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男性がローと抱き締めあった日から何日かが過ぎた。あの日からローのスキンシップが激しくなったように思う。以前は男性の方から触れ合いに行く事の方が多かったというのに、ローに対する気持ちを自覚してからはなかなか気軽にローに触れる事が出来なくなったのだ。それに反比例する様に、ローは暇だと思えば男性にのしかかったり、腰に腕を回してきたりと男性に触れてくる事が多くなってきた。事実、今もソファに座っている男性の太腿に頭を置いて寝転がって、所謂膝枕状態だ。
「……ロー、」
「なんだ、男性。」
「はあ、ローが良いなら良いけど膝枕って、女の子にやってもらった方が気持ち良くない?」
溜息を吐きながら頭を撫ぜると、ローは気持ち良さそうに目を細める。猫みたいだ。
「俺は、男性がいい。」
「海賊の船長のお眼鏡にかなって何よりですよ。」
そう言うと、一気に深まる眉間の皺。あれから時たまローの事を「船長」や「キャプテン」と呼ぶようになったのだが、そう呼ぶとローの機嫌が急降下する。男性は距離を置こうとしているため別に構わないのだが、実害が出る可能性があるためそこは気を付けたいところだ。


「あ、ねえロー、海行かない?」
「海?」
「そう、海!こっちの世界来てから1回も海見てないでしょ?相変わらず外は暑いし、」
海水浴に行こうよ。そう言うとローは苦虫を噛み潰したような顔をする。ああ、そう言えば能力者はカナヅチなのだったと思い出す。
「あ、ごめん海に入れないの忘れてた。海に入れなくてもいいから取り敢えず行ってみよ?」
海に入れるかは関係なく、ローを海に連れていきたかったのだ。ローも満更ではないようで、先程作った眉間の皺を和らげこちらを見ている。
「……行く。」
ローの了解も得たので海に行く支度をする。と言っても着替えるだけなのだが。男性は水着も持っていくことにした。


海へは電車で行かなくてはならないため、最寄りの駅へ行く。夏休みのせいもあってか駅はとても混んでいる。ローにはぐれないようい伝え構内を進んでいく。
ホームに着き、後ろを振り返ると居るはずのローが居なかったため、慌てて来た道を戻る。人混みのせいで進めないでいるローを見つけた。
「っロー!」
声を掛けると眉尻を下げて安心した表情をするロー。
「ごめんね。置いて行っちゃって……。」
「……これで許してやる。」
下を向いて男性の手を取るロー。申し訳なさがある為、素直にその手を握り返す。そのままホームに行き電車へ乗り込む。電車内も混んで居たため、ローにドア側に立ってもらい少しでもローのスペースを取るため、ローを両腕で挟むように立つ。お互いの息がかかり、心臓が激しく動く。意識しないようにと思っていても、ローに対する気持ちが消えた訳では無いのでこれだけ近いと難しいものだ。
男性は早く目的地に着くことを祈るしかなかった。




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