新しい世界へ 


「おれのモノになれ。」

出会って早々、うつむき加減で妙なことを言ってきたこの男には見覚えがある。見覚えがあると言っても、見たのはニュース・クーに挟まれていた手配書でだ。確か名前はトラファルガー・ロー、「死の外科医」なんておっかない二つ名がついた海賊だったはずだ。懸賞金の額も相当なものだったと思う。
「どうして自分に……?」
おれのモノになれと言いながら、一度も顔をあげない彼の顔を覗き込み当然の疑問をぶつけると、彼は悲鳴を上げて仰け反った。口許を手で隠しているがその顔は赤に染まっている。
「もしかして体調悪い?家が近いから少し休んでいきますか?」
熱があるなら大変だと彼の腕を引こうと手を伸ばすと、腕に何かが当たる感触がして自分の肘から先が無くなったのがわかった。少し焦って視線を巡らすと、移動したのか少し離れた位置に居た彼の腕の中に自分のものと思われる腕を見つけた。
「……腕を返して欲しければ、おれの船に乗れ。」
泣きそうな顔をしてそう言うと、呆然としている自分を残して彼は踵を返してどこかへと歩いていってしまった。


それからほぼ一週間が経った。あの日から毎日のようにローさんは自分の元へ勧誘にくる。名前を呼んでいるのは、二日目に名前で呼べと言われたからだ。ちなみに腕はまだ返ってきていない。腕を取られた日の夜に、どうやって見つけたのか知らないが、ローさんの仲間のペンギンとかいう男の人が家まで謝りに来た。彼曰く、ローさんは欲しいものが出来たら必ず手に入れる人で、今回も自分が折れなければ腕は返ってこないそうだ。あと、ログの関係でこの島にいるのは一週間だからそれまでに腹を括って欲しいとも言っていた。

腹を括れと言われても、海賊になる気は全くない。しかし、せっかく寄せられている好意を無下にすることも出来ず今日まで来た。明日にはローさんたちはこの島から出ていき、自分の返事がノーなら腕は一生返ってこない。幸いにも今は大切に扱われているようだが、拒否するとどうなるかは想像もしたくない。


「男性、どうしてもおれのモノにはなってくれねェのか?」
当然のように自分の家に来て、ここ一週間で彼の指定席となった椅子に座っているローさんが憂いを含んだ表情でこちらに問うてくる。正直この顔はずるい、すごく断りにくい。たった一週間とはいえ、毎日自分に会いに来てくれていることで、ローさんにはすごく親しみが湧いている。顔は凶悪だし、性格は自己中心的のようだが、なぜだか放っておけない。しかし彼の仲間になるのは別だ。自分は生まれてこの方、島からでたことがない一般島民で、海賊ましてや巨額の賞金首の仲間になるなんてどう考えても無理だ。その事をローさんは分かっているのだろうか。
「ローさん……、」
「おれのモノになってくれるのか。」
「いえ、そうじゃなくて、自分そもそもこの島から出たことがない一般人で海のことも全く知らないんです。海賊ならば戦闘とかあるでしょう?そういうのは以ての外なんですが……。」
いい返事を期待したであろうローさんの顔は続く言葉に難しいものへと変わっていく。
「それに自分にはなんの特技もないですし、ローさんをはじめとした他の仲間の方々の荷物にしかならないと思うのですが……。」
もう一言付け加えると、ローさんの眉間の皺はこれでもかという程に深くなった。ここまで言えば彼も自分のことを諦めるだろう、そう思ったが現実はそこまで甘くなかった。
「なんだ、ンなこと気にしてたのか。そんなことは関係ねェ、おれが欲しいと言ったらお前は素直に着いてくればいいんだ。足手まといとかそんなこと男性は考えなくていい。」
きっぱりと言い切ったローさんは凛としていて、この人には勝てないなと思った。諦めのため息をつくとさっきまでの威勢はどこへやら、少し泣きそうな顔をしているローさん。
「……分かった、明日港に向かうよ。腕はちゃんと返してくれるんだよね。」
そういえば感極まったのかローさんは自分へと抱きついてきた。
「ちょ、ローさんっ!」
焦り声を出すと、自身が何をしたのかを把握したローさんは慌てて自分から離れる。そして顔を赤くしながらも咳払いをして取り繕いながらこちらを指さすと、出航は昼だと告げてそのまま家から出ていった。
一息ついて家の中を見渡す。生まれてからずっと過ごしてきたこの家を離れるのは寂しいが、新しい世界に飛びだすのも悪くない。ローさんを含めてお世話になる人たちもいい人そうだし、とここ数日町で声を掛けてきたペンギンさんと同じつなぎを着た人たちを思い出す。


翌日、待ちきれなかったローさんが、ペンギンさんと大きなシロクマを連れて荷造りを手伝いに来たのは別の話だ。
ちなみに、腕は島を離れてしばらく経ってから返してもらえた。そんなに信用がなかったのだろうか。あと、ローさんのスキンシップもだいぶ激しいものになったと思う。



たいっっへんお待たせ致しました。
匿名様リクエストで、「一般人な夢主にローが一目惚れしてどうにかこうにか船に乗せようとする話」です。優男な感じとありましたが優男になってますかね?あとローさんの乙女感も少ない感じがする……!書き直し受け付けます……(汗)
気に入って頂けますように。リクエストありがとうございました!




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