このサイズでこの熱量


 
「で、何があった」

 目の前で申し訳なさそうに座る立花は入試の際に救助ポイントこそ多く稼いだものの、あと一歩足りずにヒーロー科から落ちてしまった生徒だ。
 爆豪と同じ会場でなければひと握りの枠に入っていただろう。立花は運が悪かったで片付けられてしまうには勿体ない個性だと教師の間ではもっぱら話題になっている。そして滑り止めで入った普通科では殆どがヒーロー科を羨んで終わるなかで諦めを見せない数少ない生徒でもあった。

 ゼロポイントロボが破壊していく建物を個性の魔獣で支えて固めていく光景は実に圧巻であり、他の会場と比べるまでもなく最小限の被害で試験を終わらせたのが強く印象に残っている。

 そんな立花は自分が出せる個性の最大限を知らないようで放課後の自主練習にはもう5回以上教師が駆けつける事態が起こっていた。主にセメントスが呼び出されることが多く大変だなと横目で見ていた。
 忘れもしないマイクから聞いたゴジラ事件は規格外の惨状、その時間帯はまだ他の生徒がいなかったことが本当に奇跡。そして言わずもがな今回もかなり強めの案件だ。

 話を聞いている感じでは自分の力を過小評価しすぎて今まで大きく力を使ったことがなさそうだった。自由に使える広大な敷地で自分の実力を測ったところ天上が見えず、日々個性を使うにつれてどの程度が適切なのかこれまで持っていた自分の『普通』が覆ってしまい出力調整がぶっ放し気味になっている様子。

「咄嗟に出した魔獣が立花の意識下から離れて勝手に動いた。ということか」
「離れたというか、最初から繋がってなくて…」

 時々考えて、悩みながら喋る。

「自分の感覚的にはたぶん命令を飛ばしたような感じだと思います。1発でも喰らわせるという意気込みで作り出したと思うので、だから任務遂行と同時に解除されたのかなって…たぶん…」

 もう1度やってみないとなんとも、と続ける言葉にまぁそうだろうなと納得する。様々な仮説を書き出し、また明日試してみようかと暗くなり始めた外を見て帰宅を促した。



「先生みてみてみて!!」
「見てる見てる」
「みてみてーー!!」
「見てるだろうが」

 翌日、放課後のグラウンド。カナメの個性暴走か否かを確認するために数人の教師が立ち会っていたが、昨日と同様の命令形式で何体か作り出し問題がないと判断したところで早々に解散してしまった。そして念のためにもう少し、と残った相澤とセメントスは魔獣による矛と盾の戦いを見せられている。
 1体はカナメを絶対に護る盾。もう1体は全力の攻撃を仕掛ける矛。どちらとも3分後には崩れるように組み込まれている。所々でヒヤッとする場面もあるが『絶対に護る』と命令したカナメは盾を信頼しきっているのでご覧の通り余裕な態度だった。

「お前、家でやっただろ」
「はいやりました!」
「…素直なのはいいが、」

 相澤は乾きを感じた目を押さえてため息を吐く。昨日、話を終える頃にはもう暴走ではないとかなり確信を得ている様子だったがまさかそれを自宅で試すとは。度胸があるのかなんなのか。

「危険の伴う可能性がある事は俺達の目が届く範囲でやってくれ」
「はい!」
「……。」

 相澤は言わずもがな、珍しくセメントスも「本当かよ…」というような目つきでカナメをじっとり見ていた。時間経過で魔獣が崩れるとニコニコしながら2人に駆け寄って勢いよく頭を下げた。

「忙しい中ありがとうございました。新しい使い方も安定してるのでもう大丈夫です」
「そうか。怪我には気をつけろよ」
「頑張ってね」
「はい!」

 またね、と手を振るセメントスにカナメも手を振りかえし、去って行く2人を見届けずに個性訓練を再開する。


(ひぇ〜〜、)

 今さらドキドキと緊張がぶり返してきた。上手くいってよかった〜〜!正直、繋がりを切った状態で大きな魔獣を作り出すのはビビっていた。また大暴れしたらどうしようしか頭になくて、昨日のがかなりトラウマで尾を引きまくってたから。
 家ではちんまいのを少し出して終わらしただけ。2秒経ったら崩れろってだけの命令のやつ。でも通形先輩のときは勝手に質量増やしちゃってたから作り出すこと自体が危ないとわかってたけど、居ても立っても居られなくてやってしまった。

 まさか自分の個性がこんな使い方もあるとは思わなかったけど、苦戦せず自分の物にできたのがよかった。きちんと条件を決めた命令を出せれば今までのようにいくつも重なる視覚映像に手を焼かず動かすことができる。これってつまり最強なのでは?

「やぁ立花さん!」

 ひとり突っ立ってぐるぐる考え事をしていると、後ろからハキハキした声が掛けられたことにビックリして小さく肩が跳ねた。

「あっ先輩!…お腹、どうですか」
「久しぶりの筋肉痛に俺の筋肉が喜んでるよ!」

 昨日の帰り際、リカバリーガールのところへ通形先輩の状態を聞きに行くとだいぶ酷く筋肉が損傷していたと知らされた。治癒を施したので心配はいらないと聞いていたが、やっぱり自分で本人に確認しないと落ち着かなかった。
 ほっとしながらも申し訳なさが抜けない。怪我を負わせてしまったのに「先輩でよかった」とも思ってしまった。実際他の人だったらこのくらいでは済まなかったはずだから。すみません、とカナメが口を開こうとする前にミリオが言葉を発する。

「また一段と筋肉が強くなっちゃったよね!」

 ご覧よ!と元気な掛け声で体操服がバッ!とめくられるとそこには板チョコが2枚、ズボンのゴムに挟まれていた。おそらく板チョコのように割れた腹筋と言いたいのだろう。

「糖分補給しよう。はいどうぞ!」
「お、…ありがとうございます、」

 ガサガサ包紙を開けると少し溶けていた。アチャー俺ったら体温高め!と額に手を置くミリオにしっとり笑いながらもう一度お礼を言う。

 目の前の絶えない笑顔と底抜けの明るさに自分が憧れるヒーロー像が重なって、もっと頑張らなくてはとカナメはより一層気合を入れた。

 




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