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ロー視点


久し振りに熟睡できた気がする。と目を開いたら男性に包まれていた。そう言えば一度起こされて、拘束を解いたなと完全には起きていない頭で考える。昨夜の事を思い出すと、顔に熱が集まるのが分かる。この世界に来た時から、格好いいだの可愛いだの散々恥ずかしい事を言って人をからかって、挙句の果てに昨日は抱き締めてくると来たものだ完全にふざけている。
ローだって男が好きな訳では無い。好き合った女は居ないが、抱いて来たのは全て女だ。男性同士の知識がない訳では無いが、自分には縁のない話だと思っている。しかし、昨日抱き締められた時の感情に嫌悪感など一つもなくて、寧ろ離れていこうとする腕が惜しく、自ら男性に抱き着いたくらいだ。まさか自分がそんな行動に出るなんて微塵も思っていなくて歯噛みする。

そうこうしている内に男性がもそりと動いた。
「……あれ、ロー起きてたの。」
寝起き特有の掠れた低い声に背筋が痺れる。ローの頭に顔を埋めていた男性はその感触を確かめるように動かす。
「……今起きた。」
「そ、か……」
その言葉が続くことはなく、上からは男性の規則正しい寝息が聞こえる。また寝たのだ。完全に意識が覚めてしまったローは顔を赤くしながら、男性が再び目覚めるのを待つことにした。


結局、男性の目が覚めたのは太陽が高く上ってからで、その間ローは動くに動けず、ひたすら男性の胸元に顔を埋めていた。
「いやあ〜、良く寝た!」
呑気に伸びをする男性に殺意さえ芽生える。
「また寝たのはゴメンだけど、そんなに睨まないでよ。」
少し冷や汗を掻きながら男性が謝ってくる。
「……別に睨んでねぇ。」
はあ、と大仰に溜息をついてみせるとびくりと肩を震わせる男性。ローはソファに座っている男性の背中へ伸し掛る。
「……ロー、重いよ。」
「うるせぇ。」
男性の背中へ体重を掛けるとぐえっと蛙が鳴いたような声がして、思わずくくっと笑い声が漏れる。
「なんか、楽しそうだね。」
「ああ、楽しいね。」

自身の男性に対する想いには気付かない振りをして、今はただこの、のんびりとした状況を楽しみたいと思った。





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