「しゅん、おはよう」
「梵天おはよう」

朝、学校へ行き靴を履き替えていると同じクラスの梵天に挨拶をされた。梵天は学級委員で頭もよく、生徒会にも務めていた

「今日は露草と一緒じゃないんだね」
「露草は朝練があったから」

3ヶ月前に露草に告白され、付き合い始めた私達。交際は順調で、たまに喧嘩をしたりするが結局どちらかが謝って仲直りをする

そんな露草はサッカー部に所属していた

今朝起きてみると携帯にメールが来ており、それは露草からで朝練があるから先に学校に行ってる、という内容だった

露草はやり始めたことは最後までとことんやり通す性格で、そのせいか今まで1度もサッカー部の朝練をサボったことはなかった

だから私はたまに1人で登校することがある

「しゅんは部活入らないの?」
「んー、やりたいことが見つからなくて」
「露草のいるサッカー部のマネージャーやってみたら?」
「それ思ったけど露草に駄目って言われた」

私は部活に入っておらず、いつも放課後、露草が部活を終えるまで待っているのだが、その時間があまりにも暇すぎてサッカー部のマネージャーをやりたい、と露草に言ったことがあった

だけど露草に「気が散る」と言って反対されたのだ

「じゃあ俺がいる生徒会に入る?」
「私そんな器ないよ」

なんて会話をしていると、朝のホームルーム開始10分前のチャイムが鳴った。もう学校のロッカールームにはほとんど人がおらず、ガランとしていた

そんな中---

「おい」

シューズを手に持った露草がやって来て。その表情は怒っているようにも見えて。

「しゅんに近付くなって言っただろ」
「別に下心なんてものはない、ただしゅんと話したいから近寄っただけだよ」

「たいした用じゃねぇくせに」
「朝から機嫌悪いね、もしかして低血圧?」
「うっせぇ!話逸らすな!」

また始まった、と私は内心そう思った

露草と梵天の仲は悪かった。露草は梵天の何が気に入らないのかよくわからないけど、梵天が私と話しているといつもこう喧嘩が始まる

「しゅんのことになると露草はいつも余裕がなくなるね」
「あ?」
「余裕のない男は嫌われるよ」
「てめぇに言われたくねぇよ」

売り言葉に買い言葉。2人が喧嘩状態になると私は完全に蚊帳の外なのだが、もう見慣れてしまっているのでいつものように仲裁に入る

「2人とも、もうホームルーム始まっちゃうよ」

そう言うと露草が私の手をとり、強引に連れて行かれた。そして教室に向かう最中、露草の機嫌は当たり前のようにずっと悪くて、握られた腕がちょっとだけ痛かった

「しゅん」
「何?」
「アイツに関わんな」
「でも無視するのは酷いでしょ」

「今度あいつがしゅんに話しかけているのを見つけたらぶん殴ってやる」
「暴力は駄目だよ、、、」
「しゅんは俺だけを見てればいいんだよ」

「えっ?」

今、とんでもないことを言われなかった?

私がそう思っていると露草も自分で気付いたのだろう、いきなりこちらに振り向き「違う!」と言い放った

「違うって何が?」
「いや、だ、だからさっきの---」
「露草だけを見てればいいの?」
「ばっ、だからちげぇよ!」

アタフタする露草の顔は真っ赤。私もつられて照れていると、露草は腕から自分の手を離し、今度はちゃんと手のひらを握ってくれた

「、、、だからな」
「えっ何?」
「しゅんは俺のだからな」

なんて恥ずかしいセリフなんだろう。私の頭は完全にショートしていて、露草の顔を見る余裕すらなかった

「束縛するのは駄目だって分かってる、けどしゅんがアイツと喋っているのを見ると嫉妬する」

聞こえるか聞こえないかの声でそう言われて。私は握られた手をぎゅっと握り返した

「今度からは気を付けるね」
「あ、その、なんだ、、、ワガママで悪い」
「ワガママじゃないよ、逆の立場だったら私もそう思うもん」
「そうなのか?」
「うん」

露草の表情が明るくなる。一喜一憂するそんな露草が愛おしくて、私の胸は弾むばかりだった




好きな人が異性と話していると嫉妬する。それは決してワガママなことなんかじゃない




それ程その人のことを想っている証拠だから。



3へ続く

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