天使な小悪魔爆誕

 

 秋になった。

 文化祭の準備が始まり他のクラスは連日に渡ってとても忙しそうにしている。

 とうとう5人になってしまった1Aは人手不足により出店しない運びとなった。その時間を使って各々トレーニングをしたり他クラスを手伝ったりしている。その例に漏れずリンも体力の底上げに勤しんでいた。

 入学前までまともな運動をしてこなかったせいで実技は全てチャクラ強化頼みのつけ焼刃でかろうじて乗り越えていたが、1学期の実技演習ではかなりボロがでてしまったので本格的な身体作りに取り組むことにしたのだ。

 チャクラに頼らなければまともに走ることすらままならなかったのは恥ずべきことだ。抹消されてやっとその重大さが身に沁みた。そして自力では300メートルすら走りきれない現実にリンは自分のことながら信じたくなかった。

 ある程度の体力はついてきているので今日はチャクラの底上げをしようと借りた体育館はすでに口寄せ動物で溢れかえっており、ふれあい動物園さながらの賑わいとなっている。

 リンが象の背中にうつ伏せで張りついているとこちらに向かってくる人の気配を感じた。誰だ、と起き上がるとちょうど訓練所の出入り口から相澤が入ってくるところだった。

「あ、お疲れさまです」
「ああ。生徒からここに動物が詰め込まれてると報告があったから確認しに来た」

 やっぱり赤井だったか、と確信していたように呟いた相澤にリンは(やっぱりって…私に会いにきてくれたってこと…!)と一気に気分が上昇する。

『せんせ〜!』
『せんせいだ〜!』
『リンのせんせ〜!』

 短い足でぴょこぴょこと一生懸命に走る子猫たちはつい先日口寄せの猫から生まれたばかりの新米たち。全てに興味津々の遊びたい盛りで無邪気な天使だ。

「……」
「あ、猫苦手でしたか」

 子猫に足をよじ登られている相澤はギュ、と腕を組んでいて表情が硬い。アレルギーだったらいけないと思い一生懸命に張り付く子供たちを引き剥がすために象から下りると相澤にカメラを起動させたスマホを差し出された。

「……撮ってくれ」
「んふっ」

 あまりにも思い詰めた表情で言うものだからつい笑ってしまった。相澤はなかなか登れずに何度も転がっている1匹を抱きあげて早く撮れと言わんばかりにリンを見ている。カシャカシャカシャと数枚、違うアングルからも撮ってスマホを返し、リンのスマホでも撮影した。相澤の子猫を見つめる目が優しい。

「…動物園よりもすごいだろ、これ」

 周りをざっと見回した相澤が呆れたように言う。動物園よりは種類は劣るが圧倒的に頭数が多く、リンは特に猛禽類を好んでいるのかそれが顕著に出ている。

『リンはね〜すんごいよ〜〜』
『チャクラがおおくてね〜』
『でもざつなんだって〜』
『あらいってままがいってた〜〜』

 リンにとって痛い言葉が耳をつく。
 忍術は練り込むチャクラ量が適切であるほど安定して強い威力になり、コンマ数秒だが術展開のスピードも変わる。しかしリンはコントロールが苦手なので毎度威力と練度にムラがあるしそのせいで使えない術もある。子供に乗じてここぞとばかりにお節介な親猫がツラツラと小言を並べてきた。何度言い聞かせても精度上げないんだから勿体ない。と相澤に自分の怠惰を暴露してくれる猫の口を塞ぎたかった。

「ほぉ…まさかここで赤井の改善点を聞けるとはな。」

 片眉をあげて相澤はジィ…とリンを見るが居た堪れない様子の彼女はまぶたを閉じている。

「まだ隠してることはないか」
『え〜とえ〜と、リンは〜せんせいが好き!』

 キャッキャとはしゃぐ天使…いや小悪魔たち。一瞬動きが止まるリン。(なに言ったこいつ…!)反射的に違うんですと否定しそうだったがここで慌てると逆に変な雰囲気になってしまうと思い留まった。

 冷静に冷静に…テンパった頭を回転させるがこの状況を自然に打破できる言葉は思い浮かばない。もうダメだ。うわああああ。リンは頭の中で盛大に叫んだ。

「…う〜ん、それぐらいですかね、隠してることは」
「そうか、覚えておこう」

 リンはスカした態度でその場をしのぐが相澤は気にする様子もなくいつも通りの態度を崩さない。少し肩透かしを食らった気分のリンだがとりあえず乗り切ったことに安堵した。

「い、今からコントロール訓練に切り替えます」
「ああ。使用許可の17時は厳守しろよ。それじゃあ確認できた事だし俺は戻る」

 相澤は捕縛布の中にまで入り込んでいた子供たちを優しく取り出して名残惜しそうに地面へ離すとポケットに手をつっんで来た道を戻っていった。

「………」

 やってくれたなぁ、と子供たちを睨みつけるも本人は何も知らないと言うようにじゃれあっている。そんな可愛らしい光景に怒る気も萎んでリンはその場に座り込んだ。

『はやく訓練しなさいよね。先生に見直してもらわなくちゃいけないんだから』
「……」
『返事』
「…はーい」


 


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