本当は、苦しかった



授業中。私は黒板に目を移し、少し考えて次にノートに目をやる。書き終えるとまた少し考え、小さく溜め息をついた

ふと、自然と目が斜め前に向かう。そこには私が片想いしている人、露草がいた

入学式で一目惚れして、そこから奇跡的に3年間同じクラス。でも喋ったことはあんまりなくて、私の一方通行

いつまで経っても自分の気持ちを伝え切れず、ウジウジとしていた。でも、言えないのにはちゃんとした訳がある。それは---

授業終わりのチャイムが鳴った。これで今日の授業は終わり。ホームルームを済ませて、教室やら廊下やらの掃除を皆でする

全部終わると、バラバラとクラスメイト達が帰っていった。私はいつも少しだけ教室に残っている

露草も、誰かを待っているようだった。その誰かを私は知っている

「露草、お待たせ」
「帰るか」

露草の待ってた人は、露草の彼女。そう、露草には今現在付き合ってる人がいるのだ。それが私が露草に告白できない理由である

彼女が教室に来た瞬間、露草の表情は緩み、とても嬉しそう。それを毎回見る度、私の心は反比例してチクチクと痛んだ

「ねぇ、手繋ごう」
「バーカ、誰が繋ぐもんか」
「もう!」

2人の会話を聞きながら、私は耳を塞ぎたくなって。教室から出て行く好きな人の背中を見るのが切なくて。なら教室に残ってないで早く帰ればいい話じゃない、ってなるけど、その日の最後まで露草の姿を目に焼き付けておきたかったから、それはできなかった

1度だけ、露草に近付けるチャンスがあった。それは数ヶ月前にあった修学旅行。なんと露草と同じ班になったのだ

ドキドキしながら修学旅行に参加し、話せる機会があったら積極的に話そうと意気込んだものの、他の女子や男子がいるせいか話しかけられず、いよいよ修学旅行最終日

私はその日、体調が悪かった。皆について行くのに必死で、フラフラしながらも着いて行ってると---

「ワリィ、俺としゅん後から行くわ」
「えっ?」

露草が私の腕を掴んでそう言った

「んじゃあ先行ってるな」

同じ班の人達がゾロゾロと向こうへ歩いていく。私は露草に腕を掴まれたまま、近くのベンチへ連れて行かれた

そしてそのベンチに座らされ、露草が言う

「体調悪いんだろ?」
「、、、何でわかったの?」
「朝会った時から顔色悪いと思っててさ、ふらついてるし、ていうか誰が見ても分かる」
「そっか、、、ありがとう」

私のこと、見ててくれたんだ、と私は心が温まった。露草が今私の隣にいる、それだけで体調のことなんかどうでもよくなって、しばらく放心状態だったっけ

あのあと少し休んでから班の人達と合流して、修学旅行は幕を閉じた

その日のことを思い出していると気が付けば教室に残っているのは私だけで。帰らなきゃ、と席を立つと同時に教室のドアが開いた

そこに居たのは露草で。私は心臓が飛び出そうになった

「しゅん、まだ残ってたのか?」
「あ、うん」

露草から話しかけてくれたことが嬉しくて思わず舞い上がりそうになったが冷静を装っていた

「露草は何で戻ってきたの?」
「忘れ物したんだよ、ほら、明日数学のテストあるだろ?その問題集」
「あぁ、あの先生のテスト難しいもんね」
「だよな、しゅんもそう思ってたんだ、本当めんどくせぇよな」

自然に会話できてる、今この瞬間を大切にしたいと思った

私の好きな人---叶わない恋。いつも遠くから眺めてるだけでそのくせ自分は臆病で。もっと自分に勇気があればと何度思ったことだろうか。彼女がいても気持ちだけ伝えれば満足するかもしれないというのに

でも、彼女がいる今の露草はとても幸せそうで。その幸せを邪魔したくなくて。2人を見ているのがいつも日課になっていて。壊したくない、そう思っていた

だけど------だけど。

露草が突然ぎょっとするような顔を見せた

「ちょ、何で泣いてんだ?どっか痛いのか?」
「ううん、何でもない!目にゴミが入っただけみたい」

気が付いたら私は泣いていた。一生届くはずのない想いは宙へと消えて。言葉にならない感情が涙になって溢れかえった

「見せてみろ」
「だ、大丈夫だって」

私の言葉を聞かず、近づいてくる露草。そして近距離で見つめられ、私の胸は破裂寸前だった。私の目を確認すると露草が言う

「何もねぇみたいだな」
「うん、もう痛くないよ」
「------昔からそうだったよな」
「え?」

露草の言葉に私は首を傾げた

「ほら、入学式の時、しゅん、胃を痛めてただろ、でも誰にも言わないで耐えてたから俺声掛けたじゃねぇか」
「あ、確かに、、、」
「2年生の体育祭の時もリレーで転んだのに保健室に行こうとしなかったし」
「あれはかすり傷だったから、、、」

「修学旅行の時もそう、自分の体調悪いと皆の足引っ張ると思って黙ってただろ」
「う、うん」
「辛い時は辛いって言え。それで誰かに迷惑かけるわけじゃねぇんだから、我慢するな、もし言いにくかったら俺に言え。俺は別に負担になるなんて思わないからな」

そう言って露草は小さく微笑んだ。



あぁ---じゃあ、どうすればこの心の痛みはなくなるの?



「じゃあ、先に帰るな」



---貴方に気持ちを伝えれば、私の心の痛みは、なくなるの?




「待って!」




---どう思われてもいい、この想いだけは、貴方に、ちゃんと、届いて欲しい





Fin

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