体育祭2

 
 レクリエーションは休憩するつもりだったリンだが、どうせなら楽しみたいと思って参加することにした。借り物競走で引いた札には『陽気な人』瞬時に実況席へ視線が向いた。
 実況席に鎮座しているマイクを連れて行くことにすれば自然とその隣に座る相澤に会える流れになる。実況者を連れて行くのは些か気が引けるがこれは止むを得ない状況だった。

 手すりや鉄柱を足場に5歩ほど跳んで実況席へ向かい、扉をノックして入る。

「なぁイレイザー、そろそろ結婚しようぜ」
「しない。ここに来てまで言う事がそれか」
「オー!リスナーどうした?お題借りに来たかー?」

 リンは一瞬自分の頭がイカれたかと錯覚した。相澤が求婚されていたという事実に頭も気持ちも追いつかず、視線は相澤とMs.ジョークを行ったり来たりしている。

(間髪入れずに断ってたけど、求婚されるってことは2人は付き合ってるってこと?え?なに??)

 一体どういうことなんだと真相を図りかねているリンはヒーロー3人の視線を浴びて何か言わなくてはと焦る。
 
「お題を、借りに来ました。 そちらの」

 お姉さんを、と続けた言葉に発言したリンでさえ意味がわからなかったがとにかく相澤に求婚したジョークを近くに留まらせておけないと思った勢いで言ったことだった。

「ん、わたし?オッケー行こうか!」

 突然の申し出を快諾してくれたことに安堵し、近寄って来たジョークを自然な流れで軽々と横抱きにする。

「オ!!? 姫みたいなナリして王子じゃーん!」

 ケラケラ笑うジョークにリンは(あ、陽気な人だ。よかった)と彼女がきちんとお題に沿っていることが判明してまた安堵した。
 軽く頭を下げてから退室して来た道を戻る。上昇から下降とアトラクション並の浮遊感に「ひぇえ〜〜〜」と叫びながらも楽しそうなジョークにリンは(良い人そう…)と若干絆されかけていた。

 それでもリンは断言したい。
 相澤が特定の女性と懇意にするなんてことは到底受け入れられないということを。

 これから順調に相澤のサイドキックになれたとしてリンは相澤に付き纏わない自信がなかった。勿論線引きはするつもりだが小鴨のように後ろをねり歩く予定だ。
 しかしその時に相澤が結婚していたならうざがられて解雇も秒読み待ったなし。それだけは嫌だ。ヒーローになる意味がない。

 それにヒーロー同士ともなれば同じ事務所を経営して目の前でチチクリ合われる危険もある。無理だ、それも耐えられそうにない。

 リンは前にいる走者をサラッと追い抜きながら勝手に想像した最悪の結末に(恐ろしい問題が浮き彫りになってしまった…)と身震いしていた。

 1位でゴールしたにも関わらず硬い表情のリンを心配したジョークから大丈夫かと声を掛けられるも「原因はあなたなんですけどね」なんて到底言えるはずもなく「お腹が空きすぎて胃が痛くなりました」と変な誤魔化しをして借り物の手助けをしてくれたお礼を伝えてから放送室の前へ送り届けた。

(入らずに席へ戻れ!!)

 放送室に入るか入らないか、結果を見る勇気すらなくリンはただひたすら念を込めながら昼食へと駆け出した。


 


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