あぁ、梵天が露草を殴ったんだ、とやっと分かった時、私は梵天の傍に駆け寄った

「梵天!殴るのはさすがに------」
「俺の気が済まないからね、それに他の女に簡単にキスを許す奴なんて俺は大嫌いだからな」

私は露草の方を見ると、露草も私を見ていた

「何でてめぇがしゃしゃり出てんだよ」
「しゅんは俺の好きな人だから、かな」
「てめぇが?しゅんを?」
「そう。きっと俺の方がしゅんのことを幸せにさせてあげられる。どっかさんみたいな大事な人を泣かせるような奴よりもね」

梵天、そんなこと言ったら------

「てめぇは引っ込んでろ!」

拳を振り上げ梵天の顔を殴る露草。そんな梵天も殴り返し、喧嘩する2人を私は止められなかった

「しゅんがずっと泣いてたの知ってた?」
「あ?」
「露草、お前が酷いことしたんだろう?」
「------だから、あの女が」

「女を言い訳に使うなんて随分自分勝手なんだね。どうせしゅんも遊びだったんだろ?」

この言葉に、露草は固まった。殴ろうとしていた腕の動きを止め、静かにおろす

「しゅんも可哀想だよ、こんな自分勝手な遊び人に付き合わされちゃって、もっと俺が早く先に告白しておけばよかったな」

「、、、悪かったと思ってる」
「------え?」

露草が小さな声でそう言った

「あぁ、俺が馬鹿だったよ、しゅんがいるっつーのに他の女にキスされてしゅんを傷付けて泣かせて、本当に馬鹿だった」

一呼吸置いて、露草が続ける

「でも、しゅんだけは誰にも譲れねぇ、遊びなんかじゃない、ずっと本気だった、俺はしゅんさえいれば充分なんだ、誰にも邪魔されたくねぇ」
「露草、、、」
「今回の件でしゅんが俺のことを嫌いになったら俺はそれを素直に受け止めてやるよ、別れたいって言うんなら別れる、けどな、俺はまだずっとしゅんと一緒に居てぇ。しゅんの近くに、隣に居たいんだ。例えしゅんがそれを許してくれなくても、俺はしゅんを好きでい続ける」

------私はこんなにも愛されていたんだ

「だから梵天、てめぇにはぜってぇ譲らねぇよ、しゅんが泣いているタイミングでつけこんだ野郎にやれるかってんだ」
「、、、もう2度と、しゅんを泣かせないって約束できるなら今回は引いてあげてもいいけど」
「約束も何も、むしろずっとしゅんが笑顔でいられるよう俺は俺のできることをやってみせる」

そう露草は言うと、梵天と私を残して教室から出て行った。私は待って!と叫び露草を追う

私はあんなにも愛されていたんだ、それに気が付かなかった私も、馬鹿だった。キスが何よ、ただ唇と唇が触れただけじゃない、そんなことを気にして泣いていた自分がアホらしく思えた

「露草!」

名前を呼んでみたが露草はこちらを見てくれない

「ごめんな、しゅん」

露草にそう謝られ、私の胸はグッと痛んだ

「さっき言ったことは本当だ。別れたいなら自由にしろ、俺は止めないから」

------そんなこと、言わないで

「でもまぁ、嫌われて当然のことしちまったしな、今更そう言われてもって感じだけどよ」

------違う、そうじゃない

「俺、やっぱ恋愛向いてねぇのかもな」

------違うの、露草

「悲しませてごめんな、こんな俺のこともう嫌いになっただろ?だから------」
「嫌いになんかなってないよ!!!」

私の声は廊下に響き渡って。露草がやっとこっちを向いてくれて。私はぎゅっと拳を握りしめながら言う

「確かに、あのことは悲しかった。露草が他の女の子とキスするなんて、辛くて、耐えられなかった。でも、露草は自分からそんなことするような人じゃないってわかってても、どうしても責めずにはいられなかった」

駄目だ、涙で前がよく見えない

「私も!露草ともっとずっと一緒にいたい。学校を卒業しても、社会人になっても、おじいちゃんおばあちゃんになっても、私の隣には絶対露草がいて欲しい、嫌いになんかなってない」

めちゃくちゃだけど、伝えなきゃ駄目なの

「露草のことが大好きで仕方が無いの、、、!いつも胸が苦しいの、、、!離れたくない、絶対に離れない、私はずっと露草を好きでいる、だから露草も、私の隣にずっといてくれる?」

涙のせいで露草の顔がよく見えなかった。途端に、ふわりと体を抱きしめられた

「本っ当に、俺らって馬鹿だな」

そう言って小さく笑う露草

「でも、案外悪くねぇな、これが俺らのやり方ってぇの?」
「どこにも行かないで」
「行かねぇよ、何処かへ行く時はしゅんも一緒だ」

「離れないでね」
「そうだな、離れる時ってのは俺が年老いて先にポックリ逝った時ぐらいだな」

露草のそのジョークに私はばっと顔を上げる

「うわ、お前顔大変なことになってるぞ」
「そっちこそ」

露草が私の涙を指で拭き取り、そっと微笑む。私もつられて笑ったら、露草は「もう1回」と言って再び私のことを強く抱き締めた




好きな人がいるのは辛くて、苦しい。でもそれを好きな人と乗り越えられれば、その先にはきっと幸せな未来が待っている



その幸せに向かって、私達はゆっくり歩んでいくんだ



5へ続く

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