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小袖に袴。
軽いのに薄くない。
それが不思議なんだよね、この和服。
しかも動きやすいときた。
本当、不思議だなぁ。
この服に合わせたブーツを履いて基地を出る。
財団への連絡通路を通ってそちらに行けば、草壁先輩が待っていた。

「静玖さん、こちらに」
「あ、はい」
「雲雀が帰ってきたら、ここを出発します」
「はぁ」
「………静玖さん? もしかして、何も聞いていないのですか?」

気の抜けた私の返答を不思議に思った草壁先輩が目を瞬かせた。
え、えぇと、そんな反応されてもこちらも困るのですが。
じっと草壁先輩を見上げる。
すると草壁先輩がこめかみを軽く揉んで、それから息を吐いた。

「静玖さん、聞いて下さい」
「はい」
「我々はこれからミルフィオーレの日本支部である敵アジトに突入します」
「はい?!」

何それ、聞いてない!!

「なので、雲雀か私か………雲雀の傍から離れないで下さい」
「雲雀先輩以外の選択肢は無しですか」
「以外の、と言うと?」
「私が同行しない、とか」
「それは───」
「………………静玖ちゃん?」

後ろから聞こえた声に振り返る。
そこに居たのは凪ちゃんで、なんだか物騒な物を持っていた。
大きな瞳をくるりと丸くした凪ちゃんは、物騒な物の柄をきゅ、と握りしめた後、片手で私の手を繋ぐ。

「来て」

どこか焦った凪ちゃんに、頷く間もなく連れて行かれる。
な、凪ちゃん、もう大丈夫なのかな。

「静玖ちゃん、どうしてここに?」
「え、えぇと。私が、綱吉と幼なじみなんだ」
「ボスの………? じゃあ、あの人の関係があるの?」
「『あの人』?」
「ボスの傍に居る、人」
「…………あ! もしかして、深琴ちゃんのこと?」

綱吉の傍に居るって言ったら、深琴ちゃんのことだろう。
それ以外考えられないもんね。

「深琴ちゃんとは姉妹なんだよ。………凪ちゃんはどうしてここに?」
「わたし、ボスの霧の守護者なの」
「凪ちゃんが………?」
「本当は骸様。わたしはその代理」
「そっか………」

淡々とした口調で言う凪ちゃんに、ふぅん、と呟き返して、それからきゅ、と凪ちゃんと握った手に力を込める。
くうるり、と凪ちゃんがまたまあるくて大きな目を更に丸くした。

「でも、会えて良かった」
「………うん」
「あ、そうだ、凪ちゃん。凪ちゃん今、違う名前、使ってる?」
「………クローム、髑髏。それが今のわたしの名前」
「そっか。じゃあ、私もそう呼んだ方がいいよね?」
「えっ?!」
「え?」

驚く凪ちゃんに、思わず私も妙な声を返した。
え、え………?

「2人の時は。───2人の時は、今までの方が良い。静玖ちゃんには、『凪』で呼ばれたい」
「今まで通り?」
「うん」
「わかった、そうするね。………それにしても、『クロームちゃん』って言いにくいねぇ」
「『クローム』で良いよ?」

それはつまり呼び捨てってことかな?
ううん、でも、なんか違う気がするんだよね。
クローム、クローム、クローム………あ!

「くぅちゃんとかは?」
「く、『くぅちゃん』?」
「うん。あ、でもせっかく素敵な名前なのに変な呼び方は駄目かぁ」
「ううん。………ううんっ、そんなことない!」

白い肌がチークを乗せたように赤く色づく。
少し健康そうに見えるその様を見て、凪ちゃん、まだ本調子じゃあないみたいだなぁ。

「静玖ちゃんだけなら、良いの」
「ふぇ」
「静玖ちゃんはわたしの『特別』だから。静玖ちゃんがわたしにくれるものは何でも、………何でも良い」

ふわりと優しそうに微笑む凪ちゃんにとくんと心臓が高鳴った。
ちょっ、美少女の微笑み………!
思わず鼻を抑える。………私は変態か。
私の名前を呼びながら首を傾げる凪ちゃんに何でもない、と一言断ってから煩悩を頭から投げた。

「静玖ちゃんも、行くの?」
「んー、うん。そうみたい」
「気を付けてね、静玖ちゃん」
「凪ちゃんも、だよ」
「………うん」

物騒な物………槍? を手放してきゅう、と抱き付いてきた凪ちゃんを抱き返す。
これから何が待ち構えてるかわからない。
だけど、無事に帰ってくるんだと言う決意をして草壁先輩の所に戻った。
そこには少しくたびれたスーツを着ていた雲雀先輩が居て、私を見て、あのにぃっこり、と言う微笑みをする。
………!!

「後は実戦あるのみ、って言ったよね」
「………………なるほど、実戦」

って、納得出来るか………!

そうは思ったけれど、雲雀先輩に言ったところで意味を為さなそうなので言葉を飲み込んだ。



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