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雲雀先輩の匣兵器が豪快に壁を破壊していく。
い、良いのかな。って言うか、普通はこう、隠れながら行動するんじゃないの? 違うの?
危ないので雲雀先輩にしがみついて、飛んでくる壁の破片から逃げる。
ちょっ、豪快過ぎるよ、雲雀先輩!!
飛んできた破片を片手で去なした雲雀先輩は、迷いの無い足で歩いていく。
棘を纏った雲ハリネズミはちゅきぃっ、と楽しそうに笑った。

「楽しそう………」
「僕が?」
「あの子が」

すっと雲ハリネズミを指差す。
すると雲雀先輩はくすりと笑って、私を抱え直した。

「先輩、重いなら降ろして下さい」
「駄目。君の足の遅さに合わせてる暇はない」
「………そう、ですか」

足が遅い、とすぱんっと言われて思わずしょんぼりする。
そ、そりゃあ、速くはないよっ。
でも先輩達と比べて遅く感じるのは、ぜったい足の長さが関係してると思う。ぜったいそうだ。
むす、と少しいじけてふてくされていると、ヘッドホンから何か聞こえてきたのでそっとヘッドホンに手を添える。
あれ、今の声、誰の………?

「どうしたの?」
「ん、ちょっと誰かの声が………」

しかしヘッドホンから再び声が聞こえてくることはなく、少し眉を寄せる。
今の声、誰………? わりと身近に聞いた声なはず。
───そうだ、この声!

「山本君だ………」
「山本武?」
「そう、あの声、山本君です」

呻き声だったか分かり難かったけれど、聞こえた声は山本君だった。
きゅ、と口を閉じる。
そうだ、私達は遊びに来たわけじゃない。
精神を引き締めると、ぱりん、と何かが高い音を立てて砕ける。
何事か、と思って雲雀先輩を見れば、その指に填めてあったリングが砕けていた。
───え。

「リングって砕けるんですか?!」
「精度良くないからね」
「精度?」
「そう。出来が良くないリングだから、僕の炎に耐えられないんだよ」
「はぁ」

なるほど、と思いつつ、そっと自分のリングを見る。
それから、再びリングを手に嵌めた雲雀先輩が匣に炎を注入すると、雲ハリネズミがその声を高く上げた。
そうしてまた、豪快に目の前の壁を破壊していく。
邪魔な物がなくなった視界の先、男の人が1人、倒れてる山本君、ラルさんが見えた。

「───………!」

悲鳴にならない声が口から漏れる。
そんな私を強く抱き直して、雲雀先輩がゆっくりとその口を開いた。

「丁度いい。───白く丸い装置はこの先だったかな?」

雲雀先輩の声は淡々としている。
山本君やラルさんの状況を見ても、だ。
ゆっくりと腕から降ろされたので、その足で山本君の傍に寄った。
頭を打ったかのように血が流れてる。
悲惨な姿に眉を寄せ、こんな姿の山本君に会うのは2回目だ、と独りごちた。
草壁先輩から渡されたリュックの口を開いて消毒液やら包帯やらを漁る。
あの時───リング争奪戦で雲雀先輩やディーノさんについて行かされたのが役に立つなんて思わなかった。

「ボンゴレ雲の守護者、雲雀恭弥か。………その問いに答える必要はない」

かちり、匣に炎が注入される音が聞こえて慌てて顔を上げた。

「貴様はここで死ぬのだからな」

ぶわっと匣が開いた途端に部屋の中が植物で覆われる。
あまりの出来事に慌てて山本君の頭を庇うように抱きしめた。
しゅるしゅると蔦が這い、雲雀先輩が破壊した壁の破片をも覆い尽くす。

「静玖、炎を纏いな」
「え、でも」
「君が自分でコントロール出来るだけの量で充分だから」

背を向けたまま語られる。
草木の上にぺたんと腰を降ろして、山本君の頭を膝に乗せ、それから左中指に輝くリングを見詰めた。
───こわい。
この炎を扱うのが、凄く怖い。
だけれども、

(自分の身は、自分で護るって決めたんだ)

雲雀先輩が言うんだから、それが自衛に繋がるんだろう。
右手で左手を包むようにして握りしめ、胸に添える。
ゆっくりと、深呼吸。
ぽわり、と弱々しい光が、右手の隙間から漏れた。

「………君は、霧の幻術使いのようだね。君に個人的な恨みはないけど、僕は術士が嫌いでね。───這いつくばらせたくなる」

私が炎を出したのを確かめてから、雲雀先輩が新しいリングを指に填め、炎を纏わせる。
雲雀先輩の強さを語るような、荒々しい紫の炎だ。

「雲雀恭弥…。ボンゴレ最強の守護者だという噂は聞いている。それが真がどうか確かめよう」

そうして、腰に四本の剣をぶら下げた人と雲雀先輩の戦いが始まった。
何もないのに雲雀先輩が避けたかと思ったら爆発が起きたり、相手の男の人が瞬間移動みたいなことしてみたりと、なんかびっくりするような戦いだ。
ま、マフィアの戦いってみんなこうなの………?
目を白黒させる。
雲雀先輩がこうなら、一体綱吉は、獄寺君は、山本君は、了平先輩は、どうやって戦うんだろう。
思わず変な想像をしてしまって、慌てて首を横に振った。そんなこと考えてる場合じゃない!
そっと山本君に触れて傷の具合を確かめる。
まぁ、結局は素人だから、あんまり意味は無いのだけれど。
でも一体、どうやったらこんな傷が出来るんだろう。
───出来ること、やらなきゃ。
雲雀先輩が戦う音を聞きながら、私は山本君の手当てをする。
そうだ、ラルさんは。
そう思って身を翻した時、しゅるりと蔦が伸びてきた。

「───!!」

山本君がこれ以上怪我をしないように、と目をぎゅうっと閉じて彼を抱え込む。
だけど予測した衝撃は襲ってこなかった。
………?
ゆっくりと、恐る恐る目を開くと、蔦は私の炎に触れると、ぱしゅん、とその姿を消していた。

「………ははっ」

炎の力って凄い。
思わず乾いた笑い声が出た。

だけれど、そんなことが出来てしまう炎に改めて恐怖を感じたのは仕方のないことだった。



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