49
翌朝

棚に置いてある小物入れからスクールリングを取り出して、手のひらにのせた。買ってからそこに入れていたから綺麗なままだ。

ずっと出番がなかったけどやっと本来の使い方が出来るようになるリング。一応でも買っておいてよかった。

リングを眺めていると着信音が流れた。画面をみれば千隼くんの名前が表示されている。

『もしもし?千隼くん?おはよう。どうしたの?』
「おはよ。…豹がいなくなった。これから豹が住んでるアパート行くつもり。だから今日一緒に行けないって伝えたくて。」
『柿木園豹が?…久実は、しってるの?そのこと。』
「今竜生が連絡してる。」
『そっか…私も行ってもいい?もう行く準備は出来てるから。』


千隼くんはわかった、というと駅で待ってると言って電話を切った。
待ち合わせ場所にはスマホを耳に当てている千隼くんがすでにいて、私に気づくとスマホを下ろした。

『柿木園豹電話にでないの?』
「あぁ。さっきからかけてるけど留守電になる。とにかく、アパート行こう。竜生も先に行ってるから。」
『うん。』


千隼くんの案内で柿木園豹のアパートに行くと竜生くんとカンナがいた。

『おはよう。竜生くん、カンナ。柿木園豹いた?』
「それが…」
「みんな!豹くんは!?」

少し遅れてあわてたように久実が来た。
柿木園豹が住んでいた部屋はなにも置いてなくて空き部屋になっていた。

「わかんねー。さっき来たらもう部屋引け払ってて、電話もずっとかけてるんだけど繋がらなくて、熊倉サン何か聞いてない?」


竜生くんがきいても、久実は呆然として立ってるだけだった。

「もしかしてさ…失恋の痛手に耐えかねてでて行ったとか…いや…望みがないことを期待しながら待つって、どんなに覚悟してでも辛いから…さ。」
「日吉!」
「わかってる!誰が悪いわけでもないし、熊倉サンの気待ちが1番大切だって。けど、豹の気持ちもわからなくはないっていうか…」


竜気くんの発言に、久実は自分を責めるような後悔の表情をみせた。
私は優しく久実の肩に手を置いた。


『そんなことない。大丈夫。』
「豹なら大丈夫だろ、また戻ってくる。」

千隼くんも久実の頭に手を置きそういった。

久実は探すと言ってその場から駆け出した。

『久実!』

とっさに久実の腕を掴んだ。

『探すってどこを探すの?当てもなく探すの?落ち着いて。』
「でも!」
「クマ女。…あいつの実家の住所。」

千隼くんは久実の手にメモ書きを載せた。

「ここを出ていったなら行くところは多分ひとつだから。…行ってこい。」
「うんっ」
『行ってらっしゃい、久実。』
「行ってきます。真希ちゃん」

久実は笑ってその場から走り出した。
その後ろ姿を見送りながらとなりに立つ千隼くんに話しかける。

『久実…会えるといいね。』
「あぁ」
『本音を言うとね、少し不安になった。』
「なにが?」
『本当は千隼くん、久実を行かせたくないんじゃないかって。やっぱりまだ久実が好きなんじゃないかって。』
「…」
『あ、でも違うってちゃんとわかってるよ!で、勝手に不安になっただけってこともちゃんと理解してるからね?』
「…ばか。」

多分、千隼くんの行ってこい、って言葉がさらっと出てきたから、不安が消えたのだと思う。苦しそうじゃない笑顔だったから、違うって理解出来たのかもしれなかった。
| TOP | MAIN |
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -