▽碧色の目玉
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熱があるからと押し込められたベッドの中から見えるのは、退屈でつまらない四角い空間。
魔法の効かないこの部屋では、ビロード張りの天井を月明かりの虹糸が引くこともなく、音を立てながら落ちていくピカピカの星屑も見えない。
ベッドの脇に虚ろな目を向ければ、使いの猫は知らんぷりをした。

「はくじょうなやつ…」そう言って、暗闇にぼんやりと光る夜行布で出来たお気に入りのローブを、せめてもと、床から引っ張り上げると肌触りの良さを確認しながら体に巻きつけた。

私の体は、上も下も無くなって、ふわふわと浮きあがる。
けれど足は地面についたままだ。

りんごのように赤く火照った顔を、下界からやってきた偉大なる魔女が扉を開き、優しく撫でた。
本当は魔法なんてどこにもないってわかっているのに、このおまじないは特別。

眠りに就く前、魔女のフリをしたわたしは、丸々一個、摺り下ろしたりんご入りのグラスをお酒に見立てて一気に飲み干す。
優しく広がる黄色い味に満たされた私のおなかは、意識の底でおいしいね、と、声を漏らした。

遠くでパタリと扉が閉じていく。

それまで無言で始終を見ていた灰色猫は、一声、ニャーとあたりを確認するように声をあげる。

光りの届かないまっくら闇の中で、碧色の目玉が二つキラリと光ると、後の時間は猫だけのものになる。

「…やれやれ」

***
お題:「顔」と「熱」と「酒」を全部使って文章を作りましょう
2012/03/01

 

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