彼女は不思議だ

手元に置いておきたい程の存在、誰にも取られたくない玩具、ヒソカが一突きすれば呆気なく死んでしまうんじゃないかというくらい儚いもの

ヒソカが気に入らなかった通りすがりの人間を殺した時、彼女はただ静かに、ヒソカの後ろに突っ立っていた。何を考えているのかわからないその表情はまるで読み取れず、自分に似たようなものさえ感じてしまった

、、、あぁ、いいよ、ゾクゾクするよ

「そのトランプってただのトランプじゃないでしょ?」
「奇術師のトランプに不可能はないの」
「私にも貸して」
「君には扱えないよ」
「いーから」

そう言ってほぼ強引にヒソカのトランプを奪ったしゅんは、物珍しそうにそのトランプで遊び始めた。終いにはヒソカまでそれに乗せられてしまい、夜が明けるまでババ抜きをした

「もー、ヒソカ強い」
「だって君、顔に出やすいんだもの」
「じゃあ次は無表情でやる!」

真剣にヒソカの手持ちのトランプを見つめ、どれがジョーカーか考えるように顔をしかめ、これだ!と思ったトランプは、残念ながらジョーカー。やってしまった、と言わんばかりに表情を変え、やっぱりしゅんは顔に出やすいんだと2度納得した

「あーまた負けた、、、」
「ボクの勝ちだね」
「なんか、、、卑怯な手使ってない?」
「ん?使ってないよ」
「似非奇術師なくせに」

他愛も無い会話が繰り広げられている最中、ヒソカの携帯が鳴った。出てみるとそれはイルミで。どうやら手伝って欲しい仕事があるから今から会いたいとのいうこと

「今からイルミを此処に呼んでいいかい?」
「あ、うん、いいよ」

、、、仮にもイルミは人々が恐れるあのゾルディック家の人間だ。こうも無防備に家に招き入れようとするなんてしゅんはやはり、不思議だとヒソカは胸の奥底で思った

1時間後、イルミが家にやって来た

「や」
「遅かったじゃない」
「ちょっと用事ができちゃってね」
「ふーん、あ、ちょっと静かにしてね、彼女、寝ちゃってるから」

イルミが来るまでの間起きてる、と駄々をこねていたしゅんだったが流石に限界が来たのだろう、ソファに横になってスースーと寝息を立てている。そんな彼女に毛布を掛けてやるとイルミがヒソカに言った

「珍しいね、ヒソカが女を傍に置いておくなんて」
「しゅんはボクを楽しませてくれるからね、突き放すのには勿体ないんだ」
「ふーん、、、ねぇ、もし俺がこいつを殺したらヒソカはどうする?」

イルミのその質問に、不覚にも欲情してしまった

「そうだねぇ、キルアを殺して、アルカも殺して、いっそうのことゾルディック家みんな殺しちゃおうか?」
「それは困るからやめておくよ」

冗談なのかそうじゃないのかわからないけど、イルミに殺されるくらいなら、しゅんはボクが殺してあげよう、とヒソカはトランプをしげしげと見つめた

「愛してるの?」
「愛?何それ」
「俺にも理解できないけど、傍に置いておきたいってそういうことじゃないの?」
「うーん、、、」

愛、愛、愛、、、うん、違うな

「しゅんはどんな殺人鬼よりも冷徹だと思っている、それが面白いんだ、これからボクと一緒にいてどう成長するのか見ていたいんだよ」
「そのうち飽きて捨てるでしょ、ヒソカのことだから」
「その時はその時さ」
「はぁ、全く掴めないね」

、、、まぁ、本当にその時はその時だよ。ヒソカは眠っているしゅんの寝顔を見つめ、そっと頬を優しく撫でた。まるで猫みたいに眠る彼女は、怖いもの知らずで世間のことを何もわかっていないかのよう

今この部屋には殺人を好む2人がいるっていうのに、無防備に寝ているんだもの

「まるで青い果実だねぇ」
「程々にしなよ」
「ダイジョーブ、殺しはしない」



そう、しゅんが熟した果実になるまで、決して手放したりはしない。たとえ殺されるかもしれないと殺気を感じて逃げ出したりしても、ボクは君を離さない




-------だって今でもしゅんの傍にいたいから





Fin


prev next
back

- ナノ -