放物線を描く「好き」の気持ち 


「せんちょー!」

甲板に出ると船首の方から自分を呼ぶ声が聞こえる。視線をやるとクルーの男性が大きく手を振りながらこちらを見ている。太陽の眩しさに目を細めながら足を進める。男性のもとまで行くと、勢いよく抱き竦められる。かあっと熱くなる顔面に離れようと胸を押すが、鍛え上げられた身体はびくともしない。
「おい!男性っ!」
「なに?離してほしいの?」
耳元で発せられる低い声に腰が抜けそうになる。つなぎの胸元を握り、耐えているとくつくつと頭上で笑う声が聞こえる。
「笑うな……っ!」
ごめんごめんと男性の腕の力が弱まる。赤い顔を見られないように帽子のつばを下げ男性に背を向ける。

「あー、ロー可愛い。」
今度は後ろから伸し掛ってくる男性の鳩尾に肘をいれようとするもそれはいとも容易く防がれた。ちっ、と隠しきれない舌打ちが漏れるが構わない。この男にはこれぐらいしないと自分の威厳が保てないのだ。大人しく抱きしめられようとしてふとここがどこだか思い出す。周りを見ると自分たちから目を逸らそうとしているクルー達の姿が目に入る。
「っ、!」
手に持っていた鬼哭を抜き男性を半分にする。ドス、と重い音がして男性の上半身が甲板に落ちた。
「っと、いきなりバラすとか酷くない?」
そんな声を聞きながら慌てて船内へ戻ろうと扉へ向かい中へ入ろうとする。
「ロー!」
名前を呼ばれて振り返ると、男性が自らの口元に手を当てそれを飛ばしてきた。払い落とそうと手を出すが、考え直して受け取り口元へ持っていく。払い落とされると思っていたであろう男性の目が軽く見張るのでにやりと笑い返すと、優しく微笑まれた。自分にしか見せないその笑顔に胸が高鳴る。
どうやら、自分は一生あの男には勝てないらしい。




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