「しゅんの木、切り捨てられたみたいだよ」

梵天のその言葉に、一瞬本当に目の前が真っ白になって、頭が混乱した

「嘘だろ?」
「嘘なんかつかないよ」

しゅんとは露草と仲が良かった同じ樹妖。四季を共にし呼吸まで重なってるんじゃないかってくらい意思疎通しており、露草が笑ったらしゅんも笑う、露草が怒ったらしゅんも怒る、お互いの考えてることがよく分かる唯一の友だった

あいつが?居なくなった?

「俺みたく挿し木すれば、、、」
「もう遅い、切り株ごとなくなってしまっている」

いつからか、しゅんが姿を見せなくなった。たまにそんな日もあるさと露草は思っていたが、そんな日、では済まされなかったのだ。

居なくなった?もう、会えないのか?もう無理なのか?何でもっと早く気が付かなかったんだ?後悔の波が露草を襲い、今度は目の前が真っ暗になった

「---人間の仕業か」
「露草、仇討ちしようとしないでよね」
「、、、しねぇよ、そんな、今更」

声に出したつもりだったが、声になっていなかった。しゅんの木が切り捨てられた、その言葉ばかり繰り返し刻まれる

人間に復讐しようかだなんて考える余裕もなかった。復讐したところであいつが戻ってくるわけがねぇ、もういなくなっちまったんだ、それだけはハッキリとしている

「露草、どこに行くの」
「てめぇには関係ねぇ」

露草はそう言い、しゅんの木があった場所へ向かう

露草がしゅんに出会ったのは白緑が冬眠している時だった。樹妖には珍しい俺と同じ人型でまるで人間のようだった。初めて会った時は本当に人間だったんじゃないかと驚いたのを覚えている

(あいつも森林浴が好きだった)

今思い返すと、どれも他愛もない話ばかり。でも露草にとっては大切な存在で、切り離してもまた勝手に戻ってくるような距離感だった

(あいつ、木の周りに花が咲いたって喜んでたな)

何でいきなりいなくなるんだよ。どうしてあいつが切り捨てられなきゃならねぇんだよ。あいつが何か人間に悪さでもしたか?いや、ねぇな、あいつにはそんな度胸はないのを知っている

しばらくすると、しゅんの木がある所に辿り着いた

「---本当になくなっちまってる」

しゅんの木があった場所には大きな穴があり、切り株ごと掘られて切り捨てられたというのがよくわかる。獣妖の姿は見当たらないしただただ、そのポッカリ開いた穴を見て虚無感を感じていた

「戻ってこいよ、なぁ」

宙へと消えたその言葉は、露草の胸を締め付けた。気付かない自分が馬鹿だった、と露草は何度も思って自分自身を責めた

しゃがみ込んで下を向くと、ポタ、と何かが地面にシミを作った

「あ?」

露草は自分の頬に手を当てた。その頬は涙で濡れていた

「何で、泣いてる?」

どうしようもない思いが自分自身を押し殺しそうで胸が張り裂けそうで。しゅんを助けることができなかった自分に腹が立って。

「クソッ」

もっと話したかった、もっと会いたかった、もっとずっと一緒にいたかった

露草は袖で涙をゴシゴシと拭うが、涙は止まることを知らず溢れるばかり。自分の感情が形になって現れて露草はやっと初めて気付いた





「俺は、お前のことを---」







Fin

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