情けない貴方 ナイトメア
クロアリEND後設定です(^ω^)




「えー?君、毎晩夢魔さんと一緒に寝てるのに何もされないの?俺なら×××して××××して××××するのにな!ははは!」



「はあ…」

エースに相談した私が悪かった。
たまたま塔に迷いこんだ騎士に捕まって話しているうちに、つい最近の私の悩み事まで話してしまった。



「男ならそんなチャンス逃すわけないよ。好きな子が目の前にいるのに、手を出さないわけがない。」


「やっぱりそう…よね」



私の最近の悩みというのはこの塔の主、夢魔ことナイトメアのことだ。
私達は結婚を前提にしたお付き合いをしている…はずだ。
はずなのにこれといった進展がない。
全く進展がないわけではない。
手は繋ぐし抱き合うしキスもする。
ほとんど私からだが。
キスは子供同士がするような可愛いらしいバードキス。
毎晩一緒に寝ているのに何事も起こらない。
これは私に女としての魅力がないのかと不安になってしまう。
確かに色気がないのは十分承知の上だ。
だが私とナイトメアは恋人同士。
好きな者同士が一緒のベッドに寝ているのだから何かしらあってもおかしくないはずだ。



「君をそんなふうに不安にさせる夢魔さんなんか放っておいて、俺にしない?俺なら君にそんな不安は絶対させないよ。毎晩××して×××して××××××してあげる」


赤い目が細められて、いたずらに笑う。
すると腰を引かれて抱き寄せられた。


「ちょっと!冗談は止めてよ。離してちょうだい」


エースが相手だったら確かにそんな不安は吹き飛ぶだろうが、毎晩大変そうだ。

「冗談なんかじゃないよ。俺は君が好きなんだ。付き合ってよ」


耳元で囁かれ、ふっと息を吹きかけられた。
ぞわぞわしてぎゅっと目をつむる。


「やっやめて」


暴れるが騎士に抱えこまれた体はなかなか思うように動かない。
エースの力が強くて痛い。


「ねえ、アリス。俺と一緒にいてよ。少しだけでいい。俺、寂しいんだ」


クローバーの国に来てからエースはずっと不安定だ。
きっとユリウスが弾かれたから。
私もこの国に来たときは今までずっと一緒いたユリウスがいなくなって淋しかった。
ハートの国にいた頃は私、ユリウス、エースの三人でよく仲良くしていたこともあって、親近感からかその寂しさをエースと共有しあっていた。
だが私はこの国に慣れてしまった。
今、私にはナイトメアやグレイ、塔のみんながいる。
一人ぼっちではない。
私はエースを置いて、先に一人安定してしまった。
ユリウスがいなくて今も寂しいのは確かだが、前程ではない。
私は薄情者だ。


気付くとエースの顔が間近にあった。
このままではキスをされる。


「いや!ナイトメア!」



「何をやってるんだ騎士!」

「!!ナイトメア!」


ナイトメアが目の前にいる。
安心して力が抜けそうだ。


「今いいところだったのに、邪魔しないでよ夢魔さん」

「いいところだと?彼女が嫌がっているのがわからないのか?アリスを離してもらおうか」


「嫌だと言ったら?」


カチャリとエースが剣に手をかける。


「こちらにも考えがある」


ひんやりした低い声。
ナイトメアが怒っている。
いつものだだこねっ子のナイトメアからは想像が出来ない。
彼のこんな姿は初めて見た。
怖い。



しばらく睨み合いが続いた後ー…。


「ここは夢魔さんの領土だしぶが悪い。アリスを俺のものにするのはまた今度にするよ」

さっきまでの殺気をなくしていつもの調子で爽やかに笑顔で答えるエース。


と、エースの腕から解放された。


「じゃあ、俺はひとまず城に帰るよ。またな!アリス!」


厄介者のエースがやっと帰って行った。
といっても塔の出口とは反対方向に進んでいったが…。


「はあ…エースは相変わらずね。」


「ああ」


するて きゅっ とナイトメアに抱き締められた。


「ナイトメア?」


彼から抱き締めてくるなんて珍しくて、嬉しい。
今のこの状況に不謹慎ながら笑みがこぼれる。


「君はちょっと目を離すとふらふらと迷って危なっかしい。目を離せないよ。げんにこうやって騎士に捕まってしまった」


さっきとはうって変わったひどく優しい声。
エースとは違って優しく、ゆるゆると抱き締められる。
エースからは血の匂いがするが、ナイトメアからは甘いタバコの匂いがする。
私はこの匂いにひどく安心する。


「助けてくれてありがとう。あなたが来てくれなかったら私…」


そう考えるとぞっとする。
一体私はどうなっていたのだろうか。


「頼むから私の目の届く範囲のところにいてくれ。じゃないと安心できない」



額にキスが落とされた。


「珍しく積極的ね、ナイトメア」

ふふふっと笑いながらそう言う。


「本当はこうして君に触れたかったんだ、アリス。」


頬に手を置かれ、頭を撫でられる。


「え?」


「今までずっと我慢していたんだ。」


ナイトメアが我慢?
私に色気や魅力が足りないんじゃなくて?


「ああ。君に拒否されないか不安でな。もしアリスに拒否されたら私は一生立ち直れない」


ふふっと力のない顔で笑うナイトメア。


「情けないだろう?私は自分に自信がないんだ」


「…」


「アリス?」

不安げな顔で彼が覗きこんでくる。



私の思考の全てが彼に伝わるわけではない。
ちゃんと言葉にして伝えなくては。
私だけが不安なわけではなかったのだ。



「情けないなんて思わないわよ。」


「?」


「拒否なんてするわけないじゃない。私はあなたが好きなのよ?」


「!!」


ナイトメアの頬がほんのり赤く色ずく。

ちゅっ と背伸びをして少し青くなっている唇にキスをする。


「な、ななななななな!」


普段は血色の悪い青白い顔をしている夢魔だが今は真っ赤になっている。


「好きよ、ナイトメア。好き」


にんまりと笑ってそう言う。


不安なのはお互いさま。
言葉をちゃんと通わさないと今のようにすれ違ってしまう。
なかなか進展はしないだろうが、私達は私達のペースで、焦らずゆっくり進んでいけばいい。



***



「お休みなさいナイトメア」

「ああ、お休みアリス」


どちらからともなくキスをする。
幸せそうな顔をしたアリスはそのまま眠りについた。
すると無意識だろう、ナイトメアに抱きついてきた。

「はあ、君は自分に色気がない、魅力がないなんて言うがそんなことは全然ない」

ぎゅっと抱き締めかえす。

「君とこうしていて何も感じないわけがない。」


アリスに聞こえるか聞こえないかの声で囁く。


「本当はキスの先にも進みたいが、今の私では体力的に最後までできないかもしれない。そんなの情けないだろう?君が何と言おうが立ち直れない。」


アリスの首筋を軽く吸って赤い花を咲かす。


「ん…」


「今はまだこれだけだが、私に体力がつくまでもう少し待っていてくれないか?薬も病院も君のために頑張る…。極力…な」


さらさらと彼女の髪を優しくすく。


「ん?ナイト…メア?」

薄く瞳を開けたアリス。


「ああ、起こしてしまったか。何でもないよ。おやすみ。私は夢魔だ。君を深い眠りにいざなおう。」


アリスの唇にもう一度おやすみのキスを落とす。


「おやすみアリス」


そう言う夢魔の顔はとろけそうなほど幸せで甘い甘い顔だった。


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