▽卯と卵
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かさりと葉が擦れる音に、ざわざわと木々がざわめく。
猫足のバスタブに張ったのは、この森の奥、
深くに埋まる鉱床で温めたオパール色のさら湯だ。

窓も扉も、すべて、しっかりと閉じてあるのに、
ないはずの隙間から森の夜風がひゅるりと入る。

天窓から映りこんだ金の皿が、白い水面を揺らした。

この瞬間だけは、卵の黄身と白身の二色が交わる。
色の混ざったお湯が揺れる水面にぐにゃりと歪んだ顔が覗き込む。

「…もう、熱くないかな」

小麦粉みたいに真っ白な手を湯の中につけると、ふわふわの毛がぺたりと体に張り付いた。
指先についた水滴を、ひとつ、ふたつ、と、舐めると甘い砂糖の味がして、
嬉しくなったうさぎは、ざぶん、と、わざとらしく音を立てながら、お気に入りバスタブ飛び込んだ。

沈みきった口元からぷくぷくと、小さなあぶくがたっている。

「…これで私、卵になれるかしら?」

家の外は相変わらずで、ひゅーひゅー、と、風たちのハナシゴエ。
ヒトリゴトの呟きは浴室だけにこだまする。

陶器でできたバスタブと同じ月白色の石鹸置きから、準備しておいた正方形をつまみ上げる。
持ち上げただけで、手のぬくもりから表面が溶け出していく。
隠し味に、手の中のバターをひとかけら落とすと、
ゆっくりと、お酒のように時間をかけながら、自分の体が熟成するのを待つ。

甘い匂いが体に染み込んだそのあとには、くすっと笑いがこみ上げてくる。

「なあんだ。私、パンケーキになっちゃったんだわ」

くすくす、けらけら、響く声。

これは、たまごになりたかった変わり者のウサギさんのおはなし。

***
「酒」と「交」と「卵」を全部使って文章を作りましょう。
2012/03/01

 

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