暗然の至誠


 

「おっ今のはいい読みだよ!」

 入学して2週間、私は大変面倒見のいい先輩に恵まれていた。放課後にグラウンドの一部を借りて魔獣と格闘をしているところに声を掛けてもらったのが始まりだ。

 最初は魔獣の操作力と視覚映像をさばく速度をあげようとしていたが、複数の魔獣を動かすのは問題なくできるのでやっぱり相手がいないとスピード感もなく本格的なことができずに全く練習にならなかった。

 大きさの上限は未知。無から作り出すわけではないので周辺の地面から土を、それだけでは足りずに設置されているドデカパイプやらなんやらも素材にして超巨大なゴジラができてしまった。それでも完成ではない、まだ大きくなる。

 でも解除した時が大変だった。重力に抗うことなく流れ落ちる莫大な土砂と鉄クズ。死んだと思ったね。咄嗟に作った魔獣で自分を包むように固めなかったらもうヒャクパー死んでた。先生たちが駆けつける大騒ぎになったし死ぬほど叱られた。そんでちょっと泣いた。

 それからは監視のロボットもつけられて肩身の狭い思いをしながら魔獣と格闘技。

 視覚を共有している魔獣に自分で指示を出して攻撃を繰り出すのでどんな手が来るかわかってしまう。それに近距離でやり合ってると自分と魔獣の映像が重なって何がなんだかわからなくなる。本当に全く練習にならない。

 そこで現れたのが通形先輩だった。色んな意味ですごい先輩だ。とにかくムキムキで大きな身体、すごい。

 今まで格闘技系の動画みたりオンライン講座も受けたりしてたけど、やっぱり生でやるのは全然違う。ちなみにスクールに通わなかったのは移動時間が勿体無いというくそしょーもない理由だったりする。逆に勿体無いことをした。

 いたる所に魔獣をモリモリ作り出して牽制、牽制、からのハイキック!勢いのまま回し蹴り!着地して頭突き!と続けると私と通形先輩の体操着が先輩の身体をすり抜ける。

「おお…先輩の肉棒が、」
「生々しい表現!」

 大きな逸物に釘付けになったその瞬間に先輩の腹パンが重くヒットした。

「ぐぐぅ…!」

 迫り上がる吐瀉物をごくんごくんと飲み込んでなんとかやり過ごす。ダウンしない私にもう1発!と踏み込んでくる先輩、2発目はさすがに吐く。トイレ以外では吐きたくない!

ーーやれ!!

 そう思ってヤケクソに出した魔獣はなぜか視覚共有ができなかった。本来なら共有を切った魔獣は操れないのでそのまま崩れるか、形を固定すればそのまま固まっているかの2択だ。それなのに今は通形先輩へ向かって攻撃を繰り出している。完全オートで動いてるけど…暴走じゃないよね?
 1度切ったものにはもう繋ぐことはできない。私の手を離れたものが自由に動いている。

「先輩!新技か暴走か判断できません!」
「おっと!それはビッグニュース!」

 スルスルと攻撃をすり抜ける先輩に魔獣は次の策とでもいうように地面へ潜ってしまった。潜るといっても穴を掘ってとかじゃなく、水に入るようにぬるっと消えた。おやおやそんなこともできるのかいと私ビックリ。
 そして地面から先の尖った柱が突き出し、通形先輩を串刺しにした。いや、すり抜けてる。ビビった、刺さったかと思って心臓がキュンとした。
 それも効かないとなると大地が大きく唸りを上げて迫り上がり、先輩を巻き込みながら地形変動を起こして魔王の城でも作るかの如く形を変えていく。

「し、鎮まれえええ!止まれ!ストップ!もう終わり!固まれ!」

 なにをしようにも効果はない。制御ができない。これはもう、暴走なのでは…?

「相澤先生とセメントス先生優先で呼び出しお願いいい!」

 あとグラウンドにいる人の避難誘導もおおおうああ!と波打つ地面に足を取られて情けない叫び声をあげながらロボットに助けを求めたがその瞬間ピタリと足場が安定した。
 止まったかと思いきや魔王城からすっぽんぽーんと先輩が飛び出してくるとその後を追ってドデカい手が無数に伸びて捕まえようと奮闘している。どうにかしたいが次の魔獣も暴走したらと思うと先輩を守るために出すこともできない。

 その状態で数分経つと先生たちが駆けつけて来て、相澤先生が髪を逆立たせながら私と城に目を向けた。何も起こらない。

「これは、止めれんな…」
「そんなぁ…」

 セメントス先生が手を出してみるも微塵も相手にされず、魔獣はずっと先輩に執着し続けている。

「なにか普段と違う使い方したか?」
「普段と違う…、咄嗟に作ったので繋がりが不完全だったのかも、でも先輩にだけって…」
「焦らなくていい。小さな可能性でも思いつくものがあれば構わず言え」
「ううん…、んん!」

 ひらめいた思いついた!!たぶんだけどわからんけど!

「すみません先輩!一発殴られてください!!」

 本当にすみません!と叫ぶと先輩は片手でおちんこを隠しながら右手でグッとサムズアップして立ち止まった。その瞬間大きな音を立てて地面をえぐりながら繰り出された巨大な拳に先輩の姿は見えなくなってしまう。

「しぇんぱいい!」
「立花落ち着け、たぶん大丈夫だ」

 そして役目を終えたかのように城とその他の塊は動きをなくし、崩れ始めたので急いで固めた。さっきまでの大騒ぎが幻だったかと思えるほど音のないグラウンド。息を飲んで先輩の姿をキョロキョロと探していると地面からすっぽーんと生まれたての姿が現れた。ちゃんとおちんこを隠している。

「うわ〜んすみません先輩〜!!」
「怪我は」
「問題ありません!」

 元気に喋っているけど先輩のお腹は赤く腫れ始めていて、土で汚れて皮膚も所々切れている。

「痛いですよねリカバリーガールのとこ行きましょぉ〜〜!」
「ううん大丈夫!殴られたのはバキバキに鍛え抜かれた腹筋だけだからね!」
「しぇんぱい〜!」

 泣きつこうとすると相澤先生に止められてお前はこっちだ、と連れ去られた。状況説明と反省文ですかね、ええ、本当にすみませんでした。精一杯努めさせていただきます。

 失礼します、先輩とセメントス先生に頭を下げてから相澤先生の手をしっかりと握って歩く。おい、と軽く咎められたけど絶対離さない。自分の個性がコントロール不能になるのは本当に恐ろしかった。恐怖で血行不良の指先を温めてほしい。
 それが伝わったのか先生は振り解きはしなかった。大人を感じた。
 




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -