あの人が姿を消してから、3ヶ月が経った。鮮明に思い出されるのはヒソカとの他愛もない会話ばかり。ずっと一緒に居たんだ、思い出さない日なんて1度もなかった

「そのデザートボクも食べたいな」
「駄目〜」
「一口でいいからさ」
「ヒソカの一口って大きいもん」

確かこの時は結局ヒソカに一口あげたんだっけ。言った通りにヒソカは私の大好きなデザートを全部食べちゃって私が拗ねたら、ヒソカはわざわざ新しいのを買ってきてくれた。まぁそれもほとんどヒソカに食べられちゃったんだけど、、、

「寒い」
「もっとこっちにおいでよ」
「ヒソカって湯たんぽみたいだね」
「、、、ボクはその程度ってこと?」
「違うよ」

寒い寒い冬の日、ダブルベッドで寝ているとヒソカがたまに寝返りを打ち、布団まで一緒に持ってってしまい私はそのせいでいつもブルブルと震えていた。寒いと言ったらこっちにおいで、そう言ったヒソカにくっついたらなんとまぁ温かいもので

腰に腕を回しぎゅうっとくっついていると「寝れないんだけど」「だって寒いんだもん」「仕方ないなぁ」なんて会話をし、2人仲良く朝まで寝たっけ

「紅茶飲む?」
「ボクコーヒーがいいな」
「砂糖とミルクはいる?」
「うん、たっぷりね」
「甘党だね」

ヒソカは甘党だった。先程思い出した会話の中でもヒソカはデザートが大好きだったし、コーヒーには砂糖を4つ、ミルクを沢山入れていた。自分の性格は辛党なのに味覚は甘党ってどういうことよ、って突っ込んだら「ボクは自分に甘いの」なんて言っちゃって、私はよく首を傾げていた

「ねぇヒソカ、私から離れないでね」
「どうかな、ボクは気まぐれだから」
「気まぐれでいいから、ちょっと寄り道してくかの感覚で私に会いに来てね」
「君はボクがいないと何もできないしね」
「ちょっと、それどういうことよ」

本当にヒソカはいつも私のことを小馬鹿にしていた。確かに、私はヒソカがいないと何もできない。一日中ヒソカのことを考えて何も手に付かないし、仕事も捗らない。でもヒソカに会えたその日だけは何でもできるような気がして、スーパーマンになったような気分だった

、、、ヒソカがいなくなったこの家は1人で住むには広すぎて。いつも一緒に寝ていたダブルベッドは今は1人分余っていてなんだか寂しくて。ペットでも飼おうかなと考えてみたがペットよりヒソカがいい、と何度も思った

別れはいつか来ると覚悟していた。でもいざ来たら心の整理が追いつかなくて、毎晩ひっそりと静かに泣いた。1人が寂しいんじゃない、ヒソカがいないことが寂しいんだ

普段何も考えず会話していたけど、その何気ない会話も今にとってはとても愛おしくて、過去の思い出となり私を苦しめる。あぁ、もう1度だけでいいからヒソカに会いたい、話したい、その胸の中に飛び込みたい

自然と溜め息が出てしまう、こんなんじゃ駄目だと思ってはいても、何もする気が起きず、仕事が休みの日はどうしてもダラダラと過ごしてしまう

別れってこんなに辛いものだったっけ。こんなに胸が苦しくなるものだったっけ。ヒソカがいなくなった理由は分からないけど、きっと何処かで自由気ままに生きているのだろう、元気でいればいいなと呟いたら、ドアが開く音によって掻き消された

「?」
「やぁ、ちょっと寄り道してみたよ」

姿を消したことを何事もなかったかのような顔をして現れたヒソカ。おかえり、という言葉が口から出てこない。出てきたのは涙だけで

「ん?何で泣いているんだい?」

優しく私の涙を拭いて、ニコリと微笑む




-----あぁ、その笑顔が見たかったの




「ボクが居なくて寂しかったかい?」
「干枯らびるかと思った、、、」
「じゃあこれからは水をあげなきゃね」
「溢れるくらいくれないと怒るからね」
「はいはい」


失ったと思われた日常が戻ってきた今、私は再び貴方を愛し始める





Fin


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