22
『千隼くん』
「こいつに何かようあった?」
「いや、今度あったら名前おしえてねー」

私の腕を離さない彼の腕を掴んだまま威嚇した千隼くんに、やっと腕を解放してくれ、彼はその場から逃げた。

『はぁ、ありがとう千隼くん。助かった。』
「別に。」
『さっ、中にいこ!楽しみだったんだ!』
「魚しかいないのに?」
『もー夢ないなぁ…』


微妙な空気を切り替え軽口を交わしながら水族館内へ進んでいく。
なかには人が多く、私と同じく修学旅行生だろう学生も多くいた。

いろいろな水槽を覗きながら歩いていく私たち。

『わぁー綺麗!すごい!ねぇ!千隼くん!』
「フッ…はしゃぎすぎ。」

千隼くんにそう言われ少し恥ずかしくなった。

『あ、ごめんね。つい…』
「別に謝ることじゃない。あ、おい、メインの水槽についたっぽい。」
『本当だ!わぁーおっきいサメ!』

さっきはしゃぎすぎって言われたばかりなのについ水槽にへばりついて見入ってしまった。

綺麗に穏やかに泳ぐサメや魚たちに羨ましくもなる。


「そんなに珍しいか?」
『珍しいってよりも楽しくって!水族館って初めてだから。』
「初めて?」
『うん。だから近くで泳ぐ魚って新鮮で楽しい!』
「今日のアンタ、小学生みたい。」
『む。ひどいな。誰でも綺麗で初めてのものを見れば心踊るでしょ。』
「いつも大人しいというか控えめなとこあるから、今日は年相応でいいんじゃない?」
『それ、褒めてる?貶してる?』

千隼くんはいじわるそうな笑で「さあ?」と答えると私の腕をつかみ「いくぞ」と進みだした。

『え、もう?』
「初めてなんだろ?イルカショーとかもみとけば?」
『イルカ!行く!』

また子供のようにはしゃげば千隼くんに笑われ、恥ずかしくなり千隼くんに肩パンくらわせた。


それから千隼くん案内でふれあいコーナーでヒトデやナマコ触ったり、お土産コーナーに行ったり店内をまんべんなく楽しめた。

『ね、実は回るルートとか調べてくれたりしてた?』
「…なんで?」
『いや、なんかスムーズに回れたなーって思って。』

それに…ポケットからパンフレットが見えてたから。きっと私が初めてって言ったから調べてくれたのかな?なんて都合よく考えているだけかも知れないけど。


『すごく楽しかった!ありがとう、千隼くん!』
「別に…ほら。」
『?キーホルダー?』

千隼くんから渡されたのはかわいいサメのぬいぐるみキーホルダーだった。

「さっきの土産のとこでかった。サメに興奮してたから。」
『もらっていいの?』
「返されても困る。」
『ふふっ。ありがとう!大切にするね!』


フイッと顔を反らされてしまったが、まぁいっか。
すごく素敵な思い出と大切な宝物ができた。
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