『敵は大勢居るんでしょ? 一人じゃ無理だ! 俺たちも行かなきゃ!!』
ツナがマイク越しに訴えてくる。
まぁ、ツナならそう言うだろうな。
だが、それを認めてやるわけにはいかない。
『ならん!! それではヒバリが体をはる意味がなくなる!!』
「集中した敵の兵力をヒバリが一手に引き受けることで、地上と敵アジトの戦力は手薄になるんだ。ヒバリの行動による報いたければ殴り込みを成功させろ」
畳み掛けるように言えば、ツナがマイクの向こうで言葉を飲んだのがわかる。
さらに畳み掛けるようにジャンニーニが口を開いた。
「地上監視ポイントより信号確認! コースクリア。十代目、今ならそのままFハッチよりルート312で敵アジトへつっ切れます!!」
『ぐっ…』
「おまえはヒバリの強さを知ってるだろ? ツナ」
『………わかった』
ツナの決意が決まった途端、ひょいと抱えられた。
───静玖だ。
「綱吉ぃ」
『静玖………?』
「行って、らっしゃい」
ぼんやりとした声が響く。
まるで寝ぼけた声だ。否、寝ぼけているんだろう。
俺を抱え、マイクに顔を近付けて喋り、近くのソファーにぼすり、と腰掛けた。
『ジャンニーニ、ハッチを開けてくれ。───静玖、行ってきます!』
静玖が関わると本当に意気込みが早い。
ツナにその自覚はないかもしれないが、静玖が関わるとツナは本当に男気がある。
「へへ、綱吉」
ツナの声を聞いて安心したのか、静玖はそのまま事切れた。
ふぁ、と小さな欠伸をして目を覚ます。
よいしょ、と身体を起こして部屋を見ると、また違う部屋に居たことに気が付いた。
で、え、えぇ………?!
「おぅ、起きたか、静玖」
「リ、リボ先生? あ、おはよう。………じゃなくて! ここ、」
「ん?」
「いや、『ん?』じゃなくて、」
「…………お前、まさか覚えてないのか?」
ぴょん、と飛んで私の膝にやってきたリボ先生に首を傾げた。
『覚えてない』って、何を?
「ツナたちを見送るために、わざわざ自分で来て、『行ってらっしゃい』って伝えてたぞ」
「え、えぇえ!」
「しかも『行ってきます』を聞いた途端、すこんっと寝たんだ」
「まさか、そんなはず、」
「いえいえ、そのまさかでしたよ、雪の方。寝ぼけ眼でここにやって来て、十代目と言葉を交わしたらそのままぐーです」
うっそお?!
確か、ジャンニーニさん、だっけ? が機械をいじりながら説明してくれる。
それにしたって、ちょ、自分がやったことが信じられないんだけど………!!
「いや、なんで!」
「静玖?」
「いくら綱吉がどっか行くからってなんで私がそれに反応するかな意味わかんない」
「別に一息で言う必要はねーだろ」
「だって!」
綱吉と会話した記憶がないんだもん。
「まぁ、それだけ無意識にツナを心配してたって事じゃねーか」
「そ、そういうものなのかなぁ………」
そうじゃない気もするんだけど………。
思わず頭を抱える。
するとリボ先生が小さな手を伸ばして私の頭を撫でた。
はぅ、リボ先生に慰められるなんて。
「うう、リボ先生ぇ」
「よしよし、だな。静玖」
くっそ、勝てない。
「俺に勝つなんて百年早いんだぞ」
「………はぁい」
素直に頷いておく。
じゃないと何を言われるかわからない。
「そうだ、雪の方」
「………それ、私のことですか?」
「はい。私はジャンニーニと申します。これをどうぞ」
そう言って渡してきたのは一つのヘッドホン。
耳に当てるまあるい部分に雪だるまの絵が描いてあってちょっと可愛い。
そして何より、ふさふさが付いてるのが良い。
「十代目とお揃いです」
「へぇ!」
「無線機だからマイクも付いてるぞ」
「あっ、本当だ」
リボ先生に言われて、マイクを出す。
お、おぉ、本当に無線機っぽい。
………でもなんで私に無線機?
「ヒバリが頼んだんだぞ」
「雲雀先輩が………?」
まるで心を読んだかのようなリボ先生の発言とそのタイミングに首を傾げつつ、ヘッドホンを握る。
それから思わず装着。
はぅ、ふわふわ………。
「静玖、着替えてから行け。草壁が待ってるぞ」
「へ、あ、うん」
「あぁ、待って下さい、雪の方。こちらを」
「………?」
「‘オートマモンチェーンリングカバー’と言って、使わないときは蓋が閉じてリングを探知されないようになります」
かち、とリングに付けられた透明のカバー。
これ、えぇと、オートなんとか。要はリングを持つ人間に取っては必需品ってこと、だよね。
「フィーのおしゃぶりは俺が預かっておく」
「え………? ラルさんは?」
「ラルもツナ達と一緒に行っているからな」
「うん、わかった。じゃあ、預けるね、リボ先生」
「おう。………静玖」
「なあに?」
「着替えるのは草壁達に渡された和服に、だぞ」
きょとん、と目を丸くする。
え、なんで和服………? 用意してもらってる洋服じゃ駄目なの?
「わかったか?」
「あ、うん」
「じゃあ、行ってこい」
「………行ってきます」
よくわからないけれど、とにかく行かなきゃいけないらしい。
そうして私は、知らない内に大変な事に巻き込まれていたのだった。