゃんの身体にまとわり付く。
あ、と思ったときには2人はその姿を変えていた。
えぇえ!

「凄い。くーちゃん、魔法みたい!」
「幻術だよ、静玖。ちょっと馬鹿っぽいから口閉じて」
「………はあい」

馬鹿っぽい、とか言われたらさすがにイラッと来るけれど、相手が雲雀先輩だから口を閉じる。
勝てるはずがない。

「雲雀先輩、幻術ってなんですか?」
「………そうだね。君は知らないんだったね。僕から口にするのも面倒だから、いつか六道に聞けば良いよ」
「骸くんに?」

ぱちぱちと目を瞬かせる。
あれ、雲雀先輩も骸君と知り合いなの?

「君、その頃からそう呼んでるんだ」
「え、あ、はい」
「………なるほどアイツが図に乗るわけだ」
「???」

忌々しげに呟いた雲雀先輩を見上げ、それからそっとため息を吐いた。
なんか機嫌悪いなぁ。なんで?

「雲の人と骸様、仲悪いの」
「そ、そうなんだ」

体格の良いミルフィオーレの人の姿で凪ちゃんのままの声で話すから、ちょっとビビる。
な、凪ちゃん、声も変えようよ………!!

「さ、行きましょう」
「はい」

ふわ、と、私と雲雀先輩も霧に包まれる。
思わず身を固くすると雲雀先輩がそっと肩を抱いてきた。
触れた温もりに緊張と恐怖が解けて、小さく安堵のため息を吐く。
ミルフィオーレの人になった草壁先輩がなにやら機械をいじると、じじ、という雑音が響いた後、画面がパッと点いた。

「ッ───!!」

画面越しに見えた姿に悲鳴を上げそうになる。
だけどそれは雲雀先輩が後ろから私の口を塞ぐようにして防いだ。
かたかたと震える身体を抑えつけるように、無理矢理胸の前で手を握る。

「入江様、雲雀恭弥との戦闘は継続中! こちらの負傷者は相当な数です。ですが現時点ではこちらが優勢!! 雲雀を倒すのは時間の問題です!」
『そうか。相手を考えれば満足すべきなのかもな………。ご苦労、休め』

ブツッと通信が切れる。
それと同じタイミングでくらりと身体が傾げた。

「しっかりしなよ」
「………はい」
「じゃ、これからは別行動だから」
「はい、気を付けて下さい、恭さん」
「ほら行くよ」
「え?!」
「君はこっち」

肩を抱かれたまま、凪ちゃん達から離れる。
あぁ、本当に別行動なんだ。

「君の疑問、答えてあげる」

ぼそり、と私の耳元で小さな声で囁く。
思わず雲雀先輩を仰ぎ見ると、雲雀先輩は少しだけ身を屈ませて、私の腰に腕を回した。

「わぁ………!」
「静玖ちゃん………!」
「クロームさん、行きますよ」
「っ、」
「くーちゃん、大丈夫。たぶん、うん、きっと!」
「君、もう少し僕を信用したらどうなの」

よいしょと言わんばかりに肩に担ぎ上げられ、思わず声が漏れた。
凪ちゃんが私の悲鳴に対して名を呼んでくれたので、少しほっとする。
そんな私を見て、雲雀先輩が低い声を響かせた。
ひぃ………!

「静玖さん、こちらを」
「?」
「救急道具です。恭さんのこと、宜しくお願いします」
「あ、はい」

会話を無視して歩き出す雲雀先輩に慌てながらも、草壁先輩に渡された荷物をしっかりと抱える。
俵のように抱えられているので、頭から下に落ちないように、雲雀先輩の肩をしっかりと掴んだ。

「首に手を回して」
「ふぇ、」
「その方が僕が楽だ」

はぁ、と短く、そして曖昧に返事をすると、雲雀先輩の腕に乗せられるような抱え方になったので、荷物を膝の上に乗せて雲雀先輩の首に腕を回した。
うう、なんかこれ、恥ずかしい………!!

「入江正一」

雲雀先輩の声が淡々と響く。
びくん、と肩を震わせると、雲雀先輩はくつりと笑った。

「沢田綱吉達がここに来たのは入江正一を倒すためだ」
「え………?」
「まぁ、お互いにとって『表向き』の理由だけどね」
「………………………へ?」
「つまり入江正一は、敵でも味方でもないってことだよ」

ぼぅっとリングに炎が灯される。
………………雲雀先輩、何をするの?

「だから僕は、これから破壊しに行くんだよ。───スケジュールを埋めるためにも、ね」

かちっとリングを匣に嵌める。
匣からアーマーを背負ったハリネズミが出て来て、壁を壊していった。
ええと、つまり。
………このまま進んでいけば、正一くんに会えるってこと?
そうしたら、正一くんを信じたこと、間違いじゃないってわかるかな。

全ての答えがこの先にあるのだと信じて、雲雀先輩の首に回した腕に力を込めた。



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