埋め火3

 

『人質以外の避難は完了しました』
『つかまってるこはみんなぶじだよ!』
『リンがヴィランの対応をしている』

 通報からヒーローと警察が到着するまで10分、現場状況を知るにはそこからまた時間がかかる。それが室内なら尚更のこと。
 しかし到着した相澤達ヒーローの前には可愛らしい姿の雀3羽が口々にモール内の状況を報告していた。
 どうやら人質にされている内のひとりが個性で雀を使いに出して現在は敵の人数を探っているらしい。

『1階……2階…クリアです。 正面から入れます』
『さんかいのふーどこーと!はやくいかなきゃ!』
『リンが手負った』

 手負い。その言葉により一層張り詰めた空気とどよめきが広がり、それと同時に入り口へ向かって3羽が飛び立った。その後をヒーロー達が追いかけてモール内へ突入して行く。

『はしるひとこっちがさいたん!』
『飛べる人間は着いてこい』

 雀の飛ぶ速度に合わせて素早く、エスカレーターへ走るチームと吹き抜けのフロアから上がるチームに別かれて進む。吹き抜けから向かうのは捕縛布を柱に巻きつけて登れる相澤のみ。

 静かなモール内に金属が何かを弾く音や殴るような鈍い音、そして男の怒声がよく響く。
 最初にフードコートへ飛び込んだ相澤が目にしたのは襲いかかって来るヴィランにローキックをくらわせて転ばしている少女。その腕からは血が滴っている。

 ーーーこの子がリンか。

 瞬時にそう判断し、残ったヴィランの個性を抹消して捕縛布で拘束すると遅ればせながら他のヒーローも次々とフードコート内へ足を踏み入れる。そうして床で悶絶してるやつから伸されているやつまで全員の拘束を確認した。

「お疲れさまでした。連行します。」

 言うが早いか制圧完了の報告を受けて現場に駆けつけた警察によって運び出されるヴィラン達。

 相澤は机に腰掛けている少女を見やる。制服を見た感じすぐそこの中学在校生だろう。情報を回す速度や現場までの手引きをここまでスムーズに出来るとは、なかなか頭の回る子だと感心した。まだ救護班の姿が見えないのでとりあえずの止血処置でも、と足を進めた途端に低く硬い声が少女の名前を叫んだ。

 
「あ どうも」
「なぜ危ない事をしたんだ、こんなケガまでしてヒーローごっこか?死ぬかもしれなかったんだぞ、リンは女の子なんだから安易に危険な事に足を突っ込むべきじゃないだろう!何度言えば」
「お父さん聞いて、」
「頼むから!…もうわかってくれ」
「…………ごめんなさい」

 父と呼ばれた男は震える声で強く捲し立て、言われた本人は全く納得していない表情のまま口をつぐんでしまった。
 それは過保護なあまり日頃から行動を抑えつけられているんだろうなと勝手に想像できてしまう口ぶりだ。

 それによく見なくても少女の顔色は青白く、血を流しすぎたのと精神的ショックからだろうと判断できる。止血として左腕に巻かれた紺色のタイは既に全体が濡れて色が濃くなっていた。
 足早に近づき「失礼、」と断りを入れてから下まぶたを軽く下げると案の定、結膜は白く貧血の兆しが現れている。確認しなくても分かりきったことだったがこの愚かな父親に少しでも重い罪悪感を与えるためのパフォーマンスだ。

「負傷者1名、こっちだ」

 気が動転しているのかもしれないが優先すべきことを見誤っている。今は親心を出す時ではなく被害者として適切な対応をとらなければいけない。

「心配されているのは充分伝わりますが、ごっこ遊びは少々言葉が悪いかと。 結果が全てではありませんが彼女の行動は賞賛されども非難される事ではないのでは?時間が惜しい中で彼女の先を行く最善手はありましたか? 娘を心配する気持ちもいいが、頭ごなしに叱るよりまず今は立派に立ち向かった事を労るべきだとは思いますけどね私は。」

 もう近くにメディアも来てますし言動には注意した方がいいですよ、相澤はそう付け足して未だ少女の肩を掴んでいる父親の手をぽんぽんと叩いた。

 別に反論をしない彼女の代わりではないし部外者が口出しするのも何だが、これだけは言っておかないとこの子が報われない気がした。そして父親は少し考えを改めればと思う。


 


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