露草は気に入らねぇ、と舌打ちをした




「おい、しゅん、帰るぞ」

幼なじみのしゅんに声をかけると、しゅんは急いで帰り支度をし、露草の後をついて行く

小さい頃から家が隣同士で、幼稚園も、小学校も、中学校も、高校も同じ所に通っていたそんなしゅんの性格は泣き虫、鈍臭い、ノロマ、怖がり、臆病だと露草は思っていた

何をするにも失敗ばかりで泣き虫のくせに泣くのを我慢しようとする、次は頑張ろうと意気込んでも成功する確率はほんの3分の1で、達成することはほとんどなかった

勇気なんてものはなく、いつもオドオドしており、それを見るといつもイラッとしてしまう自分がいた

だから今回もそう

「------でね、バレンタインにチョコレートをあげようと思うんだけど、どんなのがいいかなぁって」
「女子の作るチョコって板チョコを溶かしてまた固めただけのもんだろ?なんなら板チョコを渡せばいいじゃねぇか」
「それじゃあ手作りって言わない!もう、露草は何もわかってないんだから」

わかってないのは、お前の方だ

「でも、梵天くん人気あるから他の人からもたくさんチョコもらうんだろうなぁ」
「けっ、あいつは表面上気取ってるだけだ、中身はきっと腹黒いに決まってる」
「そんなことないよ!だってこの前なんか私が落とした消しゴムを-------」

お前から、あいつの話なんざ聞きたくない。告白する勇気もないくせに、今回だってきっとチョコなんか渡せねぇ。去年もそうだった。渡しそびれてこの世の終わりなんじゃないかってくらい落ち込んでたお前が、今年こそ、だなんて期待するんじゃねぇ

露草はしゅんの話を聞きながらも受け流し、「成功するといいな」と心にもないことを言った

バレンタイン当日。クラスメイトの男子達は皆妙にソワソワし、逆に女子達はきゃあきゃあと騒いでいる。それが鬱陶しくて露草はすれ違う人みんなにガンをつけていた

放課後になり、携帯を確認すると、しゅんから「少しの間待ってて」とメールが来ており、あいつにチョコを渡すんだなと他人事のようにそう思った

ところが、そのメールが来てから1時間、2時間と時間が過ぎても一向にしゅんはやってこない。もしかして先に帰っちまったか?とも思ったけど、仕方なく露草はしゅんがいると思われる教室へ向かった

教室にはしゅんが1人、佇んでいた。

「しゅん?」

露草が声をかけてもしゅんは反応しない。顔の前で手のひらをヒラヒラさせても、動きは無し

「おい」と強気で言ってみたらようやくしゅんははっとし、露草と目が合った。その手には------やっぱり、渡しそびれたチョコレートが持たされていた

「何だ、結局今年も駄目だったのかよ」
「、、、」
「まぁあともう1年あるし、来年に期待だな」
「、、うの」

「あ?」
「違うの」

違う?どういうことだ?

「受け取ってくれなかったの、、、」

そう言ったしゅんの目からは大粒の涙が溢れており、露草はその姿を見て、言った

「好みのタイプじゃなかったんだよ、お前は。残念だったな」
「、、、露草はいつも酷いこというね」
「はっ、そりゃあそうだろ、こんな鈍臭い幼なじみ、誰が庇うかってぇの」

「じゃあ、いつも私が梵天くんの話をする度に露草はどう思ってたの?」
「単純にムカついてた。勇気もクソもねぇお前があいつに告白なんざできるわけねぇってな」
「、、、そう」

そして、しゅんが小さな声で言った

「好きな人がいない露草に、私の気持ちなんかわかるわけないよね」

その言葉にカチンとし、露草の頭には血がのぼった

「そんなん知るか!大体、人間ってもんは何かをする時は成功率ってもんを想像してから挑むもんなんだ、なのにお前は、いつも行き当たりばったりで、失敗したら泣けばいいと思ってやがる!今回だってそうだ、泣けば俺に慰められるとでも思ってたのか?馬鹿じゃねぇの」

そう言って、露草は言い過ぎたか?と少し後悔した。それはしゅんには効果てきめんで、さらに泣き、その場にしゃがみ込んだ

「俺はな、気に入らねぇんだよ」
「ど、ういうこと?」
「いつもヘラヘラとあいつの話ばっかりしやがって、お前は何一つ気が付きやしねぇ」
「意味がわからないよ」

そう、幸せそうに笑いながらあいつの話をするしゅんが気に入らなくて、イライラしていた。あいつはしゅんに見向きさえしないってぇのに、いつまでもいつまでも想い続けて。

「お前、好きな人がいねぇ俺にはわかるわけがねぇって言ったな」
「、、、うん」
「俺にも好きな人ぐらいいる。でもそいつは、泣き虫で、鈍臭くて、ノロマで、怖がりで、臆病で、好きな人に告白する勇気すらねぇ奴だ。それでも、それでもそいつが泣いてるところを見ると------」

------胸が、痛かった

あいつの話をしてほしくなかった、あいつに向けた笑顔を自分にも向けてほしかった、ワガママを言えば、全部独り占めしたいと思っていた

「けどな、俺はそいつに好きだなんて言えねぇんだよ、そいつには別に好きな人がいるからな、邪魔したくねぇんだよ」
「、、、露草、好きな人いたの?」
「、、、あぁ」

すると、しゅんがスッと立ち上がり、手に持っていたチョコレートを机に置いた

「好きな人に、好きって言っちゃ駄目なの?」
「そ、それは------」
「好きな人に別の好きな人がいたら、邪魔しちゃ駄目なの?」
「、、、」

「私は、、、今回も駄目だったけど、露草は自分の気持ち、好きな人に伝えたらいいと思う。きっと、いつか後悔すると思うから」
「、、、今更んなこと言えねぇよ」
「でも、きっとその相手は露草から好きって言われるのを待っているかもしれないし」
「それは絶対ねぇな、1%もねぇ」

------好きと伝えたら、何かが壊れてしまいそうで。この距離感がなくなってしまいそうで

「そんなことないよ、告白は誰がされたって嬉しいしきっと------」
「うるせぇ、チョコすら渡せなかったお前に言われたかねぇよ」
「ご、ごめん、、、」

こんなこと言うつもりはなかった。いつも、冷たく、酷いことを言ってしまうのは露草にも分からなかった。もっと優しい言葉をかけられたら、どんなに嬉しいことだろう

「私は、、、この後どうすればいい?」

「もう1度、あいつに気持ちをぶつけるんだ」と露草は心の中でそう言った。お前が少しでも笑えるよう、チャンスを逃させないよう、俺にはしゅんの背中を押すことしか出来ない

「行けよ」
「どこに?」
「あいつの所にだよ、まだ校舎の中にいるんじゃねぇの?」
「でも、、、」

「うるせぇよ、1度振られたくらいで諦めんな、あいつのことが好きなんだろ?だったら何度でもいいからお前の気持ち、ぶつけてこい、後悔しねぇように」

露草がそう言うと、しゅんはしばらく考え込んでいたが、机に置いていたチョコレートを再び手に持つと、ドアに向かって歩き出した

「、、、露草、ありがとう」
「おう」
「もう1度、気持ち伝えてくる」
「振られても、泣くんじゃねぇぞ」

「それじゃあ、、、行ってきます」



そう言ってしゅんは教室から走り去って行った。それを確認してから、露草は大きな溜め息をつく


しゅんのことが好きなのに、応援しちまうなんて、やっぱり気に入らねぇ、と露草はかすかに笑みを浮かばせてそう呟いた


Fin

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