ふたつの熱

 
 言い渡された謹慎も明日で最後。
 今回の騒動で犬男は除籍処分、リンも過剰防衛ではないかとされて実は退学の話もあった。

 しかし周りにいた生徒がリンはとても嫌がっていたと証言したこと、広まっていた2つの噂を知っていながら対処が遅れたことを相澤が謝罪したことが助けとなり2週間の謹慎という現状に収まっていた。

 そしてそれは名ばかりで課題や宿題の受け取りと提出の為、放課後ではあるが1日ごとに登校している。

 その日は相澤と少し雑談をしたり軽く差し入れを持って行ったりとかなり充実した時間を過ごしているのでリンは罰を受けている気がしなかったが、やはり全面的に被害者の自分が罰を受けること自体納得いかない。だが先生に会える口実を正式に入手したと思えば溜飲も下がった。

 登校する日は朝から時計ばかりみてしまって何も手につかないので早めに出発してゆっくり向かうのが毎度お決まりとなっていた。
 相澤が可愛いお店で買い物している姿を勝手に想像しながら歩くのも楽しみの一環になっているし、今日は会えるんだと落ち着かない気分で自宅にいるよりかは余裕を持って出発する方がよかった。

 そろそろ梅雨入りのせいかジメジメした日が続いて気持ち悪い。毎日ある程度のヘアケアをしているリンの髪は普段より少しまとまりが悪いぐらいで済んでいるが相澤は違った。一気に爆発した相澤は髪をずっと一纏めにしているので色気が増し増しになっていてリンは今まで不愉快だった湿気に初めて感謝している。

 そして最近では相澤をみんなに見て欲しくないと思うことが増えた。女子生徒と話をしている場面を見てとんでもなくイヤな気持ちが湧き上がったとき、リンはそんな欲望むき出しの感情を自覚してしまった。

 相澤のサイドキックを目標としていたはずが、いつの間にか唯一の女として愛されたいと思うようになった自分の気持ちを自覚したリン。今なら愛国心の塊だった先輩たちの気持ちがよく分かる、と長年理解できなかった執着心を受け入れた。

「やば!本物レベチ!」
「学校帰りだよね?ちょっと喋ろーよ!」
「体育祭まじ激熱だったわー」

 そんな想いに耽っていると一目見て軟派な人種だということがわかる男たちがリンを取り囲んで通行の邪魔をして来た。
 上から下へ品定めをするような視線に若干の気持ち悪さを感じながらもリンは謹慎の身であり穏便に済ませなければいけないので間を通り抜けようと歩を進める。

「急いでますんで」
「ちょっとだけ、ね!」

 腕を掴まれそうになったので避けるとすかさず横にいる男が限りなくお尻に近い腰へと手を回した。かなり下心を感じる触り方で犬男を思い出したリンはだんだんと腹が立ってきた。今年は人間関係に不運が続いている。お祓いに行こうと決めた。

 話しても無駄だと思ったリンは強引に行くと突然腰に当てられた手が熱くなり、そしてその熱は一気に下腹部を刺激した。子宮がキュンと締まり恥部が熱く濡れる感覚。そのまま一気に全身へ熱が回って身体が火照りはじめすぐにでも膝は折れてしまいそうになった。

「あれ大丈夫?体調悪そうだけど」
「ちょっと休憩していきなよ。ね」

 下衆な表情を見てすぐ男達の意図を呑み込んだ。個性を使われたのは間違いない。人の行き交う街中で堂々と低俗な行いができるなんてここの治安はどうなっているのか。

 声に出して文句を言いたいが、自分の意思とは関係なく興奮がどんどん昂まる事に危機感を覚えてそんな場合じゃないと指を噛んでリンは自分を運べる鳥を口寄せした。
 呼ばれた猛禽類は男達が尻餅をついたり足をもつれさせながら後ろに下がり距離をとった隙にリンの肩を掴まえて雄英へと飛び立つ。

 リンは脚の間を吹き抜ける風さえも今は刺激になって気が気じゃない。ブレザーのポケットから出したスマホを落とさないよう操作してなんとか相澤に連絡をいれた。
 指が震えて文字が上手く打てないので書き途中のまま送信して通話に切り替えたがどう伝えていいかわからず内容もぐちゃぐちゃ、風の音できちんと伝わったかも定かではない。

 位置情報送れと簡潔に届いたメッセージ、しばらくして雄英の敷地内へ降り立つと場所を送信した。


 


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