「あ?」


それは露草と一緒に登校し、靴を履き替えている時だった。ロッカーを開けた露草の手の動きが止まり、何かをじっと見つめている

「どうしたの?」

露草が手に取ったのは可愛らしい便箋で。手紙だということがすぐに分かった。露草はそれを乱暴に開けて手紙を読み始める

私は見たら失礼かなと思って顔を覗かせなかったけど、可愛い便箋ってことは、露草のロッカーに手紙を入れたのは女の子だということが分かる

露草はしばらく手紙をじっと見つめていたが、それをぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に捨てようとしていた

「ちょ、露草!」
「何だよ」
「捨てたら駄目だよ!」
「いいじゃねぇか」

「何て書いてあったの?」
「今日の放課後、屋上に来てだとさ」
「それって、、、」

手紙の差出人は、多分露草に告白する気だろう、と直感した。途端に私の心にもやが広がる

「、、、行くの?」
「行く必要なんかねぇよ」

その露草の言葉にほっと安心する自分が、ずるいと思えた。手紙を書いた女の子は露草のことが好きで、ドキドキしながらも手紙を書いたのだろう、そして勇気を振り絞って露草のロッカーに入れた------

「しゅん、教室行くぞ」
「あ、うん」

手紙を捨てようとしていた露草だったが、思いとどまってそれを鞄に押し込むと、私と一緒に教室へと向かった

そしてホームルームやら授業やらを終え、あっという間に放課後になった。露草は部活へ向かい、私は1人教室で帰りを待っていた

ガラガラ、とドアが開く音が聞こえ、私はそちらを振り向く。そこには見たことのない女子生徒が1人、立っていた。同じクラスメイトではないようだし、違うクラスの人かな?と思っているとその女子生徒は私の方へ歩み寄って来た

「貴女がしゅんさん?」
「そ、そうだけど」
「ふぅん」

女子生徒はまるで私を品定めするように全身を見つめてきて、こう言い放った

「悪いけど、、、露草と別れてくれないかな?」
「えっ?」

突然のことに私の声は裏返った

「露草が放課後、屋上に来なかったのは貴女が止めたからでしょう?」

、、、あぁ、手紙の差出人はこの人だったんだ、と瞬時に理解をし、これはマズイ状況なんじゃないかと冷や汗が出る

「まぁそれはいいとして------別れてくれる?それとも別れない?」

どうして初対面の人にそう言われないといけないのか、私は少し腹が立った。露草と別れる?そんなの有り得ない、他人に言われて別れるだなんてよっぽどの馬鹿だろう、私は首を横に振った

「ごめん、だけど露草と別れる気なんてないの」

私のその言葉に、女子生徒が小さく舌打ちをした

「貴女、自分が露草に相応しいとでも思ってるの?自意識過剰すぎるわ」
「相応しいかだなんて誰かが決めることじゃないよ、お互い好きだから一緒にいるの」

そう、相応しいかどうかなんて関係ない。私は露草のことが好きで、露草も私のことが好き。それだけは胸を張って言える。他人に価値観を決められる筋合いなんてない

「貴女、あんまり調子乗らない方がいいわよ」
「どういう意味?」
「別に意味なんてないわ」
「、、、」

「私は貴女から露草を引き剥がしてあげる」

女子生徒はそう言うと、向きを変え、教室から出て行った。私はその姿を見届けてから溜め息をついた。なんなのよ、あの人------

ずっと胸がザワザワしていた。宣戦布告されたような気分だ。引き剥がす?どうやって?私達がそう簡単に別れるとでも思ってるの?有り得ない、絶対にない

露草のことが好きだという気持ちは誰にも負けない。露草もそうであってほしいけど------

しばらくすると、部活を終えた露草が教室へやって来た。私はしかめっ面を無理矢理直してパチン!と頬を叩く

「待たせて悪いな」
「ううん、大丈夫」

帰り道、露草はサッカー部の練習がキツかったことや、もうすぐ試合があるということや、合宿があるということを私に話していたが、正直半分も聞いてなかった

あの女子生徒がもし本当に、私と露草を引き剥がしたら?そればっかり考えていた

「、、、何かあったのか?」
「えっ?!な、何でもないよ!」
「嘘だな、しゅんは隠し事がすぐ顔に出やがる」
「、、、」

露草に先ほどのことを言ってしまおうか、一瞬悩んだけど、やめておいた。心配をかけてしまうし、あの女子生徒が何か私達に仕掛けてくるなんてことはないだろうから、きっと大丈夫

「本当に何でもないから」
「?そうか?」

「ねぇ、露草」
「どうした?」

「もし、もし誰かが私達の仲を壊そうとしてたら、どうする?」

私の質問に露草は目をキョトンとさせていた

「有り得ねぇな、もしそんなことできる奴がいたら、逆に可哀想だと思うな。俺らを引き裂くことしか出来ねぇなんて哀れだなってな」
「じゃあ、もし、露草が------」

------他の女の子を好きになったら?

その言葉は喉の近くまでやってきたけど、グッと飲み込んだ

「やっぱり今日のしゅん変だぞ」
「あ、、、多分疲れてるのかも」
「家に帰ったらすぐ寝ろよ」
「うん、ありがとう」

露草に心配をかけてはいけない。私は終始笑顔でいるよう心掛け、家に着くまで気を張り詰めていた。家まで送ってくれた露草と別れ、私は玄関に座り込む

何度も溜め息が出てしまう。あの女子生徒のお陰で気付いたけど、露草はかなりモテる。一匹狼だけど見た目は上の上で。問題があるといえばその性格だ

来る者も去る者にも噛み付く勢いがあり、近寄り難いと言われている露草だったが、喋らなければきっと王子様みたいなものなんだろう

きっと、あの女子生徒以外にも露草のことを好きでいる人は多いはず。ライバルは多いんだ、油断してはいけない、気を引き締めなきゃ

そう思い立ち上がると、家のインターホンが鳴った。あわてて玄関のドアを開けるとそこにいたのは先ほど別れたばかりの露草で。

「どうしたの?」
「いや、やっぱりしゅんの様子がおかしいから心配になって」

そう言った露草は少し息が切れていて。走ってきたのだろうとすぐに分かった

「俺の部活待ってる間、何かあったんだろ?」

露草の勘は当たっている。私の様子が変だということにもすぐ気付いてくれる。それは私のことを見てくれているという証拠で。

「、、、本当に何もなかったよ」

私は小さな声でそう言った

「さっきの質問のことなんだけど」
「さっきの?」
「あぁ、安心しろよ、引き裂かれてもまたやり直せばいい、誰が敵に回ろうが俺らがお互いのことを好きでいれば問題ねぇ。それでももししゅんが不安だって言うんなら、俺がその敵に1発かましてやる」

露草のその言葉に、私は救われて。泣き虫の私はすぐに泣きそうになったが堪えた

「何があったか教えてくれなくてもいい、でもこれだけは覚えててくれねぇか?俺はしゅんの彼氏だ。誰かが邪魔するってんなら誰にも容赦しねぇ、しゅんのことを傷付ける奴が現れたら俺はそいつを一生許さねぇ。しゅんの笑った顔が------俺は1番大好きだから」

露草はそう言うと顔を下に向けた。きっと真っ赤になっているのだろう

露草はいつもそうだ。私のことを1番に考えてくれている。今だってそう、心配して戻ってきてくれたんだ、愛おしいと思わないわけが無い

「露草、ありがとう」
「お、おう」

世界が敵に回ろうが、愛する人がたった1人、たった1人だけいればいい

その人こそが、1番の存在なのだから。

数日後、あんなことが起きるとは知らず、その時の私は幸せな気持ちでいっぱいだった


------あんなことさえ起きなければ




6へ続く

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