冷たい声 


「……もういい」
荒々しく閉まるドアをローは呆然として見つめる。
男性を怒らせた。言い合いをしたことなら何度かある。原因は大抵ローにあるのだが、最終的には男性が笑って許してくれるのだ。だから今回もそうやって、笑って許してくれるものだと思っていた。

男性を怒らせて数日、あの日から男性がローの部屋を訪れることは無い。いつもなら男性がしている報告も、この数日はペンギンがしている。船内でも、食事の時ですら男性の姿を見ることはない。避けられている。それくらいすぐに分かる。今日も男性の姿を探して船内を歩いているとシャチの声が聞こえた。
「男性〜、いい加減船長と仲直りしてくれよ。」
シャチが泣きそうな声で訴える相手の名前に胸が高まる。姿を見ようと出した足が、聞こえてきた言葉に動かなくなる。
「いや、今回はローが謝らないと許せないよ。最悪別れるかも。」
「はあ?ばっ、お前ンな事言ったらキャプテンにバラされるぞ!最悪殺されんじゃねぇの?!」
「別にいいよ。それくらい俺はローに怒ってるし。まあ、仮にバラされたとしたら余計にローには幻滅するけどね。」
そう静かに言い放った男性の声はローが今までに聞いたことがないほどに冷たく、その本気度が窺える。ローは唇を強く噛み締め、能力を使い自室に戻った。


男性は気が付くとローの部屋に居た。食堂をから出ていこうとドアを開けたらここに居たのだ。大方、ローの能力で移動させられたのだろう、自分がいた所には本か何か落ちているはずだ。男性は小さく舌打ちをして前を見据える。革張りのソファに座っているローは俯いていて表情は確認出来ない。
「……何?俺、そんな暇じゃないんだけど。」
「……」
口から出た声が思っていたよりも低く冷たいものだったことに男性は驚いた。その声音にローの肩は反応するが顔を上げる様子はない。男性は溜息をつき部屋から出ていこうと踵を返したところで、クンっと服を引っ張られ足が止まる。振り返るとローがいて"悪かった"と口が動いているのがわかった。
「……聞こえないんだけど。」
「っ……わるかっ、た……」
先程よりも幾分か感情を抑えて再度促すと涙交じりで小さくはあるがはっきりとローの口から謝罪の言葉を聞くことが出来た。男性はローの方へ向き直るとその腕にローを閉じ込める。静かに涙を流すローの目元を拭って今度こそ優しく声を掛ける。
「もう、あんな事しない?」
コクコクと頷くローに満足して男性は彼を強く抱き締めた。





大変お待たせして申し訳ありません!!
悠莉様リクエストで、「夢ぬし♂と喧嘩して素直に謝れないロー」です。謝れないというか、夢主が謝らせない感じになってしまいました……。
喧嘩の原因は嫉妬してもらうおと浮気を偽装したローにそういう嘘が嫌いな夢主が怒るみたいな感じでお願いします。
気に入って頂けますように。リクエストありがとうございました!




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