見たくないものを、見てしまった



息が上がる、苦しい、それでも必死に走る。全身の血が頭に流れ込んでるんじゃないかと思うくらい頭はガンガンしていて

後ろからは露草が私を追いかけてきていた

「しゅん!待てよ!」

嫌だ嫌だ嫌だ。あんなの、見たくなかった、見てはいけないものを見てしまった、偶然にも、見てしまった、それは不幸の始まりにもなりそうで

頬を涙が伝う。頭の中では先ほど見てしまったシーンが何回も繰り返し流され、私は泣き叫びたいくらいいっぱいいっぱいだった

「おい!」

やはり男の子には敵わない。私に追いついた露草が私の腕を掴んだ

私は泣き顔を見られたくなかったから、露草が強引に自分の方へ向けても私はずっと下を向いていた

「違う、あれはあの女が勝手に------」
「でもキスしたんでしょ?」
「不意打ちだったんだ、避けられなかった」
「でも、でも、、、!」

露草が私の知らない女の子と、キスをしていた。それを見てしまった私はその場から逃げるように立ち去り、後ろから露草が追いかけてきてるのにも関わらず止まろうとはしなかった

捕まりたくなかった。今露草と一緒にいると、露草に酷いことを言ってしまいそうになり、私はまた逃げるため掴まれた腕を振り解く

だけど露草はガッチリと私の腕を掴んでいて、離してくれない

「悪い、俺が無防備だった」
「、、、たじゃん」
「え?」
「私は露草のだって言ってくれたじゃん!」

ついに私は声を張り上げてそう言った

「なのに何で他の女の子とキスするの?!」
「だからそれは------」
「もういい、やめて、聞きたくない!」

私は耳を塞いで、力が抜けたかのようにその場にペタンと座り込んだ。

嗚咽が出る。とめどなく溢れる涙。辛い、痛い、苦しい、悲しい、なんて惨めなんだろう------

「、、、腕、離して」
「離したらまた逃げるじゃねえか」
「離さないと今、ここで露草と別れる」
「、、、」

私も酷い彼女だ。キスは露草からしたんじゃない、相手の女の子からキスしたんだ、わかってる、そんなことは分かり切っている

だけどどうしても露草を責めてしまう、キスをした女の子に最初から近付かなければ良かったじゃない、2人っきりになるのを避ければよかったじゃない

------今は、露草の顔なんか見たくない

私の腕を掴む力が弱くなった瞬間に、私は再び振り払って、体を起こしその場から逃げ出した

後ろの方で露草が私の名前を叫んでいるけど私は振り返ることはしなかった。「不意打ちでキスされたならしょうがないね」なんて言えなかった私は涙を流しながら廊下を走り、階段を降りる

露草の声が聞こえなくなったと同時に、私は上がった息を整えるため壁に寄りかかった

駄目だ、涙を堪えられない、どんどん溢れてくる。周りに人はいない。私は声を上げて子供のようにワンワン泣いた

------それから10分経った頃だろうか

「しゅん」

下の階段を上ってやって来たのは梵天だった

「何で泣いてるんだ?」
「、、、梵天には関係ないよ」
「もしかして露草が原因?」
「、、、」

それはそれは見事に当ててくれて。自分で言うより先に言われた方が楽だと今知った

梵天は私の隣に来て、同じように壁に寄りかかる

「どうしたら泣き止んでくれる?」
「しょ、しょうがないじゃない、勝手に溢れてくるんだからそんなこと知らないよ」
「じゃあ俺が今から露草を蹴り飛ばせば、しゅんはスッキリするかい?」
「、、、」

梵天は優しかった。今までは私と露草のことを小馬鹿にしたりからかったりして遊んでいたけど、今私の隣にいる梵天は落ち着いていて、冷静で、まるで大人のようだった

「ねぇ梵天」
「なんだい」
「好きな人がいるって、辛いね」
「俺は好きな人が泣いてると辛く感じるよ」

梵天は、誰のことを言っているのか私には分からなかった。だんだんと涙の量は減っていき、落ち着いた頃に梵天が喋りかけてくる

「好きな人が泣いてるなんて、俺には耐えられない。今すぐなんとかしてあげないとって思う」
「?誰のことを言ってるの、、、?」
「君だよ」

------私???

「梵天、こんな時に冗談はやめてよ」
「冗談じゃないさ」

じっと見つめられ、私は混乱した。梵天が、私のことを好き?なんで?

「でもこういうのって、今のしゅんのことを考えれば言っちゃ駄目なんだよね。弱ったところを攻めるのはなんか違うだろ」

何を言いたいのか分からなかったが、私はあまり梵天のことを意識しないようにした。そんな今も頭の中は露草のことばかりで。あの場面を見てしまった時の悲しみを思い出して

やっと収まったと思っていた涙がまた、流れ始めた。それを見た梵天、どこへ行くのだろう、上の階に続く階段を上り始めた

「しゅんはもう少しここで自分を落ち着かせなよ」

そう言って私の視界から梵天が消えた

言われた通り、私は落ち着くために深呼吸して、階段に座り込んだ。------駄目、あの場面が忘れられない。何回も何回も、まぶたの裏にもこびりついて考えることを止めさせてくれない

数十分経った頃だろうか、なかなか梵天が戻ってこなかったので、私は探すことにした

教室を一つずつ回り、梵天の姿がないか教室を見渡す。ここにもいないか、と諦めてあとは今目の前にある教室だけだ

その教室は、露草と女の子がキスをしていた所だった。嫌だ、入りたくない、またあの場面を見てしまいそうで、ドアを開けようとする手が震えていた

その時------

ガァァン!と物凄い大きな音が教室から聞こえてきて、私は急いでドアを開け、中へ入った

「、、、、、、なっ」

中には露草と梵天がいて、あの女の子はいないようでほっとしたが、すぐには状況を理解することができなかった

露草の片方の頬は赤く腫れており、口の端が切れていた。その傍らにいるのは拳を握っている梵天

------一体何が起こってるの?




4へ続く

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